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グリーンウォッシュ規制の最新動向 — EUグリーンクレーム指令・ESRS・日本GX開示ガイドラインで何が変わるか

グリーンウォッシュ規制の最新動向 — EUグリーンクレーム指令・ESRS・日本の開示制度で何が変わるか

要約: 「カーボンニュートラル」「サステナブル」「グリーン」という言葉を製品・企業PRに使う場合、2024年以降に法的リスクが急上昇した。すでに成立・発効しているEUの「消費者エンパワーメント指令」(EU 2024/825、2024年2月成立)が包括的な環境表現やオフセット由来のカーボンニュートラル表示を規制する。一方、環境主張の根拠の事前検証を求めるグリーンクレーム指令案は、2025年6月に欧州委員会が撤回意向を表明して以降、立法プロセスが事実上停止しており、成立の見通しは立っていない。企業開示の側では、CSRD配下の欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)が気候移行計画や排出量の開示を細部まで規定し、主張の裏づけとなるデータそのものに規律を課す。日本でもSSBJによるサステナビリティ開示基準の整備、金融庁の企業内容等の開示に関する内閣府令に基づく有価証券報告書での記載、消費者庁による景品表示法の運用が進む。本記事では、何がNG表現になり、何を開示すれば問題ないのかを具体例で整理する。


目次

  1. グリーンウォッシュ規制が急拡大した背景
  2. シナリオ分析:「OK表現」vs「NG表現」の分水嶺
  3. EUの2本の指令:消費者エンパワーメント指令とグリーンクレーム指令
  4. ESRS:開示基準がグリーンウォッシュを封じる仕組み
  5. 日本の規制動向:サステナビリティ開示基準と景品表示法
  6. 業種別の主要リスクポイント
  7. 反論と複雑性:「何でもNGならサステナビリティPRができない」
  8. 日本企業への含意:EU輸出 × 国内開示 × 広告の3軸管理
  9. 今すぐ取るべきアクション(3項目)
  10. まとめ
  11. 主要出典

1. グリーンウォッシュ規制が急拡大した背景

消費者・投資家の不信感の高まり

2021〜2023年にかけてグリーンウォッシュの摘発事例が急増した。Keurigがコーヒーポッドの「リサイクル可能」表示をめぐりカナダ競争局から制裁を受け、Kohl’sとWalmartが「バンブー(竹)繊維」等の環境訴求表示をめぐり米FTCから合計550万ドルの民事制裁金を科され、H&Mが「Conscious Collection」の環境改善根拠を開示できず自主撤回、HSBC銀行が「気候変動に立ち向かう」広告を英国ASAが虚偽と認定するなど、大企業でも規制リスクが顕在化した。

規制当局の対応強化

EUは2019年に「欧州グリーンディール」を開始し、2024年2月には消費者エンパワーメント指令(EU 2024/825)を成立させ、環境表示規制を不公正商慣行指令の枠内に直接組み込んだ。一方、これに続くはずだったグリーンクレーム指令案は、2025年6月に欧州委員会が撤回意向を表明して以降、立法プロセスが停止している。同時に、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)とその報告基準であるESRSが、開示データの側から主張の裏づけを要求する体系を整えた。日本でも、金融庁の開示府令改正により有価証券報告書へのサステナビリティ情報の記載が制度化され、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)がISSB基準に対応した国内基準を策定、消費者庁は景品表示法に基づく環境表示の運用を担っている。規制は「任意のCSRガイドライン」から「法的義務・罰則付き」へと移行した。


