分析記事 GX技術・イノベーション

合成燃料(e-fuel)の削減量はCO2の出どころで変わる — 工場排ガス由来と大気由来の違いと、削減を誰が計上するか

(本稿の情報は2026年10月時点)

この記事の結論

  • e-fuel の削減価値は分子ではなく炭素源で決まり、化石由来の工場排ガスを使う限り大気中 CO2 ストックは減らず、放出時点の遅延に留まる。
  • EU の委任規則 (EU) 2023/1185 は化石由来 CO2 を発電由来 2035 年・その他産業由来 2040 年までしか認めず、安い炭素源ほど制度上の寿命が短い逆相関が投資判断を縛る。
  • 日本では GX-ETS の CCU 計上方法と SAF 導入目標の算定方法がともに未確定であり、炭素源の切り替え余地と no-double-claiming 条項による削減の帰属の一意化が事業の最低条件になる。

同じ製法、同じ熱量、同じ排ガス規制適合性。それでも e-fuel の削減量は、ゼロか満額かに割れる。原料 CO2 を製鉄所の排ガスから採るか、大気から直接回収するかという調達の一点で、認められる削減量と、それを計上できる主体が変わるからだ。物理的には区別のつかない分子に対して、制度が意図的に異なる値段を付けている。この価格差は制度の気まぐれではなく、炭素のマスバランスを素直に追えば導かれる帰結である。

同じ分子、違う削減量 — e-fuel 1 リットルの物理と計上のズレ

e-fuel の燃焼時排出は炭素源にかかわらず同じだ。ディーゼル相当の合成燃料なら、軽油と同程度の 1 リットルあたり約 2.6 kg-CO2 が排気管から出る(軽油の排出係数は環境省の算定・報告・公表制度の係数から換算した近似値であり、合成パラフィン系燃料は密度と炭素含有率が軽油と異なるため厳密には一致しない)。この数値は炭素源が DAC だろうが製鉄所の高炉ガスだろうが変わらない。削減の実体は、燃焼時に出すその CO2 をどこから持ってきたかだけで決まる。

物理的インパクトの定義を先に固定したい。測るべきものは大気中 CO2 ストックの正味変化である。系の境界を地球大気に置いて、そこへの流入と流出を数える。

大気から直接回収した CO2 で e-fuel を作り、それを燃やす場合、大気から 1 トン抜いて 1 トン戻す。ストックの正味変化はゼロだ。化石燃料を燃やす場合と比べれば、化石炭素の新規流入が丸ごと回避されている。削減量は置き換えられた化石燃料の排出量にほぼ等しい(回収・合成・輸送のエネルギー投入分を差し引いた後の値)。

製鉄所の排ガスから回収した CO2 を使う場合は構図が違う。地中から掘り出された石炭由来の炭素が、製鉄プロセスを経て排ガスに現れ、それを回収して燃料に変え、最終的に燃焼で大気へ出る。大気への流入は 1 回だけだが、流入そのものは消えていない。起きたのは放出時点の遅延であり、ストックへの寄与は化石炭素 1 トン分のままだ。炭素原子の視点で言えば、製鉄所の煙突から出るか自動車の排気管から出るかの違いしかない。

この構造を押さえると、二重計上がどこで発生するかが見える。製鉄所が「CO2 を回収したので自社排出を削減した」と主張し、同時に燃料使用者が「カーボンニュートラル燃料を使ったので削減した」と主張すると、実際には 1 トンしか減っていない(厳密には遅延しただけ)ところに 2 トンの削減クレジットが生まれる。物理と計上が乖離する典型例だ。

バイオ起源 CO2 は中間に位置する。バイオマスの成長時に大気から吸収された炭素なので、流入点は大気側にある。ただし土地利用変化や収穫サイクルの長さで実質的な中立性が揺らぐため、制度上は DAC と同列には扱われないことが多い。

EU の RFNBO 規則が炭素源に何を要求しているか

欧州連合の制度設計は、この物理の帰結を正面から制度に落とし込んでいる。再生可能エネルギー指令(RED III、指令 (EU) 2023/2413)の下で、非生物起源の再生可能燃料(RFNBO)と再生炭素燃料が満たすべき温室効果ガス削減の算定方法を定めたのが委任規則 (EU) 2023/1185 である。同じ 2023 年に公表された委任規則 (EU) 2023/1184 は、再生可能電力の追加性や時間的・地理的な相関といった製造側の条件を定める別の規則であり、削減量の算定方法は 1185 側にある。要求される削減率は化石燃料比較基準(94 gCO2e/MJ)に対して 70%。これが入口の条件になる。

