この記事では、EOR(Enhanced Oil Recovery):原油増進回収について、その概要とCCUSやクライメートテックの文脈で注目を集めている理由について解説します。
EOR(Enhanced Oil Recovery)の概要
EOR(Enhanced Oil Recovery)は、石油生産の際に採用される技術の一種で、通常の油田開発や原油採掘技術では取り出せない、または取り出しきれない石油を回収するための手法です。EORは、油田からの原油生産を増加させることができ、特に油田が過半分以上の原油を保持している場合に有益です。簡単にまとめると、地中から石油を取り出すために、別のものを注入します。
EORの注入物
以下は、主なEORの手法についてのいくつかの一般的な注入物です。

- 水の注入(Water Flooding):
- 水を油田に注入して、原油の移動を促進させます。これにより、油の粘度が低下し、油がより効果的に抽出されます。
- ガスの注入(Gas Injection):
- 二酸化炭素(CO2)や天然ガスなど、別のガスを油田に注入して、原油を押し出す効果を得ます。これにより、油とガスの相互作用が生じ、原油が抽出されやすくなります。
- 熱の注入(Thermal Recovery):
- 蒸気や熱水を油田に導入して、原油の粘度を低下させ、抽出を容易にします。一般的な方法には、蒸気注入や火炎放射器を使用した熱の導入が含まれます。
- 界面活性剤の導入(Surfactant Injection):
- 油田に界面活性剤を注入して、油と水の間の界面張力を減少させ、原油の移動性を向上させます。
EORは、通常、油田の開発初期や通常の生産技術では取り出しにくい場合に適しています。ただし、導入には高いコストと技術的な課題が伴うことがあります。技術の進歩と原油価格の変動は、EOR技術の開発と実施に影響を与えています。
難しい点
注入するものは、回収する石油よりもコストが安い必要がありますが、そうした物質を見つけるのは簡単ではありません。
石油が$70であるのに対し、それより安いのは水($55)のみです。
コーラで$160, オレンジジュースは$270、タバスコソースの場合は$5375にも上ります。

脱炭素・クライメートの文脈で注目される理由
EOR(Enhanced Oil Recovery)とCarbon Storage(二酸化炭素貯留)の組み合わせは、持続可能なエネルギーの取り組みと環境への影響の削減に対する注目を引き寄せています。以下は、この組み合わせがなぜ注目を集めているかの主な理由です:
- 二酸化炭素の排出削減(CO2 Emission Reduction):
- EORでは、原油の生産を促進するために二酸化炭素を注入することがあります。これにより、地下に注入された二酸化炭素が油田内に閉じ込められ、同時に油の回収が増加します。結果として、二酸化炭素が大気中に放出されることを防ぎ、温室効果ガスの排出を削減する効果が期待されます。
- 二酸化炭素の安定貯留(Secure CO2 Storage):
- EORに使用される二酸化炭素は、油田に注入されるとともに、地下に安定して貯留されます。これにより、二酸化炭素が地上に戻ることなく、地下で確実に保管されることが期待されます。これは、温室効果ガスの安全で永続的な貯留の一例です。
- 経済的インセンティブ(Economic Incentives):
- EORにおける二酸化炭素の使用は、石油生産の増加に寄与するだけでなく、CO2排出権の取引やクレジットの取得など、さまざまな経済的なインセンティブを提供する可能性があります。これにより、企業が環境への取り組みを強化しながら、同時に経済的な利益を得ることができます。
- 持続可能なエネルギー戦略の一環(Part of Sustainable Energy Strategy):
- EORとCarbon Storageの組み合わせは、持続可能なエネルギー戦略の一環として位置付けられています。石油産業がその環境影響を軽減し、同時にエネルギー供給の持続可能性を確保するための手段として注目されています。
これらの要因が組み合わさり、EORとCarbon Storageがエネルギー産業において重要な解決策と見なされ、環境への負荷を低減しながらエネルギーの効率を向上させる一環として注目を集めています。
CO₂-EOR の出発点は気候政策ではない
CO₂ を使った増進回収は、気候変動対策として生まれた技術ではない。米国テキサス州の油田で 1972 年に商業規模の CO₂ 圧入が始まったとされ、以後パーミアン盆地を中心に半世紀にわたって「石油を増産するための操業技術」として積み上げられてきた。CCUS の文脈で語られるようになったのは、その後にできた解釈である。
この順序を押さえておくと、評価の際に最初に確かめるべき点が見えてくる。圧入している CO₂ がどこから来たかである。米国の CO₂-EOR では、コロラド州やミシシッピ州にある天然の CO₂ 鉱床から専用パイプラインで運ばれる CO₂ が長く主役だった。天然鉱床の CO₂ は、もともと地下に安定して存在していたものを掘り出して別の地層へ移しているだけであり、大気中の CO₂ 濃度を下げる効果はない。むしろ地上の設備から漏れた分は純増になる。
国際エネルギー機関(IEA)は 2015 年の報告書で、世界の EOR 向け CO₂ 圧入量を年間 7,000 万トン規模と推計し、その大半が天然由来であると整理している。産業排ガスや発電所から回収した CO₂(人為起源 CO₂)を使う案件は増えてきたが、「CO₂-EOR だから脱炭素」という短絡は成り立たない。案件を見るときは、天然由来か人為起源か、人為起源ならその CO₂ が回収されなければ大気へ出ていたものか(追加性)を、まず分けて確認する必要がある。
混和圧入の条件と、1 バレルあたりの CO₂ の読み方