2. シナリオ分析:「OK表現」vs「NG表現」の分水嶺

2-1. 製品広告における主張の類型

主張の種類 具体例 EU規制下での評価 日本での評価 問題の核心
曖昧な包括的主張 「環境に優しい」「グリーン」「サステナブル」 消費者エンパワーメント指令により、優れた環境パフォーマンスの実証がない限り原則禁止 消費者庁が景品表示法上の優良誤認として警告対象 比較基準・根拠がない
部分的根拠のある主張 「再生プラスチック10%使用」 比率明示+検証なら可 比率・検証機関を記載すれば可 根拠が部分的でも明示すれば許容
第三者認証のある主張 「FSC認証木材使用」「ISO 14001取得」 認証が有効なら可 認証機関明示なら可 認証の有効性と認証範囲に注意
カーボンオフセット主張 「この製品はカーボンニュートラル」 消費者エンパワーメント指令により、オフセットのみを根拠とする表示は禁止 景品表示法上の優良誤認リスク。オフセットの内容明示が必要 オフセット品質・追加性の証明
将来目標の主張 「2050年カーボンニュートラル」 中間目標+移行計画の開示が必要 SSBJ基準(ISSB対応)に基づく開示必要 計画なき目標宣言はNG

2-2. 企業IR・サステナビリティレポートにおける開示比較

開示事項 CSRD/ESRS(EU) ISSB S2(国際) 日本(SSBJ基準・開示府令) 現時点での実務
GHG排出量(Scope1+2) 義務 義務 SSBJ基準の適用対象企業は義務 多くが実施済み
Scope 3 義務(重要性のあるカテゴリ。カテゴリ別の内訳開示を求める) 義務(重要なもの) SSBJ基準で開示要求(経過措置あり) 部分開示が多い
カーボンオフセットの品質 義務(カーボンクレジットの種類・認証スキーム等の開示) 推奨 カーボンクレジット利用時は内容の開示が必要 未開示が多い
気候移行計画 義務 義務 開示府令のサステナビリティ記載欄で求められる 一部大企業のみ
気候シナリオ分析 義務 義務 SSBJ基準で気候関連レジリエンスの開示要求 一部大企業のみ

3. EUの2本の指令:消費者エンパワーメント指令とグリーンクレーム指令

EUの環境表示規制は、性格の異なる2本の立法で構成されている。この区別を誤ると、対応時期を大きく読み違えることになる。とりわけ、一方はすでに成立して適用期日が確定しているのに対し、もう一方は成立するかどうか自体が不透明である点に注意が必要である。

3-1. 消費者エンパワーメント指令(EU 2024/825)— 成立済み

2024年2月に成立し、同年3月に発効した指令で、不公正商慣行指令(2005/29/EC)と消費者権利指令を改正するかたちで環境表示のルールを直接書き換えるものである。加盟国は2026年3月を期限として国内法化し、2026年9月から適用が始まる。

主な規制内容

  • 包括的な環境表現の原則禁止:「エコフレンドリー」「グリーン」「気候に優しい」「環境に配慮した」といった一般的な環境主張は、優れた環境パフォーマンスを実証できない限り使用できない。
  • オフセット由来のカーボンニュートラル表示の禁止:温室効果ガスのオフセットを根拠として「カーボンニュートラル」「気候中立」「カーボンポジティブ」等を表示することが、実証の有無にかかわらず禁止リストに追加された。
  • 法令上の義務を差別化要因として示すことの禁止:法律で義務づけられている内容を、あたかも自社独自の取り組みであるかのように表示することは認められない。
  • 将来の環境パフォーマンス主張への要件:将来目標に関する主張には、明確・客観的・検証可能なコミットメントと詳細な実施計画、および独立した第三者によるモニタリングが必要となる。
  • 持続可能性ラベルの制限:認証スキームに基づかない、あるいは公的機関が設定していない自社独自の持続可能性ラベルの表示が禁止される。

3-2. グリーンクレーム指令案 — 撤回意向の表明により先行き不透明

2023年3月に欧州委員会が提案(COM/2023/166)し、2024年3月に欧州議会が第一読会の立場を採択、その後に理事会との三者協議(トリローグ)が開始された。しかし2025年6月に欧州委員会は同指令案を撤回する意向を表明し、直後に予定されていたトリローグは中止された。その後、提案は正式な撤回手続きが完了しているわけでもなく、2026年の欧州委員会作業計画でも「係属中」の扱いのまま宙に浮いた状態が続いている。

