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GGBS(高炉水砕スラグ)とは|セメント代替で製造業のCO₂排出を削減する産業副産物

この記事ではクライメートテックの文脈で近年注目を集めている高炉水砕スラグ(GGBS)について解説します。

  1. 概要:
  2. 従来の製法との違い、メリット・デメリット:
  3. 脱炭素化に向け注目される理由:

概要:

高炉水砕スラグ(Ground Granulated Blast Furnace Slag、GGBS)は、鉄鋼製造の際に発生する副産物であり、高炉での鉄鉱石の冶金プロセスにおいて発生する冷却された溶融スラグを水砕して製造される製品です。主成分はケイ酸カルシウムであり、セメントやコンクリートの製造において補助材料として利用されます。

従来の製法との違い、メリット・デメリット:

– 従来の製法との違い:

従来のセメント製造では、主に石灰石(CaCO₃)と粘土(Al₂O₃、Fe₂O₃)が焼成されて製造されるが、GGBSは高炉で発生するスラグを再利用することで、環境に対する影響を軽減しています。

– メリット:

  • 強度向上: 高炉水砕スラグ(GGBS)をセメントに混ぜることで、コンクリートの強度や耐久性が向上します。
  • 環境への貢献: 再生利用により廃棄物削減やCO₂排出の低減に寄与します。
  • 化学的安定性: 高炉水砕スラグ(GGBS)はアルカリ骨材反応を低減させ、コンクリートの耐久性を高めることができます。

– デメリット:

  • 生産工程の複雑性: 高炉水砕スラグ(GGBS)の製造は水砕などの工程を経るため、製造プロセスが従来のセメントよりも複雑であることがあります。
  • 初期強度の低下: 一部の用途では、初期強度が従来のセメントよりも低いことがある。

脱炭素化に向け注目される理由:

– CO₂削減:

高炉水砕スラグ(GGBS)の使用は、セメント製造におけるCO₂排出量を削減するのに寄与します。鉄鋼製造過程で発生したスラグを再利用することで、新たな原材料の生産や処理に伴うエネルギー消費を軽減し、従ってCO₂排出を低減できます。セメント業界は、脱炭素化が最も難しい業界の一つと言われており、高炉水砕スラグ(GGBS)のように、CO2排出を削減できるソリューションを開発する、クライメートテックのスタートアップ

– サステナビリティへの貢献:

高炉水砕スラグ(GGBS)の利用はサステナビリティに資するため、建築業やインフラ構築において環境への負荷を低減し、緑の建築や低炭素社会の構築に寄与します。

総じて、高炉水砕スラグ(GGBS)は従来のセメントに比べて環境への影響が少なく、脱炭素社会の実現に向けた重要な建材となっています。


セメント代替材料(SCM)別CO₂削減効果比較

高炉水砕スラグ(GGBS)は「補助的セメント材料(SCM: Supplementary Cementitious Material)」の一種。同類材料との比較で位置づけを理解できる。

材料 主な原料 CO₂排出量(kg-CO₂/t)目安 OPCとの比較(削減率) 典型的な置換率
OPC(普通ポルトランドセメント) 石灰石(焼成) 700〜900 kg/t 基準(0%削減) —
GGBS(高炉水砕スラグ) 製鉄副産物 50〜80 kg/t(輸送・粉砕含む) 約85〜92%削減 20〜70%(用途・強度により変動)
フライアッシュ(FA) 石炭火力発電副産物 30〜60 kg/t 約92〜96%削減 10〜30%
シリカフューム(SF) フェロシリコン製造副産物 30〜60 kg/t 約92〜96%削減 5〜15%(高強度コンクリート)
石灰石微粉末(LS) 石灰石(非焼成) 20〜50 kg/t 約94〜97%削減 5〜30%(強度への影響あり)
アルカリ活性化スラグ(AAC/ジオポリマー) GGBS+活性剤(水ガラス等) 100〜300 kg/t(活性剤含む) 約60〜85%削減 セメント代替100%(バインダー全量)

GGBSとCBAM(炭素国境調整メカニズム)の関連

EUのCBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)は2026年から本格適用。鉄鋼製品の輸入に対して炭素コストを課す制度で、GGBSの流通にも間接的に影響する。

  • CBAMと鉄鋼スラグの関係:GGBSは鉄鋼製造の副産物。CBAMは鉄鋼の輸入に炭素コストを課すが、GGBSそのものへのCBAM直接適用は現在検討中(セメント製品への適用は確定)。
  • コンクリート産業の文脈:GGBSを使ったコンクリート(低炭素コンクリート)は、EU建築物の炭素規制(「建物のライフサイクル炭素」評価)でメリットを受ける可能性。
  • 日本の動向:国交省・環境省が推進する「グリーン調達」や「低炭素コンクリート」の普及で、GGBSの需要増が期待される。日本のGGBS生産量は年間約1,500万t(高炉スラグセメントとして)。

