分析記事 GX技術・イノベーション · インダストリー · マテリアル/ 水素/SAF · 業界別ケース · 用語・基礎 · 用語解説

PTL(パワー・トゥ・リキッド)とは|再エネ電力でe-fuel(合成燃料)を製造する技術

PtL(Power to Liquid)は、電力から液体燃料への変換を指す用語です。この技術は、再生可能エネルギー源から得られた電力を使用して、水や二酸化炭素などの原料を合成燃料に変換するプロセスを指します。PtL技術は、持続可能なエネルギー源を活用し、従来の石油由来の燃料に代替することを目指しています。

  1. 概要
  2. 図解
  3. まとめ

概要

PtL技術の一例としては、再生可能エネルギーで生成された電力を使用して水を電気分解し、水素と酸素を生成します。そして、この水素と二酸化炭素を使用して、さまざまな合成燃料(例:メタノール、ジメチルエーテル、燃料ジェットA-1など)を生産することが可能です。このようにして生成された液体燃料は、従来の石油由来の燃料と同様に使用できますが、二酸化炭素の排出量を削減し、環境への影響を低減することができます。

図解

こちらの動画がわかりやすくその仕組みを解説してくれています。

出典:What is Power-to-Liquid? The technology explained in a simple and short manner.

PtLのエネルギー収支と原料の必要量

PtLの立地と採算は、最終的に「燃料1トンを合成するのに何MWhの電力と何トンのCO₂が必要か」という物量に還元される。炭化水素系の液体燃料は質量比で炭素が85%前後、水素が15%前後を占めるため、炭素収支から逆算すると燃料1トンにCO₂が3トン強、水素が0.4〜0.5トン必要になるという概算が成り立つ。水素1トンの製造に要する電力は電解装置の方式と効率次第で50〜55MWh程度とされるので、水素製造だけで燃料1トンあたり20〜25MWh、これにRWGS(逆水性ガスシフト)やFT合成、精製、そしてDACの熱と電力を加えると25〜35MWh規模に達するという試算が多い。

項目 燃料1トンあたりの概算 読み方
必要CO₂ 3.0〜3.4トン 炭素収支からほぼ一意に決まる。技術革新で減らせない下限
必要水素 0.4〜0.5トン 合成ルートと未反応分の再循環率で変動
必要電力 25〜35MWh(推計) 水素製造が7〜8割。DAC併設分は別途上乗せ
電力→燃料の総合効率 40〜50%程度とされる 中間の水素・熱損失の累積。電気自動車の直接電化とは桁が違う

この物量感は重要な含意を持つ。ジェット燃料1リットル(約0.8kg)を合成するのに20〜25kWh相当の電力が必要という水準であり、電化できる用途をPtLで代替するのは熱力学的に不利である。PtLの正当な出番は、電池やパンタグラフで置き換えられない長距離航空・外航海運・一部の化学原料に限られる。用途選定を誤ると、限られた再エネ電力を最も効率の悪い経路に流し込むことになる。

コスト構造の分解と感度の見方

PtLのコストを「高い・安い」で語っても意思決定には使えない。均等化燃料コスト(LCOF)を分解すると、電力費が5〜7割、電解装置と合成・精製設備のCAPEX償却が2〜3割、CO₂調達費が1〜2割(DAC採用時はさらに大きい)という構成になるとされる。したがって効く変数は限られる。

変数 効き方 実務上の論点
電力単価 LCOFにほぼ比例。最大の支配要因 良質な風況・日射の地点でのPPA価格が事業の生死を決める
設備稼働率 低いほどCAPEX単価が上昇 安い変動電源と高稼働は本質的に両立しない
電解装置の設備費 大規模化・量産で低下が見込まれる 100MW級以上のスタック調達枠の確保が先行条件
CO₂調達費 DACか産業排気かで一桁変わる 安い排気は立地を縛り、DACは自由度と引き換えに高い

特に見落とされやすいのが、電力単価と稼働率のトレードオフである。最安の電力を得ようとすれば変動電源に依存し、稼働率が落ちてCAPEX単価が跳ね上がる。逆に系統電力で高稼働を狙えば、電力単価が上がるうえに、再エネ由来であることの証明が難しくなる。FT合成は温度・圧力を一定に保つ運転が望ましく、負荷変動への追従性が低い。このため実際のプロジェクトは、電解装置を変動運転させつつ水素タンクや小規模蓄電でバッファを設け、下流の合成工程だけを定常運転させる構成を採る。設計思想としては「どこに変動を吸収させるか」の配置問題であり、この一点で事業のコストが大きく分かれる。