炭素源の適格性については、化石由来 CO2 の利用を無期限には認めない構造が採られている。委任規則は回収 CO2 の由来を区分し、発電部門から回収された CO2 と、それ以外の産業プロセスから回収された CO2 で扱いを分けている。発電部門で非持続可能な燃料を燃焼させて生じた CO2 を回収した場合、それを回避された排出として算定できるのは 2035 年までである。それ以外の用途から回収された CO2 は 2040 年まで認められる。発電部門の期限が早いのは、その時点までに当該排出の多くが削減されているべきだという前提に立つためであり、他部門の排出はより長く残るという判断が 2040 年の側に反映されている。期限の経過後は、回収 CO2 の排出が燃料側の排出として算定に乗る。両方の年次は、EU ETS の対象部門における 2040 年の気候目標の実施状況を踏まえた見直しの対象とされている。

この期限条項の狙いは明確である。化石由来の CO2 を使う CCU は、化石燃料からの脱却を遅らせる方向に働く。排ガスに経済価値が付けば、排ガスを出し続ける設備の存続インセンティブが生まれるからだ。移行期の橋渡しとしては認めるが、恒久的な解とは認めない。制度の時間軸がそう設計されている。

二重計上の排除は、性格の異なる二つの法令にまたがる。一つは EU 排出量取引制度(EU ETS)側だ。指令 (EU) 2023/959 による改正で、回収された CO2 が恒久的に化学的に結合した製品に利用される場合の排出義務の扱いが整理されている。e-fuel は燃焼で CO2 を大気へ戻すため、恒久的結合には当たらない。もう一つは委任規則 2023/1185 側で、燃料のライフサイクル算定において回収 CO2 の排出をどちらの側に帰属させるかを定める。前者は排出者の義務、後者は燃料の削減主張を規律しており、両者が噛み合うことで同じ 1 トンに二重の便益が立たない構造になる。

実務上の帰結は厳しい。EU ETS 対象の製鉄所や発電所から CO2 を買う e-fuel 製造者は、排出者側がその CO2 を自社の排出削減として計上していないことを契約で確認しなければ、燃料の RFNBO 適格性を主張できない。炭素源の調達交渉は、分子の売買ではなく削減の主張権の売買になる。

GHG プロトコルは CCU 由来燃料をどう扱うか

企業の自主開示側のルールも同じ問題に直面している。GHG プロトコル(WRI/WBCSD)の体系では、燃料の燃焼は使用者の Scope 1、燃料の調達に伴う上流排出は Scope 3 カテゴリ 3 に落ちる。e-fuel を使う企業が削減を主張するには、Scope 1 の燃焼排出をゼロまたは低位に算定できる根拠が要り、その根拠は炭素源の由来情報に依存する。

ここに情報伝達の問題が生じる。燃料使用者は自力で炭素源を検証できない。供給者から由来情報が渡り、第三者がそれを検証し、かつ排出者側が同じ CO2 を削減として計上していないことが担保されるという連鎖が要る。再生可能電力の属性証書と同じ構造だが、e-fuel では証書の仕組みが未成熟だ。

GHG プロトコルは Land Sector and Removals Guidance を公表し、除去と一時貯留の扱いに踏み込んだ。回収炭素が製品に固定される期間が短い場合、それを除去として計上できるかという論点が整理の対象になっている。e-fuel は製造から燃焼までの貯留期間が数か月から数年と極端に短く、除去としての扱いはまず認められない。Corporate Standard の改定作業も継続しており、市場ベース算定の要件が厳格化される方向にある。

現行の実務で防ぎきれていない構図が残る。排出側の企業が CCU への CO2 供給を自社の排出削減として自主開示に載せ、同時に燃料購入側も低炭素燃料への切り替えとして削減を報告する。両者は別々の報告枠組みの中にいるため、どちらの開示を見ても矛盾が検出されない。集計すると実在しない削減が計上される。この穴は制度の不整合ではなく、報告主体が分かれていることの必然的な帰結である。