すなわち本稿執筆時点で、この指令案は「審議が進行中」でも「廃案が確定」でもない。成立の見通しは立っておらず、適用開始時期も当然ながら未定である。実務上は、グリーンクレーム指令案の内容を前提に対応計画を組むのではなく、すでに成立している消費者エンパワーメント指令を基準に据えるべき局面にある。

提案されていた主要な内容(参考)

  • 明示的環境主張の事前検証:環境主張を行う前に、科学的根拠に基づく実証と、認定された第三者検証機関による適合証明の取得を求める。
  • カーボンオフセット主張の情報開示:オフセットを用いる場合、その種類・品質・追加性に関する情報の開示を求める。
  • 比較表示の根拠開示:「昨年比CO₂30%削減」などの比較主張について、比較基準・算定方法の開示を求める。
  • 中小企業への配慮:零細企業の適用除外や、中小企業への段階的措置が議論されていた。
  • 制裁金:加盟国の裁量としつつ、関係加盟国における年間売上高の4%以上を上限として設定できる規定が提案されていた。

これらは法的効力を持たないが、環境主張の「根拠を揃えて第三者検証を受ける」という発想自体は、消費者エンパワーメント指令の運用や加盟国の執行実務、さらにはESRSの開示要求にも通底している。指令案が成立しなかったとしても、根拠文書の整備という実務が不要になるわけではない。

3-3. 適用タイムラインの整理

立法 ステータス 加盟国の国内法化 事業者の遵守義務
消費者エンパワーメント指令(EU 2024/825) 2024年2月成立・3月発効 2026年3月まで 2026年9月から
グリーンクレーム指令案 欧州議会第一読会採択(2024年3月)後、2025年6月に欧州委員会が撤回意向を表明。トリローグは中止され、正式撤回も成立もしないまま係属状態 未定(成立の見通し立たず) 未定

実務上の要点は、「包括表現の禁止」と「オフセット由来のカーボンニュートラル表示の禁止」は、グリーンクレーム指令案の帰趨にかかわらず2026年9月から適用されるという点である。指令案が撤回されそうだという理由でEU向け表示の点検を先送りするのは、この意味で誤りとなる。


4. ESRS:開示基準がグリーンウォッシュを封じる仕組み

前章の2本の指令が「消費者に向けて何を言ってよいか」を規律するのに対し、ESRS(European Sustainability Reporting Standards/欧州サステナビリティ報告基準)は「投資家に向けて何を開示しなければならないか」を規律する。広告表現の根拠となるデータそのものに規律を課すため、企業の環境主張にとっては土台にあたる。

4-1. ESRSの位置づけ

ESRSは、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく報告基準として、EFRAGが技術的助言を作成し、欧州委員会が委任法令として採択したものである。CSRDの適用対象企業は、この基準に沿ってサステナビリティ情報を開示する義務を負う。気候変動を扱うのがESRS E1で、グリーンウォッシュ規制との接点が最も多いのもこの基準である。

4-2. ESRS E1がグリーンウォッシュ対策として機能する4つの論点

  • 気候移行計画の開示:温室効果ガス削減目標と、それを実現するための施策・投資・資金計画の開示が求められる。パリ協定の1.5℃目標との整合性、および目標達成に必要な設備投資(CapEx)との関係を説明することが要請されるため、「計画なき目標宣言」が開示上そのまま露呈する構造になっている。
  • 削減目標とベースラインの明示:目標については基準年、対象範囲、絶対量目標か原単位目標かの別、中間目標の設定状況を示す必要がある。比較基準を伏せた「大幅削減」といった表現は、開示ベースでは成立しない。
  • カーボンクレジットと「ネットゼロ」主張の分離:ESRS E1は、削減目標をカーボンクレジットとは切り離して示すことを求める。クレジットを用いる場合は、その量・種類・認証スキームなどを別枠で開示させる考え方であり、オフセットで目標を埋め合わせて「ネットゼロ」と称する構図を開示上見えるようにする。この設計思想は、消費者エンパワーメント指令がオフセット由来のカーボンニュートラル表示を禁じたことと方向性が一致している。
  • Scope 3の扱い:ESRS E1が求めるのは全カテゴリの機械的な網羅ではなく、重要性(マテリアリティ)のあるカテゴリについての開示である。重要と判断したカテゴリの内訳と、その判断根拠・算定方法を示すことが要点であり、「Scope 3は算定していない」で済ませることは難しくなる。