GGBSの品質規格(日欧比較)

規格 国・地域 等級・区分 主な技術要件
JIS A 6206 日本 3種類(3000・4000・8000 cm²/g) 比表面積・ガラス化率・塩化物量・活性度
EN 15167-1 EU Grade 80・Grade 100(強度活性指数) ブレーン比表面積・活性度・MgO含量
ASTM C989 米国 Grade 80・Grade 100・Grade 120 7日・28日強度活性指数
BS 6699 英国 Grade S(Slag) 欧州ENに準拠。ブレンドセメント規格BSにも組み込み

GGBSのコンクリート特性への影響

  • 水和熱の低下:OPCより発熱が遅く、マスコンクリート(ダム・基礎・橋桁)での温度ひび割れを抑制。
  • 耐海水性・耐硫酸塩性の向上:塩害・硫酸塩劣化に強いため、港湾・海洋構造物・下水道インフラに適する。
  • 長期強度の増大:初期強度はOPCより低いが、90日・1年後の強度がOPC単体を上回る場合がある。施工スケジュールの調整が必要。
  • 色・外観:GGBSを多く配合したコンクリートは白みがかった仕上がりになる傾向がある。

GGBSの原料供給は高炉の存続に依存する

GGBSの最大の構造的論点は、原料供給が高炉(BF-BOF)の操業に完全に依存している点である。鉄鋼業の脱炭素化シナリオでは、高炉から電炉(EAF)や水素還元製鉄(DRI)への転換が進む。電炉では高炉スラグは発生せず、代わりに成分の異なる電炉スラグ(EAFスラグ)が出る。電炉スラグは潜在水硬性(水とアルカリの存在下で硬化する性質)が乏しく、GGBSと同じ用途にはそのまま使えない。

つまり、GGBSは「鉄鋼業が脱炭素化するほど入手しにくくなるセメント代替材料」という性質を持つ。セメント業界の削減策として安定的に数十年使える資源ではない、という前提で調達計画を立てる必要がある。

製鉄プロセス 発生する主なスラグ セメント代替としての利用 脱炭素シナリオでの位置
高炉-転炉(BF-BOF) 高炉スラグ(水砕・徐冷) 水砕品はGGBSとして高い適性 2050年に向け縮小が想定される
電炉(EAF) 電炉酸化スラグ・還元スラグ 潜在水硬性が低く、主に路盤材・骨材 増加が想定される
水素還元製鉄+電炉 還元スラグ(成分は操業条件依存) セメント代替としての評価は研究段階 2030年代以降に本格化が想定される

国際エネルギー機関(IEA)のセメント技術ロードマップや、国際セメント・コンクリート協会(GCCA)の2050年ロードマップでも、クリンカ代替材料(SCM)の供給制約は中長期の課題として扱われている。フライアッシュについても同じ構造があり、石炭火力の縮小とともに供給が減る。日本でも石炭灰の発生量は長期的に減少方向にあるとされる。

この供給制約に対応する方向性は大きく3つある。第一に、カルシンクレイ(LC3:石灰石焼成粘土セメント)など、産業副産物に依存しない代替材料への移行。第二に、建設解体コンクリートの微粉(再生微粉)の活用。第三に、クリンカそのものの製造工程にCCUS(CO₂回収・利用・貯留)を組み合わせる方向である。GGBSは「今すぐ使える現実的な削減策」であって、恒久的な解ではないという整理が実務上は妥当である。

コンクリートのCO₂は「t当たり」ではなく「m³当たり・強度当たり」で読む

GGBSの削減効果を語るときに混乱が生じやすいのが、評価単位である。セメント材料は「kg-CO₂/t(材料1トン当たり)」で表されるが、建設プロジェクトで意味を持つのは「kg-CO₂/m³(コンクリート1立方メートル当たり)」であり、さらに厳密には「所要強度を満たすのに必要なCO₂」である。

GGBSを多く混ぜると初期強度が下がるため、同じ強度を同じ材齢で確保しようとすると、結合材(セメント+SCM)の総量を増やす、あるいは水結合材比を下げるという調整が入る。その結果、材料単位での削減率ほどコンクリート単位の削減率は伸びないことがある。発注者の環境性能評価を読むときは、次の3点を確認したい。