制度が需要をつくる仕組み

PtLは現時点でコスト競争力を持たないため、需要は市場ではなく制度が形成する。ここで決定的なのは、SAF全体の混合義務とは別に「合成燃料だけの副義務」が設けられているかどうかである。

EUの航空燃料規則(ReFuelEU Aviation、2023年採択)は、EU域内の空港で給油される燃料に対するSAF混合義務を段階的に引き上げ、そのうち一定割合を合成燃料(RFNBO)で満たすことを別途求めるとされる。副義務は2030年前後に1%台から始まり、2030年代半ばに数%、2040年代にかけて二桁へと上がる設計である。HEFA原料である廃食油の供給量には物理的な上限があるため、この副義務はPtLへの需要を制度的に確保する装置として機能する。

さらに、その燃料がRFNBOとして認められるかは電力調達の設計で決まる。EUの再生可能エネルギー指令(RED III)の委任規則は、追加性(新規の再エネ設備であること)、時間的相関(当初は月次、2030年以降は時間単位での一致)、地理的相関(同一の入札ゾーン)を要件としているとされる。つまり同じ設備で同じ燃料をつくっても、PPAの契約形態と計量の粒度によって制度上の資格が変わる。技術ではなく契約書が燃料の価値を決める領域である。

日本側では、2030年に本邦エアラインの燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標が経済産業省・国土交通省から示されている。ただし内訳でPtLを何%とするかの規定は置かれておらず、当面はHEFAやATJが主力となる見込みである。NEDOのグリーンイノベーション基金による実証が先行し、商業化は2030年代という位置づけになる。

日本企業の実務への示唆

第一に、立地戦略を国内前提で考えない。国内の再エネ電力単価と設備稼働率では、チリ・豪州・中東・北欧の適地に対してコストで競争しにくい。一方で液体燃料は常温・常圧で扱えるため、液化水素やアンモニアと比べて既存のタンカー・タンク・配管をそのまま使える。「海外で安い電力から合成し、液体のまま持ち込む」構図が現実的であり、日本企業の勝ち筋は製造地の確保、電解装置・触媒・プラント建設の供給、そしてオフテイク(長期購入)にある。

第二に、オフテイク契約の設計を早めに検討する。供給量が限られる市場では、価格プレミアムを払える企業から順に枠が押さえられる。Book and Claim(物理的に同一の燃料を受け取らずに環境価値だけを移転する方式)を使えば給油地に縛られず調達できるが、削減量を自社の開示に使う場合は、登録簿での償却、二重計上の防止、第三者検証の有無を確認する必要がある。GHGプロトコル上の扱いは整備途上であり、開示にあたっては算定根拠を説明できる状態にしておくことが前提になる。

第三に、自社のどの排出にあてるかを決めておく。航空はScope 1(自社運航)を持つ企業が限られ、多くの事業会社では出張(Scope 3カテゴリ6)や輸送(カテゴリ4)に紐づく。荷主・旅客側の共同購入イニシアチブに参加してプレミアムを分担する形が、単独調達より現実的な選択となる。

第四に、技術的な制約を織り込む。PtL由来の合成パラフィン系ケロシンは芳香族をほとんど含まないため、既存機材での使用には混合上限が課される。100%使用(完全なドロップイン)には新たな規格整備が必要とされる。もっとも芳香族が少ないことは煤の生成が少なく、飛行機雲(コントレイル)による非CO₂の温暖化影響を抑える利点になるとも指摘されている。CO₂だけを見た評価では、この便益を取り落とす。

最後に、投資判断の時間軸を制度のカレンダーに合わせる。副義務の立ち上がり時期、電解装置の調達リードタイム、適地のPPA枠はいずれも数年単位で埋まっていく。2030年代の商業化を待って動くのでは、製造地も供給枠も確保できない可能性が高い。

まとめ

PtL技術は、再生可能エネルギーの普及と持続可能なエネルギー源への移行を促進するために重要です。特に、交通機関や産業分野において、二酸化炭素の排出削減が求められる中、PtL技術は有望な解決策として注目されています。