4-3. 第三者保証という担保

CSRDの下では、開示されたサステナビリティ情報に第三者による保証(当初は限定的保証)が求められる。財務情報と同様に外部のチェックが入るため、IR資料に書いた数値と広告で使う数値の乖離は、これまでよりはるかに発見されやすくなる。EU向け広告表現の点検とサステナビリティ開示の整備を別々のプロジェクトとして走らせると、この乖離が最後に問題化しやすい。


5. 日本の規制動向:サステナビリティ開示基準と景品表示法

金融庁の開示府令とSSBJ基準

日本では、環境主張の「根拠」を規律する枠組みが、投資家向け開示と消費者向け表示の二本立てで整備されてきた。

投資家向け開示については、2023年1月の企業内容等の開示に関する内閣府令(開示府令)の改正により、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が設けられ、ガバナンス・戦略・リスク管理・指標及び目標の4要素での記載が制度化された。さらに、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月にISSB基準(IFRS S1/S2)に対応する日本版サステナビリティ開示基準を公表し、適用対象企業は気候関連のリスク・機会、GHG排出量、気候関連レジリエンス、移行計画などを基準に沿って開示することになる。

これらの制度が「信頼性の高い開示」として実質的に要求している要素は、次の4点に集約できる:

  • 定量性: 削減量・排出量を数値で明示
  • 根拠・方法論: 使用した算定方法・基準値を開示
  • 比較基準: 何年比・どのスコープを比較対象にしたか
  • 第三者検証: できれば独立した第三者による確認

投資家向け開示で示した数値・前提と、広告や製品表示で使う数値が食い違えば、後者は景品表示法上の不当表示リスクとして跳ね返る。開示と広告を別々に管理しないことが要点である。

消費者庁の動向

景品表示法の所管は2009年の消費者庁発足に伴い公正取引委員会から移管されており、環境表示に関する規制・執行はいずれも消費者庁が担っている。消費者庁が公表している「環境に配慮した商品等に関する表示の考え方」は、根拠のない「環境に優しい」等の表示を「優良誤認」として整理してきた。2024年以降、消費者庁はESG・気候関連の表示に対する調査を強化している。


6. 業種別の主要リスクポイント

業種 リスクの高い主張 対応策
自動車・輸送機器 「電動化でCO₂ゼロ」(Scope 3無視) ライフサイクル分析(LCA)の開示
食品・農業 「自然由来」「農薬不使用」「低炭素農業」 第三者認証・測定値開示
アパレル 「サステナブルな素材」(部分的使用) 素材比率・認証情報の明示
金融 「グリーンファンド」「ESG投資」(定義不明) 運用基準・除外銘柄リストの開示
建設・不動産 「脱炭素ビル」(定義曖昧) ZEB認証・省エネ基準値の開示
素材・化学 「低炭素製品」(比較基準不明) 業界平均対比の数値・算定方法開示

7. 反論と複雑性:「何でもNGならサステナビリティPRができない」

反論①:「規制が厳しすぎると企業は何も言えなくなる」

現実: EUの立法者も「過度な規制でグリーン主張を萎縮させたくない」との立場を示している。規制が禁じるのは「根拠のない曖昧主張」であり、「検証済みの具体的主張」はむしろ推奨されている。しっかりした測定・第三者検証を行った企業にとって、規制は「競争優位の武器」になる(根拠なき競合をフィールドから排除する効果)。

