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CCUSとDACの違いを解説:CO₂捕捉・利用・貯留(CCUS)と直接空気回収(DAC)の仕組み・コスト・日本での実装動向

  1. CCUS(二酸化炭素回収・使用・貯蔵)
  2. DAC(Direct Air Capture)

CCUS(二酸化炭素回収・使用・貯蔵)

CCUS(Carbon Capture, Utilization, and Storage)は、二酸化炭素(CO2)を直接取り込み、それを有効活用し、地中に安全に保管する技術を指します。主な目的は、産業プロセスやエネルギー生産などのCO2排出源からCO2を捕捉(Capture)し、それをさまざまな方法で活用(Utilization)し、最終的に地下に貯蔵(Storage)することで、大気中のCO2濃度を削減することです。
CCUSは、化石燃料の使用を続けながらCO2排出を削減する方法として注目されています。具体的には、以下の3つのステップに分かれています。

IEAより引用
  • Capture(捕捉):
    CO2を排出する産業プロセスやエネルギー発電所からCO2を取り込みます。これは、吸収剤や膜を使用した化学的な方法や、高温での物理的な分離など、さまざまな技術が用いられます。
  • Utilization(使用):
    取り込んだCO2を利用する方法です。CO2は化学プロセスに利用されたり、燃料や化学物質の原料として再利用されたりすることがあります。
  • Storage(貯蔵):
    CO2を地中や海中に安全に貯蔵する方法です。これには、地下の岩層や空洞にCO2を封じ込める地下貯蔵が含まれます。

CCUSは、特に産業プロセスやエネルギー発電においてCO2排出を削減する手段として有望視されており、気候変動対策に重要な技術とされています。

CB Insightsより引用

DAC(Direct Air Capture)

DACは、「直接空気回収」とも呼ばれ、大気中のCO2を直接取り込み、排出源がない場所でもCO2を削減する技術です。CCUSとは異なり、DACは特定の産業プロセスやエネルギー発電所からの排出を捕捉するのではなく、大気中のCO2自体を捕捉します。
DACのプロセスは、大気から空気を吸い込み、CO2を特定の吸収剤と反応させてCO2を取り込みます。その後、吸収剤とCO2を分離し、CO2を取り出します。このようにして取り出されたCO2は、CCUSと同様に利用されるか、地下に貯蔵されることがあります。
DACは、CO2を排出源からではなく大気中から直接捕捉するため、排出源がない場所でもCO2削減が可能であり、地域の制約を受けずに利用できる利点があります。しかし、現段階では技術の実用化には高コストが課題とされており、研究と開発が進められています。
日本は2050年に脱炭素社会の実現を目指しています。カーボンニュートラルは「CO2のプラスとマイナスが0の状態」です。ただし、仮に2050年にその状態が達成できたとしても「現状維持」でしかありません。大気の温度を温暖化前の状態に戻すには、「現在排出されるCO2」を回収するだけではなく、「既に空気中に排出されてしまった過去のCO2」を回収する必要があります。DACの真価はここにあると考えられています。
DACは、再生可能エネルギーと組み合わせてネガティブエミッション技術として考えられ、将来的な気候変動対策の一環として有望視されています。


CCUSとDACを分ける3つの軸:濃度・エネルギー・責任範囲

CCUSとDACは「CO2を回収する」という点では同じ範疇に見えるが、実務上は3つの軸で性質が大きく異なる。この違いを押さえておかないと、自社がどちらに関与すべきかの判断を誤る。

第一の軸はCO2濃度である。大気中のCO2濃度は体積比で約0.04%(420ppm前後)とされる。一方、火力発電所の排ガスは数%から十数%、セメントキルンの排ガスは20%前後、アンモニア製造やエタノール発酵のプロセス排ガスは90%以上に達する場合がある。回収に必要なエネルギーは濃度が低いほど急激に増える。これは熱力学の制約であり、技術進歩で消せるものではない。同じ「1トンのCO2回収」でも、高濃度源からの回収と大気からの回収では必要な仕事量の桁が違う。