日本の CCU 排出計上の検討状況

国内では CCU 製品の炭素計上の方法論が検討段階にある。経済産業省のカーボンリサイクルの枠組みと、GX-ETS における CCU の扱いが主な論点だ。ただし GX-ETS そのものは検討段階を終えている。2025 年 5 月に成立した改正 GX 推進法により、2026 年度から直接排出量が過去 3 年度平均で 10 万トン以上の事業者に制度への参加が義務づけられ、排出量の算定・報告と排出枠の償却を求められる段階に入った。制度初年度となる 2026 年度は、対象事業者の指定と移行計画の提出が手続の中心に置かれ、排出枠の割当の実施指針の整備が並行して進んでいる。義務化が始まったことで、対象事業者が CO2 を回収して CCU に供したときに自社排出をどう算定するかは、将来の論点ではなく現在の論点になった。それでも CCU の計上方法自体は確定しておらず、EU のような明示的な期限条項と配分規定が国内に置かれるかは未定である。

航空燃料の側では接点がより具体的だ。2030 年に本邦エアラインの燃料使用量の 10% を SAF に置き換える目標が国として掲げられ、供給側の枠組みの整備が進んでいる。この目標はエネルギー供給構造高度化法の下で燃料供給事業者側の供給目標量として位置づけられる設計であり、同法の判断基準は取組状況が著しく不十分な場合の勧告・命令まで用意している。単なる努力目標ではなく、供給側の義務に接続する枠組みだ。SAF の製法のうち ATJ やバイオ由来の HEFA は原料が生物起源だが、PtL(Power-to-Liquid)は炭素源の選択が開く。製鉄所や化学プラントの排ガスを使った PtL が 10% 目標の算定上どう扱われるかは、国内 PtL プロジェクトの事業性を左右する。

国際航空では CORSIA が別の基準を置く。ICAO の方法論文書では適格燃料(CORSIA Eligible Fuel)にライフサイクル排出の基準が設定され、炭素源の要件も規定される。大気から直接回収した CO2 やバイオ起源の CO2 は燃焼排出を算入しない扱いだが、化石由来の回収 CO2 は、廃ガス・残渣ガスとして定められた条件を満たす場合を除き化石原料として扱われ、燃焼排出がライフサイクル値に算入される。年次の期限で切るのではなく、算定への算入で区別する構造だ。CORSIA と国内 SAF 目標と EU の RFNBO / ReFuelEU Aviation が、それぞれ異なる炭素源の線引きを持つ。同じ燃料が仕向地によって適格・不適格に分かれる状況が生じる。

制度 大気由来(DAC) バイオ起源 産業プロセス排ガス 発電排ガス 期限条項
EU RFNBO(委任規則 2023/1185) 適格 条件付き適格 回避排出として扱えるのは 2040 年まで 回避排出として扱えるのは 2035 年まで あり(由来別・見直し条項付き)
ReFuelEU Aviation 適格 条件付き適格 RFNBO 定義に従う RFNBO 定義に従う RFNBO に準拠
CORSIA(ICAO) 適格 適格(LCA 基準充足時) 廃ガス等の条件を満たす場合を除き化石原料として LCA に算入 化石原料として LCA に算入 年次の期限ではなく算定への算入で区別
日本 SAF 導入目標 算定方法検討中 適格 算定方法検討中 算定方法検討中 未確定
GX-ETS(2026 年度から義務化) 計上方法検討中 計上方法検討中 計上方法検討中 計上方法検討中 未確定
GHG プロトコル(企業開示) 由来情報の検証が条件 由来情報の検証が条件 二重計上排除が条件 二重計上排除が条件 明示規定なし

表を素直に読めば、投資判断上もっとも安全な炭素源は大気由来とバイオ起源であり、産業排ガス由来は制度リスクが最も大きい。EU 向けに輸出する前提の e-fuel プラントが排ガス由来 CO2 を長期契約で押さえると、2035 年または 2040 年の期限到来後に製品が適格性を失う。逆に DAC は制度上の適格性が最も安定している一方で、後述するとおり原価が桁で違う。日本国内向けの事業では GX-ETS の CCU 計上方法と SAF 目標の算定方法が未確定なため、炭素源を固定した設備投資そのものが規制リスクを抱える。