技術面では、CO₂ 圧入は混和(miscible)と非混和(immiscible)に分かれる。混和とは、地層の温度・圧力条件下で CO₂ が原油に溶け込み、界面がなくなった状態を指す。そのために必要な圧力を最小混和圧(MMP)と呼び、これを下回ると CO₂ は単に原油を押す気体として働くだけで、回収率の改善幅は小さくなる。MMP は原油の組成と貯留層温度で決まるため、どの油田でも CO₂-EOR が使えるわけではない。一定以上の深度(したがって圧力)と、軽質な原油性状が前提になる。
実際の操業では、CO₂ と水を交互に圧入する WAG(Water Alternating Gas)が広く使われる。CO₂ は原油より移動しやすく、そのまま圧入すると貯留層の上部や高透水部を突き抜けて生産井に抜けてしまう(ガスのブレークスルー)ため、水で移動を抑えて掃攻範囲を広げる考え方である。
ここで混同が起きやすいのが、圧入量と貯留量の区別である。生産井からは原油とともに CO₂ が戻ってくるため、現場では分離して再圧入する。
| 概念 | 内容 | 評価上の意味 |
|---|---|---|
| グロス圧入量 | 圧入井に入れた CO₂ の総量 | 設備能力の指標。貯留量ではない |
| リサイクル量 | 生産流体から回収して再圧入した分 | 同じ分子を何度も数える二重計上の原因 |
| 純圧入量(新規購入量) | 外部から新たに持ち込んだ CO₂ | 地中に残った量の上限 |
| 純貯留量 | 操業終了時点で地層に留まる量 | 気候上の効果に対応する唯一の数字 |
公開されている資料では、純貯留量は原油 1 バレルあたり概ね 0.3〜0.6 トン CO₂ のレンジで語られることが多いが、これは油田ごとの条件で大きく動く推計値である。一方、米国環境保護庁(EPA)の換算係数では、原油 1 バレルが消費されたときの CO₂ 排出は約 0.43 トンとされる。両者を単純に並べた試算では、純貯留量が 0.43 トンを上回れば生産された原油の燃焼分を相殺しうるが、下回れば差し引きで排出増になる。つまり CO₂-EOR は、設計と操業次第でどちらにも振れる。「CCUS の一種だから排出削減」ではなく、純貯留量と生産量の比が分岐点になるという読み方が実務的である。
制度側の扱い:45Q、ISO 27916、日本の法整備
制度は、専用貯留と EOR を明確に区別して値付けしている。米国の税額控除 45Q は、2022 年のインフレ抑制法(IRA)による改正後、以下の水準とされる。
| 回収源と処分方法 | 控除額(CO₂ 1 トンあたり) |
|---|---|
| 産業・発電からの回収+専用地中貯留 | 85 米ドル |
| 産業・発電からの回収+ EOR 等の利用 | 60 米ドル |
| 大気直接回収(DAC)+専用地中貯留 | 180 米ドル |
| 大気直接回収(DAC)+ EOR 等の利用 | 130 米ドル |
EOR への利用が専用貯留より低く設定されているのは、原油増産という副作用と、貯留量の算定の難しさを制度側が織り込んだ結果と理解できる。収益モデルを組む側からすると、EOR には原油売上という追加の収入源がある一方で、制度からの支援単価は下がる構造である。
算定方法についても国際規格が整備されている。ISO 27916 は CO₂-EOR における貯留量の定量化を扱い、地層貯留一般を扱う ISO 27914 とは別建てになっている。リサイクル分の扱い、地上設備からの漏出、油やガスに溶け込んで持ち出される分の控除といった、EOR 固有の論点を処理するための枠組みである。第三者検証を受けた案件かどうかは、どの規格に拠って算定しているかで見分けられる。
日本では 2024 年に CO₂ の貯留事業に関する法律(CCS 事業法)が成立し、貯留事業の許可や事業者の責務、長期的なモニタリングの枠組みが定められた。ただし国内に大規模油田がないため、国内の論点は帯水層貯留が中心であり、EOR は海外案件として関わる話になる。
日本企業が関与する場合の着眼点
関与の形は限られており、商社・資源開発企業の海外上流ポートフォリオ、エンジニアリング企業の圧入設備や分離回収設備の受注、計測・材料メーカーの機器供給、金融機関のプロジェクトファイナンス審査のいずれかに収まる。それぞれで確認すべき点は共通している。
| 確認項目 | 具体的に見るもの |
|---|---|
| CO₂ の出どころ | 天然鉱床か人為起源か。人為起源なら回収しなければ排出されていたか |
| 算定と検証 | ISO 27916 等に基づく純貯留量の算定と第三者検証の有無 |
| 長期責任 | 操業終了後のモニタリング期間と、責任が誰に残るか |
| 生産物の扱い | 増産された原油が自社のスコープ 3(カテゴリ 11 など)にどう計上されるか |
| 価格感度 | 原油価格と CO₂ 価格の双方に対する収益の振れ幅 |
特に注意が要るのは、EOR 由来のクレジットや「低炭素原油」という訴求が、外部の評価枠組みで必ずしも受け入れられるとは限らない点である。温室効果ガス排出量の算定では排出削減と大気からの除去が別の扱いを受けており、投資家や目標設定の枠組みによっては EOR に伴う貯留を自社目標の達成手段として認めない立場もとられるとされる。開示文書で「CCUS 案件に参画」と書くだけでは、後から算定根拠を問われたときに答えられない。
その一方で、CO₂-EOR を技術の学習場として評価する見方には実務的な合理性がある。CO₂ の長距離輸送、圧入井の運転、地層内の挙動のモニタリング、腐食環境下での材料選定といった知見は、収益源が原油であっても蓄積される。帯水層への専用貯留が本格化したときに必要になる運用能力は、ほぼ同じ系統の技術である。案件の位置づけを「排出削減の実績」ではなく「貯留インフラの運用経験の獲得」として社内で説明したほうが、評価の軸がぶれにくい。