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Scope 3 Category 11(販売した製品の使用)の算定と削減戦略 — 自動車・電機・エネルギー業

Scope 3 Category 11(販売した製品の使用)は、自動車・電機・電力・ガス業界にとってScope 3排出量の大半を占める最重要カテゴリだ。「顧客が製品を使う際の排出量」という性質上、削減には製品設計そのものの変革が必要であり、脱炭素戦略の核心に位置する。

Category 11の定義と対象業種

Cat.11は、自社が販売した製品・サービスの使用段階における排出量です。GHGプロトコルでは「製品の想定使用期間中の累積排出量」を算定します。業種別の主要排出源:

  • 自動車メーカー:販売した車両の走行時排出量(ガソリン・ディーゼル車)。多くの自動車メーカーでScope 3の80〜90%以上を占める。
  • 電機・家電:販売した冷蔵庫・エアコン・洗濯機等の使用時電力消費。
  • エネルギー会社:販売した燃料(ガソリン・LPG・都市ガス)の燃焼排出量(Cat.11:販売製品の使用)。
  • IT・データセンター:クラウドサービスのエネルギー消費(サービス提供による排出)。

算定方法の選択

ストック×使用量法(推奨)

販売製品の在庫(ストック)数量 × 年間平均使用量 × 排出原単位 で算定。自動車であれば「保有台数 × 年間走行距離 × 燃費 × 燃料排出係数」という計算式です。製品の実際の使用パターンデータを収集することで精度が上がります。

支出ベース法(初期スクリーニング)

製品売上金額に業種別原単位を掛け合わせる手法。精度は低いですが、Cat.11が重要かどうかの初期評価に使用します。

ライフサイクル排出量法

製品のLCA(ライフサイクルアセスメント)に基づいて使用段階排出量を算定。CFP(製品カーボンフットプリント)の算定と統合できます。

主要業種別の削減戦略

自動車メーカー

Cat.11削減の主手段はEV・FCV(燃料電池車)への製品転換です。EV販売台数比率がCat.11排出量を直接左右し、2030年のSBTi目標達成との整合が問われます。トヨタ・ホンダ等が開示する「製品使用段階のCO₂削減目標」がSBTiのCat.11目標の代表事例です。また、走行時の電力源(電力グリッドの脱炭素化)によってEV走行時排出量が大きく変わるため、「グリーン電力での充電」の訴求もCat.11削減のロジックに組み込まれます。

電機・家電メーカー

製品の省エネ性能向上(トップランナー基準超え)が主要削減手段。高効率モデルへの製品ライン転換で、同一機能の製品当たり排出量を削減します。「製品当たりのLCA排出量」を開示し、競合比較での優位性を示すことがESG評価向上に直結します。

エネルギー企業(ガス・石油)

販売した燃料の使用排出量がCat.11の中心。短期的には再エネ・水素・バイオ燃料の販売比率向上、長期的には事業モデルの転換(脱化石燃料事業への投資)が不可欠です。SBTiはエネルギーセクターに対して、Cat.11を含むScope 3削減目標の設定を強く求めています。

Cat.11とSBTiの整合

SBTi Corporate Net-Zero Standardでは、Cat.11が主要Scope 3排出源である場合、2030年のNear-term目標にCat.11を含める必要があります。自動車メーカーが「EV比率〇〇%」という目標を設定するのは、Cat.11削減目標への対応として機能します。目標値の設定には「Cat.11の現状算定 → 2030年のフリートEV転換シナリオ → 排出量の推計 → SBTiが求める削減率との比較」という分析が必要です。

製品設計への組み込み(DfE)

Cat.11削減は最終的に「製品設計段階での低炭素化」が本質です。R&Dプロセスに「使用段階のCO₂排出量」を設計KPIとして組み込み、省エネ性能・耐久性(長寿命化による廃棄・代替品製造排出削減)・修理可能性(循環経済への対応)を製品開発の評価軸に加えることが、Cat.11削減の構造的対応となります。