第二の軸は必要エネルギーとその質である。アミン吸収法による排ガス回収では、吸収液からCO2を分離する再生工程に100〜150℃程度の低温熱が必要とされ、既存プラントの廃熱や低圧蒸気で賄える余地がある。対してDACでは、液体アルカリ方式なら800〜900℃級の高温が、固体吸着方式なら減圧と80〜120℃程度の加熱サイクルに加えて大量の送風動力が必要とされる。DACの実質的な脱炭素効果は、使う電力と熱がどれだけクリーンかに完全に依存する。化石燃料由来の電力でDACを動かせば、回収量より排出量が上回る事態も起こり得る。

第三の軸は責任範囲と帰属である。CCUSは「自社が出す排出を自社で減らす」構造であり、削減量はスコープ1の低減として自社の排出量計上に直結する。DACは「誰が出したか特定できないCO2を大気から引き戻す」構造であり、除去(Removal)として扱われる。この区別は、GHGプロトコルやSBTi(Science Based Targets initiative)の考え方において、削減(Reduction)と除去(Removal)を混ぜて相殺してはならないという原則につながっている。DACクレジットを購入しても、自社の排出削減努力の代替にはならないという整理が国際的な標準になりつつある。

比較項目 CCUS(排出源回収) DAC(大気直接回収)
対象CO2濃度 数%〜90%超(排出源により大きく変動) 約0.04%(420ppm前後)
設置場所の制約 排出源に併設が必須 安価な再エネと貯留層があればどこでも可
必要な熱の温度帯 100〜150℃程度(方式により異なる) 80〜900℃(方式により大きく異なる)
会計上の扱い 自社排出の削減(スコープ1低減) 大気からの除去(Removal)
現在のコスト水準 比較的低い 著しく高い
過去の排出への対応 不可 可能

コストの数字をどう読むか:回収単価だけを見ると判断を誤る

CCUSやDACのコストは「1トンあたり何円・何ドル」という形で語られることが多いが、この数字は比較可能な形で提示されていないことが多い。実務で検討する際には、少なくとも次の分解を意識する必要がある。

回収コストと輸送・貯留コストは別物である。 国際エネルギー機関(IEA)の整理では、排出源からの回収コストは濃度によって大きく異なり、高濃度のプロセス排ガスからの回収は比較的安価、低濃度の排ガスからの回収は数倍の水準になるとされる。これに加えて、圧縮・パイプライン輸送または船舶輸送・圧入井の掘削・モニタリングの費用が積み上がる。日本の場合、国内に大規模な貯留適地が限られることから、輸送距離と船舶輸送の比重が欧米の事例より大きくなる構造にある。海外事例の回収単価をそのまま日本に当てはめると、総コストを大幅に過小評価することになる。

DACのコスト見通しは「将来値」である。 現在稼働しているDAC設備の実コストは1トンあたり数百ドル規模とされ、事業者が掲げる100ドル台という目標値は量産とスケールアップを前提にした試算である。この試算が成立する条件は、極めて安価な再生可能エネルギーの確保、吸着材の長寿命化と量産、設備のモジュール化による建設費低減といった複数の前提が同時に満たされることにある。経営判断の材料としては、目標値ではなく現在の実コストを起点に、どの前提が自社の調達条件で満たせるかを確認する姿勢が妥当である。

コストの分母にはエネルギーの機会費用が入る。 DACに使う再生可能エネルギー1kWhは、同じ1kWhを既存の化石電源の置き換えに使うこともできる。既存電源の置き換えによる削減効果とDACによる除去効果を比べれば、現在の電源構成では前者の方が圧倒的に費用対効果が高い。DACが合理化されるのは、電力系統が十分に脱炭素化した後、あるいは余剰再エネが発生する立地に限られるという見方が一般的である。この順序の理解が、投資タイミングを誤らないための要点になる。