  • 評価単位:t当たりか、m³当たりか、強度当たり(kg-CO₂/m³/N/mm²)か。
  • バウンダリ:原単位がゆりかごからゲートまで(A1-A3)か、現場までの輸送(A4)を含むか。GGBSは製鉄所からの輸送距離が削減効果を左右する。
  • 副産物のCO₂配分:GGBSを「排出ゼロの廃棄物」として扱うか、鉄鋼製造のCO₂を経済価値などで按分するか。前者の方が削減率は大きく見える。

環境製品宣言(EPD)やJISのコンクリート関連規格、建築物のライフサイクルアセスメント(LCA)の国際規格であるISO 14025・EN 15804系の枠組みでは、このバウンダリと配分方法の明示が求められる。社内で削減量を主張する際も、この2点を書かずに数値だけ出すと、第三者検証で差し戻される典型例となる。

日本企業の実務に落とすときの論点

脱炭素経営の文脈でGGBSを扱う部署は、調達・設計・サステナビリティ推進の3つに分かれる。それぞれの検討点は異なる。

建設・不動産の発注者側(Scope 3 カテゴリ1・2)
建物や設備のコンクリートに起因するCO₂は、建設会社ではなく発注者のScope 3(購入した製品・サービス、資本財)に計上される。低炭素コンクリートの採用は、自社のScope 3削減として報告できる領域である。ただし削減を主張するには、一次データ(実際の配合に基づく排出量)が必要で、産業連関表ベースの金額原単位では配合の違いが反映されない。仕様書段階で「結合材のCO₂原単位の上限」または「GGBS置換率の下限」を性能規定として書き込み、EPDの提出を求める形が実務的である。

設計・施工側
初期強度の立ち上がりが遅いことは、工期と型枠の転用計画に直結する。寒冷期の施工、プレストレストコンクリート、早期脱型を前提とした工程では置換率を抑える判断が必要になる。一方、マスコンクリートや海洋・港湾構造物、下水道関連では、温度ひび割れ抑制と耐久性の面でGGBSが技術的にも有利であり、「環境対応のための妥協」ではなく性能上の選択になる。適用部位を選別して置換率を使い分ける設計が、最も費用対効果が高いとされる。

サステナビリティ推進側
GGBSによる削減は、SBTi(Science Based Targets initiative)の目標進捗や統合報告での説明材料になるが、前述のとおり供給の持続性に不確実性がある。2030年以降の削減計画にGGBSの大量使用を織り込む場合は、高炉の操業見通しという外部要因に依存していることをリスクとして併記するのが誠実な開示になる。TCFD/ISSB(IFRS S2)の移行リスク開示でも、原材料供給の構造変化は該当する論点である。

立場 主たる検討事項 確認すべき情報
発注者(事業会社) Scope 3 の削減として計上できるか 一次データの有無、EPD、配合計画書
設計・施工 工期と強度発現、適用部位の選別 材齢管理、気温条件、JIS A 6206の種類
調達 供給の安定性と輸送距離 製鉄所からの距離、長期供給の見通し
サステナビリティ推進 開示の整合性と将来の持続性 配分方法、バウンダリ、移行リスクの記述

価格形成とクレジット化の現状

GGBSを含む低炭素コンクリートの普及を規定するのは、技術よりも価格と調達ルールである。日本では高炉スラグ微粉末は長年流通しており、高炉セメントB種は普通ポルトランドセメントと大きく変わらない価格帯で入手できる。これは数十年にわたる市場形成の結果であり、他のSCMや新材料にはない強みである。

一方で、削減価値を収益に変える仕組みはまだ発展途上である。J-クレジット制度では、コンクリート製造におけるクリンカ使用量削減を対象とする方法論の整備や、炭酸化によるCO₂固定の扱いが議論されてきた。GX-ETS(GXリーグの排出量取引)でも、建設資材の調達による間接的な削減をどう扱うかは制度設計に依存する。現時点では、GGBSの採用が直接的な収益になるケースは限定的で、公共調達の加点、グリーンビルディング認証(CASBEE、LEEDなど)の評価点、調達先からの要求への対応という形で間接的に効いてくる。

国土交通省が進めるインフラ分野のカーボンニュートラル施策や、政府の「公共調達におけるカーボンニュートラルの推進」の方向性では、建設資材の環境性能を調達基準に組み込む検討が続いている。低炭素コンクリートが加点対象や要求仕様として定着すれば、価格差を越えて採用が進む構造になる。逆にいえば、制度が動かない限り、技術的に成熟していても採用は限定的なままとなる。GGBSは、技術が先に完成し制度と価格形成の整備を待っている典型例として理解できる。

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