製品タイプ別の4アプローチ — GHGプロトコル Chapter 11の分類

Cat.11の算定は、業種ではなく製品の性質から入るのが実務の順序である。GHGプロトコル Chapter 11は販売製品を4タイプに分類し、それぞれに異なる計算アプローチを定めている。この入口を誤ると、以降の数値がどれほど精緻でも報告値としての妥当性は担保されない。あわせて、製造段階(Cat.1)・輸送段階(Cat.9)・廃棄段階(Cat.12)はそれぞれ別カテゴリであり、Cat.11は顧客の手に渡った後の使用段階だけを対象とする点を明確に区別する。

製品タイプ 例 計算アプローチ 主に必要な一次データ
①直接使用排出型 ガソリン自動車、ガスボイラー、ディーゼル発電機、スプレー缶(HFC) 燃焼排出アプローチ:販売台数 × 設計寿命 × 年間燃料消費量 × 燃料排出係数 機種別の年間平均走行距離・燃費、設計寿命、燃料排出係数(kg-CO₂/L)
②間接使用排出型 家電、PC、電動工具、エアコン、医療機器 電力消費アプローチ:販売台数 × 設計寿命 × 年間電力消費量(kWh)× 電力排出係数 定格消費電力と実使用パターン(稼働率・スタンバイ時間)、販売地域別の電力排出係数
③燃料・原料型 原油、LNG、石炭、ナフサ 下流燃焼アプローチ:販売量(TJ または t)× 燃焼排出係数 燃料別の販売量、IPCC 2006年ガイドラインの燃料別排出係数
④その他間接排出 中間財(部品、素材) ダウンストリーム計算(川下の使用用途を追跡) 製品用途別の出荷構成、川下企業の使用条件

②の実務では、医療機器の消費電力データに地域別排出係数を掛けてCat.11を算定するフィリップスの例が参照されている。③については、CDPが油ガス産業向けにカテゴリ11専用ガイダンスを公表しており、排出係数はIPCC 2006年ガイドラインの燃料別排出係数表を用いる。なお、Cat.11が最大排出源になるのは製造業に限らず、ホームセンター小売のロウズではScope 3の80%がCat.11から発生している。

仮定の設定が結果を左右する — 製品寿命・将来グリッド係数・感応度分析

Cat.11の算定値は、実測データよりも仮定の置き方で動く。特に次の3変数は、業界標準値を使うか実態データで検証するかを明示したうえで開示する必要がある。

仮定項目 代表的な標準値・考え方 不確実性の源
製品寿命(耐用年数) 自動車15年、冷蔵庫15年、洗濯機12年、スマートフォン3年。産業機械・航空機・風力タービンは15〜30年 実際の使用年数・中古流通・買い替えサイクルの地域差
使用電力の電源構成 販売先市場の現行電力排出係数を適用するのが一般的 製品が将来どの国・どの電力ミックスで使われるかは不確実
使用率・稼働パターン JIS/IEC規格の試験値(年間消費電力量等)、自動車はWLTP燃費データ 地域・季節による稼働時間差、スペックと実使用の乖離

電力消費型・長期使用型の製品で、設計寿命の全期間を現在の排出係数でフラットに計算すると、グリッドの低炭素化を無視するため排出量が過大評価になる。一方でSBTiは、目標の一貫性を保つためbase year時点の固定係数の使用を推奨する場合があり、算定目的(実態把握か目標管理か)で係数の扱いを分ける整理が必要である。いずれの場合も、電力排出係数が2倍になった場合のCat.11変化といった感応度分析を併記することが開示品質の向上につながる。

自動車のように稼働中の母数が大きい製品では、当年度の新規登録台数ベースの生涯排出と、保有台数ベースの年間排出(生涯排出を平均設計寿命で割った値を積み上げる方法)の両方を開示することが推奨される。前者は製品転換の進捗、後者は市中在庫の実態を示し、どちらか一方では削減の実像が見えない。

ハイブリッド車は走行モード比率でガソリンと電力に按分し、EVは充電電力消費量に国別グリッド係数を適用する。

GHGプロトコル改訂議論が求める方向

Scope 3基準は2024〜2025年に約15年ぶりの大改訂が進行中であり、2024年3月に公表された改訂提案サマリーでは、Cat.11について次の3点の強化が示唆されている。いずれも一次データの収集体制を早い段階から整備しておくことが実務上の備えとなる論点である。