炭素源によって原価と価値がどう割れるか

炭素源の調達コストは CO2 濃度でほぼ決まる。分離に必要なエネルギーは濃度の対数に効くため、希薄な排ガスや大気からの回収は原理的に高くつく。

炭素源 CO2 濃度の目安 回収コスト帯(概算) 制度上の適格性 適格期間(EU) 削減の帰属
高濃度産業排ガス(アンモニア・エタノール発酵) 90〜99% 2,000〜5,000 円/t 由来が化石か生物かで分岐 化石由来は 2040 年まで 契約で一意化が必要
製鉄・セメント排ガス 15〜30% 6,000〜12,000 円/t 移行期間付き 2040 年まで 排出者側の計上と競合
火力発電排ガス 4〜14% 8,000〜15,000 円/t 発電由来として最短の期限 2035 年まで 排出者側の計上と競合
バイオ起源(発酵・バイオマス燃焼) 15〜99% 3,000〜10,000 円/t 条件付き適格 期限なし 燃料側が主張しやすい
大気直接回収(DAC) 0.042% 30,000〜80,000 円/t 適格 期限なし 燃料側に帰属

※回収コストは IEA および NEDO・経済産業省のカーボンリサイクル関連資料で示される公表事例に基づく概算レンジであり、設備規模・立地・熱源価格で大きく振れる。実プロジェクトの値は上端を超えうる。特に DAC は、事業者の公表する現行の実コストがこのレンジの上端を上回る水準にあるとの報道もあり、下端は将来の量産想定に近い値と読むべきだ。
※火力発電排ガスの濃度は燃料種で分かれる。天然ガス火力が 4% 側、石炭火力が 14% 側に対応し、回収コストは濃度が低いガス火力ほど上端に寄る。

ここに逆相関がある。安い炭素源ほど、削減としての寿命が短い。火力発電排ガスの CO2 調達コストは表のレンジで比べると DAC のおよそ 4 分の 1 から 5 分の 1 で済む一方、EU 制度上の適格期間は 2035 年までで最も短い。製鉄所排ガスは 2040 年まで認められるが、やはり期限付きだ。期限なしで使えるのは DAC とバイオ起源であり、そのうち DAC は原価が桁で跳ね上がる。

この逆相関を設備の償却年数と並べると、投資判断の難所が浮かぶ。e-fuel プラントの設備寿命は 20 年から 25 年、金融機関が求める回収期間は 10 年から 15 年のオーダーだ。これに対して化石由来 CO2 の適格期間は、2026 年を起点にすれば発電由来で約 9 年、その他産業由来で約 14 年しか残っていない。排ガス由来の安い炭素源で初期の経済性を作っても、償却の途中で製品の適格性が切れる。炭素源を途中で DAC に切り替えるには、合成設備の前段を作り直すに等しい追加投資が要る。

したがって合理的な設計は、炭素源の切り替え余地を初期設計に織り込むことだ。CO2 の受け入れを複数の濃度帯に対応させ、供給契約を適格期間より短く刻む。原価の安さを取りに行くなら、期限到来を前提にした減損を事業計画に先に織り込んでおく。制度リスクを価格に転嫁できる長期オフテイク契約を取れるかが、実質的な分水嶺になる。

削減を誰が計上するか — 契約と移転の設計

排出者、燃料製造者、燃料使用者の三者が同じ CO2 分子に関わる。削減の主張権は 1 単位しかないので、誰に割り付けるかを契約で一意に決めるほかない。

実務上の選択肢は二つだ。一つは移転。排出者が自社の削減主張を放棄し、その属性を燃料に乗せて下流に渡す。もう一つは分割の明示。排出者が回収分を自社削減として計上する代わりに、燃料側は炭素源を化石由来として算定し、削減を主張しない。前者は燃料のプレミアムを支えるが、排出者は ETS 上の便益を失うため CO2 の売価に転嫁しようとする。後者は燃料が低炭素燃料として売れなくなる。経済的な綱引きの構図がそのまま契約交渉になる。

転用できる先例はいくつかある。再生可能電力の属性証書は、電力という物理的に区別のつかない財に対して環境価値を分離して移転する仕組みを確立した。J-クレジットは同一の削減活動が複数の制度で重複して使われることを防ぐ無効化と償却の手続きを持つ。パリ協定 6 条の相当調整は、国際移転された緩和成果について移転元が自国の NDC 達成に使えなくする仕組みだ。いずれも「移転したら元の主体は使えない」という単一の原則で貫かれている。

e-fuel の炭素源にこれを当てはめると、要るのはレジストリである。回収された CO2 のロットごとに由来と量を登録し、燃料に紐づけて移転を記録し、排出者側の二重主張を機械的に排除する。EU では ReFuelEU Aviation と RFNBO の認証スキームがこの役割を部分的に担うが、国内には対応する仕組みがまだない。

