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GHGプロトコル詳解 — カーボン会計の国際標準と日本企業の実務適用

GHGプロトコルはScope 1・2・3の概念を定義し、世界標準のカーボン会計フレームワークとなっているが、「なぜそう計算するのか」を理解せずに形式的に適用している企業は多い。本稿はGHGプロトコルの設計思想・算定方法・日本固有の注意点を体系的に解説する。

GHGプロトコルの成り立ち

GHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)は、WRI(世界資源研究所)とWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)が1998年から共同で策定したカーボン会計の国際標準です。現在の主要規格:

  • Corporate Standard(2004年):企業のScope 1・2排出量算定の基礎
  • Corporate Value Chain Standard(Scope 3、2011年):15カテゴリのScope 3算定方法を規定
  • Product Standard(2011年):製品ライフサイクルのCFP算定
  • Market-based Guidance(2015年):Scope 2の市場ベース算定(証書・PPA等の扱い)

Scope 1・2・3の定義と境界設定

Scope 1:直接排出

自社が所有・管理する排出源からの直接排出。燃料燃焼(ボイラー・社有車・工場設備)、プロセス排出(化学反応・廃棄物処理)、フガシティブ排出(冷媒漏れ・パイプライン漏れ)の3種類が対象。組織境界(財務管理・持分比率・支配力アプローチ)の選択が算定結果に大きく影響します。

Scope 2:間接排出(エネルギー起因)

購入電力・熱・蒸気・冷熱の使用に伴う排出。2つの算定アプローチがあります:

  • ロケーションベース:系統平均排出係数を使用。日本では電力会社別の実排出係数(環境省・電気事業者別排出係数一覧)を適用。
  • マーケットベース:再エネ証書・PPAの購入証明を優先使用し、それ以外はサプライヤー固有係数またはリデュアル係数を使用。RE100対応にはマーケットベースが必須。

Scope 3:その他の間接排出(バリューチェーン)

15カテゴリに分類される上流・下流のバリューチェーン排出量。多くの企業にとってScope 1+2の10〜100倍規模となる場合があります。主要カテゴリの日本企業での重要度:

  • Cat.1(購入製品・サービス):製造業で最大規模。90%以上の企業で重要カテゴリ。
  • Cat.4(輸送・配送・上流):物流業・小売業で重要。
  • Cat.11(販売した製品の使用):自動車・電機・エネルギー業で重要(車の走行排出等)。
  • Cat.15(投融資):金融機関のfinanced emissionsに特化。PCAAFガイダンス適用。

算定方法の選択と精度管理

一次データ vs. 二次データ

GHGプロトコルはデータの階層として、一次データ(実測値・サプライヤー固有データ)を最優先とし、二次データ(業界平均・EE IO係数・文献値)はフォールバックとして使用することを推奨しています。開示の質向上に向け、一次データカバレッジ率(特にScope 3の主要カテゴリ)を年次で高めていく計画が求められます。

排出係数の選択

日本固有の注意点として、電力の排出係数は経年変化が大きく(原発稼働率・再エネ導入量に依存)、年度ごとの適切な係数を使用することが重要です。環境省が毎年公表する「電気事業者別排出係数」と「調整後排出係数(マーケットベース)」を参照してください。

日本固有の実務注意点

省エネ法との整合

エネルギー管理法(省エネ法)ベースのエネルギー使用量報告とGHGプロトコルベースの排出量算定は、境界・係数・対象範囲が異なる場合があります。同一データを複数報告に使いまわす際には整合確認が必要です。

温対法(地球温暖化対策推進法)との関係

温対法の排出量算定・報告は、GHGプロトコルと計算方法が一部異なります(境界定義・係数)。有価証券報告書での気候関連開示はGHGプロトコル準拠が国際標準とみなされるため、国内規制対応と国際開示を分離して管理する体制が必要です。

GHGプロトコルの改訂動向

2024〜2025年にCorporate StandardとScope 3 Standardの改訂プロセスが進行しており、Scope 3のカテゴリ定義・算定方法・検証要件が厳格化される見通しです。 改訂後の新基準への対応計画を早期に立案することが、再開示リスクの回避につながります。

GHGプロトコルと他フレームワークの関係

GHGプロトコルを基礎として、各フレームワーク・制度が構築されています:

  • SBTi:GHGプロトコルの算定値を目標設定の起点とする
  • CDP:GHGプロトコル準拠の算定・開示を要求
  • ISSB S2(IFRS):GHGプロトコルとの整合を前提とした財務開示
  • TCFD:GHGプロトコルの算定値を気候関連財務情報の基礎データとして使用
  • J-Credit:GHGプロトコルベースの削減量算定(方法論ごとに定義)

まとめ

GHGプロトコルは「報告のための規格」から「経営判断の基礎データ規格」へと進化しています。算定精度の向上・一次データカバレッジの拡大・Scope 3全カテゴリの開示——この3軸での継続的改善が、2025〜2026年の国際開示要件(ISSB・EU CSRD等)への対応水準を決定づけます。正確なGHGアカウンティングこそが、脱炭素戦略の実効性の土台です。


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