  • データ品質スコアの導入:製品の実測値(一次データ)と業界平均(二次データ)の区別を明示し、一次データの使用を促進する。
  • 将来シナリオの開示要求:製品の設計寿命期間中の電力グリッド脱炭素化を考慮した、シナリオベースの計算を推奨する。
  • 製品ライフサイクルとのリンク:ISO 14067(製品カーボンフットプリント)との整合性を強化し、LCAデータとCat.11の整合的な開示を求める方向にある。

対象の線引きが難しい製品 — クラウドサービスと省エネ建材

クラウド・SaaSのCat.11は、サービス提供に使用されるデータセンターの電力消費を対象とする。算定はAWSやGoogleが提供するカスタマーカーボンフットプリントのツールを活用するか、データセンターのPUEと電力使用量からボトムアップで積み上げる。ただしクラウドプロバイダー側の開示データの精度と範囲は限定的で、Scope 2の配分方法(market-based か location-based)の選択も結果に影響する。AI普及に伴うデータセンター電力消費の急増により、Cat.11の新たな重要領域として位置づけが上がっている。

断熱材・高効率窓サッシ等の省エネ建材は、製品の使用によって建物側の排出が削減されるため、Cat.11がネガティブ(削減量)になる特異なケースである。GHGプロトコルでは本体算定の対象外だが、回避排出量(avoided emissions)として任意開示が推奨されており、省エネ建材メーカーがこれを正の気候貢献として開示する例がある。自社のCat.11の数値と、川下での回避排出量は別建てで示し、相殺して報告しないことが前提となる。

まとめ

Cat.11はScope 3の中で「製品競争力と脱炭素が直結する」最重要カテゴリです。算定精度の向上とSBTi整合目標の設定は、製品ロードマップ(EV化・省エネ化・LCA改善)と経営計画の一体化を意味します。2025〜2026年にCat.11の正確なベースラインを確立し、製品転換計画との連動を開始することが、2030年目標達成の大前提です。


Scope 3 Cat.11:主要業種別算定方法と削減戦略

業種 主要製品 GHGプロトコル推奨算定手法 Cat.11のScope 3全体比率 主な削減戦略
自動車メーカー 乗用車・商用車 年間走行距離×燃費(L/km)×燃料排出係数×想定保有年数。EVは充電電力×電力排出係数。 通常70〜90%(最大カテゴリ) EV・PHEVへのシフト(走行時排出ゼロ化)。ただしEV製造のScope 3 Cat.1(部品調達)が増大。グリッドの低炭素化で自動的に削減。
電機・家電メーカー エアコン・冷蔵庫・TV・PC・サーバー 年間消費電力(kWh)×使用時間×電力排出係数×製品寿命。ENERGY STAR等の公的スペックシートを活用。 50〜80% 省エネ性能向上(インバーター・半導体の進化)。Scope 2の電力グリッド低炭素化で自動的に削減。使用フェーズの省エネ基準(トップランナー制度)を製品設計に反映。
電力会社・ガス会社 電力・都市ガス・LNG 販売電力量(MWh)×発電排出係数、または販売ガス量(m³)×燃焼排出係数。 90%以上(最大かつ最重要カテゴリ) 電力会社:再エネ比率向上が直接削減。ガス会社:バイオメタン・グリーン水素・合成メタン(e-methane)への移行。SBTi Power Sector Guidanceに基づく目標設定。
素材メーカー(鉄鋼・化学) 鉄鋼製品・化学品・プラスチック 製品用途(自動車・建材・包装材等)のライフサイクルを追跡して算定。産業用途の場合はB2Bの川下企業のCat.1と連動。 30〜60%(川下産業に依存) 低炭素鉄鋼・低炭素化学品(バイオ由来・循環型原料)の提供で川下のCat.11削減に貢献。削減貢献量(Avoided Emissions)として積極開示。

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