当面の実務的な防御策は契約条項に落ちる。CO2 供給契約に、供給者が当該 CO2 を自社の排出削減・除去・いかなるクレジットとしても主張しないことを明記する no-double-claiming 条項を置く。開示・報告における取り扱いの表明保証を取り、制度変更時の価格改定条項を併せて置く。これが整っていない炭素源は、価格が安く見えても将来の適格性が担保されない。

課題・反論・代替視点

排ガス由来 CCU を「排出の遅延にすぎない」と切り捨てる立論には、無視できない反論がある。

移行期の価値がまず挙がる。製鉄やセメントの排出は短期的にゼロにできない。その排ガスを使って化石燃料由来の輸送燃料を置き換えれば、系全体で見た化石炭素の新規採掘量は確かに減る。炭素原子の流入を 1 回で済ませることは、2 回分の化石燃料を燃やすより大気への影響が小さい。この「化石炭素の 2 回使い」という見方に立てば、排ガス由来 e-fuel は正味の削減を生む。EU が 2035 年・2040 年という期限付きで適格性を認めているのは、この移行期の価値を認めたうえで恒久化を防ぐという二段構えの判断である。

DAC の現実性も反論になる。DAC の回収コストが本稿の概算レンジ上端に近い水準にとどまる限り、e-fuel の製造原価は化石燃料を大きく上回る。適格性が盤石でも売れない燃料に意味はない。排ガス由来でまず市場と設備を立ち上げ、DAC のコストが下がった段階で炭素源を切り替えるという順序は、産業政策としては筋が通る。制度の期限条項がその移行を支えるか、途中で事業を殺すかは、期限の設定が産業の学習曲線と整合しているかにかかる。

物理的インパクトの測り方そのものへの代替視点もある。大気中ストックの正味変化で測る本稿の定義は厳格だが、代替指標として化石炭素の採掘量の削減を取ることもできる。この指標なら排ガス由来 CCU は明確にプラスだ。どちらの指標が正しいかは科学の問題ではなく、何を制度の目的に据えるかの選択である。温度目標に直結するのは大気中ストックだが、産業転換の進捗を見るには採掘量も意味を持つ。

限界も認めておく。本稿の回収コストは公表事例に基づく概算レンジであり、実プロジェクトの値は立地と熱源価格で大きく振れる。EU 委任規則が定める 2035 年・2040 年の期限は、2040 年の気候目標の実施状況に応じた見直しの対象とされており、国内 GX-ETS の CCU 計上方法は未確定である。炭素源別の適格性判断は、制度文書の改定で変わりうる。

日本市場・日本企業への示唆

日本の e-fuel・PtL プロジェクトは、炭素源の選択において EU とは異なる制約下にある。

国内の高濃度 CO2 源は製鉄・セメント・化学に集中しており、いずれも 2026 年度から GX-ETS の義務参加の対象となる大規模排出源だ。EU のように ETS 側の配分規定が明示されていない現状では、排出者が回収分を自社削減として計上できるのか、燃料側に移転できるのかが制度として決まっていない。義務化が始まった以上、この不確実性は制度の確定を待つのではなく契約で埋めるほかない。CO2 供給契約に no-double-claiming 条項と制度確定時の再交渉条項を置くのが、現時点で取りうる最善の防御である。

海外事例をそのまま持ち込めない理由は二つある。一つは地理だ。欧州の e-fuel プロジェクトはチリやモロッコなど安価な再生可能電力の立地に製造設備を置き、炭素源に DAC やバイオ起源を選べる。日本国内で同じ構成を取ると電力価格が原価を押し上げ、DAC の採用は事実上困難になる。国内製造にこだわるなら排ガス由来を選ぶ圧力が強く、制度リスクを引き受けざるを得ない。もう一つは制度の非対称性だ。EU 向け輸出を狙う燃料は RFNBO の期限条項に従う一方、国内の SAF 目標向けは算定方法が未確定である。同じプラントの製品が、仕向地によって異なる適格性判断を受ける。この二重基準への対応を設備設計の段階で織り込めるかが、プロジェクトの生死を分ける。