日本の制度側の動き:CCS事業法とJ-クレジット・GX-ETSの接続

技術の話とは別に、日本では制度の枠組みが動いている。ここを押さえないと、回収したCO2が「誰の削減として、どの制度で評価されるか」が決まらず、事業の収益化に至らない。

CCSについては、2024年に二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)が成立した。これにより、貯留区域の指定、試掘権・貯留権の許可、貯留後の長期的なモニタリング責任の所在といった、それまで空白だった制度の骨格が整った。事業者にとっての意味は、「地中に入れたCO2が将来漏れた場合に誰が責任を負うのか」という最大の不確実性に法的な答えが与えられた点にある。経済産業省とJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)は先進的CCS事業として複数のプロジェクトを選定し、国内貯留と輸出による海外貯留の両方の経路を検討している。

炭素価格との接続では、GX-ETS(GXリーグの排出量取引制度)が2026年度から多排出企業に対して段階的に義務的な枠組みへ移行する方向で設計が進んでいる。企業が回収・貯留したCO2を自社の排出量計算からどう控除するか、第三者から購入した除去クレジットをどこまで充当できるかという算定ルールが、CCUS投資の採算を直接左右する。J-クレジット制度でも、CO2を回収して製品に固定化する方法論の検討が進められている。

実務上の論点は次の3つに集約される。第一に、自社の排出がどの濃度帯にあるかの棚卸しである。高濃度のプロセス排ガスを持つ企業(化学、製鉄、セメント、紙パルプ、発酵・醸造)は、他業種より低コストでCCUSに着手できる構造的な優位がある。第二に、回収したCO2の出口の確保である。貯留先が確保できなければ回収設備は稼働できず、利用先(コンクリート養生、合成燃料、化学品原料)の需要量は貯留に比べて桁が小さい。第三に、算定ルールの確定を待つかどうかの判断である。ルールが固まる前に設備投資を決めると、想定した控除が認められないリスクが残る。一方で、貯留適地や輸送インフラの枠の確保は先行者が有利になる。この両者のトレードオフをどう取るかが、2026年時点の経営判断の中身になる。

日本企業が今期に着手できる実務の優先順位

CCUSもDACも、多くの企業にとっては「自社で設備を持つ」判断の前に、やるべき準備がある。

排出源の濃度マップを作る。 自社の全排出点について、排ガス中のCO2濃度、流量、温度、不純物(SOx、NOx、粉じん、酸素)の組成を整理する。アミン吸収法では酸性ガスと酸素が吸収液を劣化させるため、前処理の要否とコストがここで決まる。この基礎データがないと、エンジニアリング会社からの提案を評価できない。

余剰熱の棚卸しを並行して行う。 回収工程のコストの大半は再生熱である。工場内に100〜150℃の未利用熱があるかどうかで、投資判断は大きく変わる。省エネ診断で既に取得しているデータが流用できる場合が多い。

サプライチェーンからの要請を先読みする。 自社がCCUSに踏み込む直接の動機は、炭素価格よりも顧客からの要請であることが多い。鉄鋼・化学・セメントの素材を使う下流企業がスコープ3の削減目標を掲げれば、低炭素素材への切り替え要請として上流に降りてくる。この要請がいつ、どの顧客から、どの製品について来るかを想定しておくことが、設備投資のタイミングを決める実質的な材料になる。

除去クレジットの購入は「学習コスト」と位置づける。 DACクレジットを現在の価格で大量に購入することは、費用対効果の観点では合理的でない。一方で、少量の購入を通じて、クレジットの品質評価(追加性、永続性、モニタリングの検証可能性)を自社で判断できる体制を作ることには意味がある。将来の炭素市場で必要になる目利きの能力は、実際に取引してみないと身につかない。この位置づけを社内で明確にしておけば、投資額の妥当性を説明しやすくなる。

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