反論②:「第三者検証のコストが中小企業に重すぎる」

現実: これらの規制はB2C向けの製品・サービス主張が主要対象。B2B取引、IR向け開示、内部目標は直接対象外(ただし投資家向け開示はISSB・SSBJ基準・CSRD/ESRSで別途規制される)。中小企業への適用には配慮規定や段階的導入が置かれており、まず大企業向けサプライヤーとしての「データ提供義務」から対応を始めることが現実的。

反論③:「『カーボンニュートラル2050』目標宣言がNGになるなら、すべての企業が誤りを犯している」

現実: 将来目標の宣言自体はNGではない。「根拠なき目標」がNG。消費者エンパワーメント指令が禁じるのは「移行計画の開示なき宣言」であり、目標の設定そのものではない。つまり、SBTi認定を取得した企業が「2040年ネットゼロ(SBTi認定済み)」と表示するのは適法であり、認定なしに「2050年カーボンニュートラル」とだけ書くのがリスクになる。


8. 日本企業への含意:EU輸出 × 国内開示 × 広告の3軸管理

EU輸出企業(特にB2C製品)

2026年9月以降、EU市場で販売される製品に「環境主張」を使う日本企業は、欧州現地法人または輸入代理店を通じて消費者エンパワーメント指令に基づく各国法の適用を受ける。製品パッケージや販促資料の環境主張を今から洗い出し、根拠がないものを削除・修正する作業が必要だ。特に、オフセットを根拠とする「カーボンニュートラル」表示は実証の有無にかかわらず使えなくなるため、表示の差し替えは優先度が高い。

対応の具体的ステップ:

  1. EU向け製品・サービスの全環境主張リストを作成
  2. 各主張の「根拠文書」(LCA報告書・認証書・算定根拠)の有無を確認
  3. 根拠不足の主張は削除または「〇〇年比〇%削減(算定根拠:×××)」等に修正

上場企業の統合報告・サステナビリティレポート

SSBJ基準(ISSB S2対応)および開示府令に基づくサステナビリティ開示の適用に合わせ、Scope 1〜3の開示品質向上が求められる。EU子会社等を通じてCSRD/ESRSの対象となる場合は、移行計画・目標のベースライン・カーボンクレジットの扱いを基準に沿って整理する必要がある。特に「カーボンオフセット活用」の開示は、オフセット品質・認証スキーム(J-Credit/VCS/Gold Standard)・追加性の明示が必要になる。

国内向け広告・マーケティング

景品表示法「優良誤認」の運用が強化される方向にある中、「環境に優しい」「グリーン」「サステナブル」などの包括的主張は、少なくとも根拠情報へのQRコードリンクを付けることが推奨される。


9. 今すぐ取るべきアクション(3項目)

アクション1:自社の環境主張の「全棚卸し」(1か月以内)

  • 製品パッケージ・ウェブサイト・IR資料・社外広告に含まれる全環境主張を一覧化
  • 各主張に対して「根拠文書が存在するか」「第三者検証済みか」「比較基準は明示されているか」の3点を評価
  • リスクスコアリング(EU輸出品で根拠なし → 高リスク)で対応優先度を決める

アクション2:「カーボンニュートラル」主張の品質確認(3か月以内)

  • 製品・サービスに対してカーボンニュートラル主張がある場合、まずEU向けかどうかを切り分ける。EU向けB2C表示でオフセットを根拠にしているものは、2026年9月までに表示自体を取り下げる必要がある
  • EU域外向け・IR向けの主張については、ISO 14068またはPAS 2060準拠の算定・検証済みか確認
  • J-Credit・VCS等のオフセット品質文書(発行年・プロジェクト詳細・追加性証明)を整備
  • 将来目標(2050年ネットゼロ等)には中間マイルストーン(2030年、2040年)と移行計画を添付

アクション3:法務・マーケティング・ESGの3部門連携体制の構築(6か月以内)