日本企業に合理的な戦略は、炭素源を固定しない設計と、制度確定までの契約的ヘッジの組み合わせだ。回収設備を複数の濃度帯に対応させる初期投資は、適格期間切れによる減損リスクの保険として評価できる。加えて、国内のレジストリ整備を待つのではなく、GHG プロトコルと EU 認証スキームの両方で通用する由来証明の実務を自社で先に作ることが、将来の輸出適格性の担保になる。燃料の需要家側も同様に、調達する e-fuel の炭素源と削減帰属の証明を契約要件に入れておかないと、自社の Scope 1 削減主張が後から否認されるリスクを負う。

まとめ

e-fuel の価値は分子ではなく炭素のマスバランスで決まる。大気から CO2 を抜いて燃料にし燃やす経路は大気中ストックを増やさないが、化石由来の排ガスを使う経路は放出時点を遅らせるだけで、ストックへの寄与は化石炭素 1 トン分のまま残る。この物理の差を制度が忠実に反映しているのが EU の委任規則 (EU) 2023/1185 であり、回収 CO2 を回避排出として算定できる期間を発電由来は 2035 年、その他産業由来は 2040 年までに限り、排出者側の計上と燃料側の削減主張を一意に割り付ける構造を採っている。ETS 指令側の排出義務の規定と、委任規則側のライフサイクル算定の規定が噛み合うことで、同じ 1 トンに二重の便益が立たない。

事業として重い意味を持つのは、安い炭素源ほど制度上の寿命が短いという逆相関である。火力発電排ガスの CO2 調達コストは DAC のおよそ 4 分の 1 から 5 分の 1 で済む一方、EU 制度上の適格期間は 2035 年までで最も短い。設備寿命 20 年から 25 年の投資に対して、残る適格期間は発電由来で約 9 年しかなく、原価の優位が適格性の喪失で消える構図だ。炭素源の切り替え余地を初期設計に織り込み、供給契約を適格期間より短く刻み、no-double-claiming 条項で削減の帰属を一意化する。これが制度リスクを抱えたまま事業を進めるための最低条件になる。

日本では GX-ETS が 2026 年度に義務参加の段階へ入った一方で、CCU の計上方法と SAF 導入目標の算定方法はともに未確定であり、炭素源を固定した設備投資そのものが規制リスクを帯びる。国内の高濃度 CO2 源が GX-ETS 対象の大規模排出源に集中しているため、排出者と燃料側のどちらが削減を計上するかという論点を避けて通れない。GX-ETS の CCU 計上方法と国内 SAF の算定方法が確定する段階が、国内 e-fuel 投資の分水嶺となる。その時点で炭素源の切り替え余地を持たないプラントは、原価の安さを理由に選んだ炭素源に事業ごと縛られる。


主要出典

  • 欧州連合「Commission Delegated Regulation (EU) 2023/1185(RFNBO・再生炭素燃料の GHG 排出削減算定方法)」 EUR-Lex https://eur-lex.europa.eu/eli/reg_del/2023/1185/oj
  • 欧州連合「Directive (EU) 2023/2413(再生可能エネルギー指令改正、RED III)」 EUR-Lex https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2023/2413/oj
  • 欧州連合「Regulation (EU) 2023/2405(ReFuelEU Aviation)」 EUR-Lex https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2023/2405/oj
  • 欧州連合「Directive (EU) 2023/959(EU ETS 指令改正)」 EUR-Lex https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2023/959/oj
  • GHG Protocol(WRI/WBCSD)「Land Sector and Removals Guidance」および「Corporate Accounting and Reporting Standard」改定作業 https://ghgprotocol.org/
  • 経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」および GX-ETS 関連資料 https://www.meti.go.jp/
  • GXリーグ「GX-ETS 関連資料(排出量取引制度の制度設計)」 https://gx-league.go.jp/
  • 資源エネルギー庁「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会 資料」 https://www.enecho.meti.go.jp/
  • 国際民間航空機関(ICAO)「CORSIA Eligible Fuels — Life Cycle Assessment Methodology」 https://www.icao.int/
  • 国際エネルギー機関(IEA)「合成燃料・CCUS に関する分析」 https://www.iea.org/
  • Jクレジット制度「制度文書(二重計上の防止に関する規定)」 https://japancredit.go.jp/
  • 環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度(排出係数)」 https://www.env.go.jp/

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