PtL(Power-to-Liquid)の主要合成ルート

PtLは再生可能電力(電解水素)とCO₂を原料に液体燃料を合成する技術。合成ルートは以下の3つに大別される。

合成ルート 主要プロセス 生成物 技術成熟度(TRL) 主な用途
FT(フィッシャー・トロプシュ)法 CO₂+H₂ → CO+H₂(RWGS) → FT合成 → 精製 PtL-SAF(ジェット燃料)・軽油・ナフサ TRL 5〜7(2024年時点) 航空燃料(SAF)・船舶燃料
メタノール経由(MtJ/MtF) CO₂+H₂ → メタノール → MTJ/MTG/MTO SAF・ガソリン・オレフィン TRL 5〜8(メタノール合成はTRL8+) 航空燃料・化学原料
DME(ジメチルエーテル)経由 CO₂+H₂ → メタノール → DME DME(代替LPG・船舶燃料) TRL 5〜6 船舶・トラック・発電

CO₂調達源別の特性比較

PtLの「カーボン・ニュートラル性」はCO₂をどこから調達するかで大きく変わる。

CO₂調達源 CI(炭素強度)の扱い 調達コスト スケーラビリティ
DAC(直接空気回収) 大気中のCO₂を再利用 → 燃焼してもゼロ排出(理論上) $300〜600/t-CO₂(2024)→将来$100目標 高い(場所を選ばない)
産業排気(バイオエネルギー等) バイオマス由来ならCO₂ニュートラル。化石由来はCO₂がカウントされる $20〜80/t-CO₂ 発生源に立地制約あり
下水処理・廃棄物由来CO₂ 生物起源CO₂ → バイオSAFとして認証可能 $30〜100/t-CO₂ 中程度(廃棄物量に依存)

商業プロジェクト事例

プロジェクト 場所 規模 技術・パートナー 状況(2024年末時点)
HIF Global eFuels(ハル・ルカ) チリ・パタゴニア 550万L/年(2022試験プラント)→商業スケール計画中 Siemens Energy電解槽、風力電力 試験稼働中。Porsche・BPなどがeFuels顧客として参加
Norsk e-Fuel(ノルウェー) ノルウェー・ヘレー 10,000t-SAF/年(第1フェーズ)→2030年迄に25万t目標 Sunfire電解槽、Nordic Dacs FEED完了・FIDに向け準備中。SAS・Airなどが購入契約
Ørsted FlagshipONE(スウェーデン) スウェーデン・エルノシェルツ 5万t-eMethanol/年 Nel電解槽・MtJ技術 2024年頃着工。Maersk(船舶用eMethanol)が購入契約
日本:国内実証(NEDO GIファンド) 日本各地 小規模実証段階 出光興産・日揮・IHI等が参加 CO₂とグリーン水素を使ったPtL-SAF実証。2030年代商業化目標

SAF製造法別コスト・CI比較(PtLの位置づけ)

SAF製造法 現在のコスト(概算) CI値(gCO₂e/MJ) ASTM認証
HEFA(廃食油・油脂由来) $1,200〜2,000/t −40〜+30(原料依存) D7566 Annex A2(承認済)
FT-SPK(ガス化→FT) $1,500〜3,000/t −30〜+20 D7566 Annex A1(承認済)
ATJ(エタノール→ジェット) $1,500〜2,500/t −20〜+40 D7566 Annex A5(最大10%ブレンド)
PtL(e-Fuel, DAC+再エネ) $3,000〜8,000/t(2024) −80〜0(再エネ源次第) D7566 Annex A7(承認済・最大50%ブレンド)

PtLの課題と展望:現在のコストはHEFAの3〜5倍で高価だが、再エネコスト低下・電解槽の大規模化・CO₂調達コスト低減により2030〜2035年に$2,000〜3,000/t台まで下がると見込む試算もある(IEA/IRENA)。ICAO(国際民間航空機関)の「CORSIA」はPtLを認証済みSAFとして認めており、航空会社・石油会社の購入義務を満たせる。

\ 最新情報をチェック /

初回30分の無料相談(オンライン)

この記事のテーマを自社でどう進めるか。Climate tech news(CTJPN)編集部が30分お話を伺い、論点と進め方を一緒に整理します。初回の30分は無料です。

例: 排出量の算定・開示の進め方/カーボンクレジットの調達・創出の判断/制度対応の優先順位。講演・社内勉強会のご依頼も受け付けています。

無料相談を申し込む(30分・オンライン)