  • グリーンウォッシュリスクは「法務(景品表示法・欧州指令)」「マーケティング(広告表現)」「ESG(排出量データ)」の3部門が交差するため、単独部門では対処不能
  • 3部門が同じ「承認チェックリスト」(根拠文書リスト・禁止表現リスト)を使うプロセスを設計
  • 外部法律事務所(EU環境法専門)のレビューを年1回以上実施

10. まとめ

  • 規制の焦点は「主張の禁止」ではなく「根拠の要求」にある。曖昧な包括表現(「環境に優しい」「サステナブル」)が原則禁止となる一方、数値・算定方法・比較基準を伴う具体的主張は引き続き使える。実務では「言い換え」ではなく「根拠文書の整備」が本質的な対応になる。
  • EU向けB2C製品の実質的な期限は2026年9月。これは先行き不透明なグリーンクレーム指令案ではなく、成立済みの消費者エンパワーメント指令(EU 2024/825)による期限であり、加盟国の国内法化は2026年3月までに完了する。グリーンクレーム指令案が撤回されそうだという理由で着手を先送りしてはならない。
  • 広告表現とESRS開示は一体で管理する。ESRS E1は移行計画・目標のベースライン・カーボンクレジットの分離開示を求め、その情報には第三者保証が付く。広告で使う数値とIRで開示する数値の食い違いは、従来より容易に発見される。
  • 国内では開示府令とSSBJ基準が「根拠」の土台になる。有価証券報告書のサステナビリティ記載欄とSSBJ基準に沿って整備した数値・前提が、広告表現の根拠としてもそのまま使える状態にしておくことで、景品表示法上のリスクを下げられる。
  • カーボンオフセットを用いた「カーボンニュートラル」表示は最もリスクが高い領域。EU向けB2C表示では、オフセットのみを根拠とする表示が実証の有無にかかわらず禁止される。国内向け・IR向けについても、オフセットの種類・品質・追加性の明示が求められるため、J-Credit・VCS等の証書類は発行年・プロジェクト詳細まで整備しておく。
  • 将来目標の宣言は移行計画とセットで。「2050年カーボンニュートラル」単体の宣言はリスクとなるが、中間マイルストーン(2030年・2040年)とSBTi等の外部認定、および第三者によるモニタリングを添えれば適法な主張として成立する。
  • 対応は単一部門では完結しない。法務(景品表示法・欧州指令)・マーケティング(広告表現)・ESG(排出量データ)の3部門が共通の承認チェックリストを持つプロセス設計が、グリーンウォッシュリスク管理の最終的な防波堤になる。

11. 主要出典

  1. European Parliament (2024)Directive on Green Claims: Position of the European Parliament(第一読会の立場、2024年3月採択). https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-9-2024-0132_EN.html
  2. European Commission (2023)Proposal for a Directive on the substantiation and communication of explicit environmental claims (Green Claims Directive), COM/2023/166 final(2023年3月22日提案。2025年6月に欧州委員会が撤回意向を表明し、トリローグは中止。以後、正式撤回も成立もしていない). https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52023PC0166
  3. サステナビリティ基準委員会(SSBJ)サステナビリティ開示ユニバーサル基準/テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」(IFRS S1・S2対応、2025年3月公表)
  4. 消費者庁環境に配慮した商品等に関する表示の考え方. https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/
  5. EFRAGESRS E1 Climate Change(気候移行計画、削減目標とベースライン、カーボンクレジットの分離開示に関する要求事項). https://www.efrag.org/sustainability-reporting
  6. CDPGuidance for companies(企業向け報告ガイダンス). https://www.cdp.net/en/guidance/guidance-for-companies
  7. IOSCO (2023)Supervisory Practices to Address Greenwashing / Recommendations on Sustainability-related Practices, Policies, Procedures and Disclosure. https://www.iosco.org/library/pubdocs/pdf/IOSCOPD752.pdf

本記事は公開情報に基づく解説であり、法的アドバイスではありません。具体的な対応は弁護士・専門機関にご相談ください。

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