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建物の建設時排出(エンボディドカーボン)を設計で減らす — 構造・材料の選択と測り方の標準

(本稿の情報は2026年10月時点)

この記事の結論

  • 運用時排出を削った建物では残る削減余地が建設時排出に移り、その大半は構造形式と主要材料を決める基本設計で確定する。
  • 木造・RC造・S造の優劣は生物由来炭素の計上方法とDモジュールの扱いで入れ替わるため、材料ランキングは意思決定に使えない。
  • グリーンプレミアムの前提はEN 15978のモジュール区分に整合した算定であり、前提を開示しない社内試算は買い手と金融機関の審査を通らない。

運用時排出は設計で下げられる領域になった。だが建設時排出は違う。鉄とセメントの製造工程で既に出てしまった排出を、竣工後の運用努力で取り戻すことはできない。ZEB相当の省エネ性能と再生可能エネルギー調達を組み合わせた建物では、ライフサイクル全体の排出のうち「建てる前に確定した分」の比重が大きくなる。削減余地は時間的に前倒しされ、意思決定の窓は基本設計に圧縮されている。

「運用が減ると建設時が残る」という構造変化

ホールライフカーボン(建物の生涯排出)は、運用時排出(オペレーショナルカーボン)と建設時排出(エンボディドカーボン)に大別される。前者は電力の低炭素化と断熱・設備性能の向上で下がり続けてきた。後者は建材製造の排出原単位に依存し、建物側の運用では動かない。

ここで注意すべきなのは、比率の変化が何を意味するかである。建設時排出の比率が上がったのは、運用側が減った結果であって、建設時の絶対量が増えたからではない。「エンボディドカーボンが生涯排出の半分を占める」という言い方は、分母が縮んだ事実を述べているに過ぎない。絶対量の削減を議論するときに比率の話を持ち込むと、優先順位を誤る。

設計で動かせる範囲を規格の言葉で切ると、EN 15978(建築物のサステナビリティ評価 — 建物の環境性能の算定方法)のモジュール区分が使える。A1–A3が製品段階(原材料調達・輸送・製造)、A4–A5が施工段階(現場への輸送・施工)、Bが使用段階(B4が部材更新、B6が運用エネルギー)、Cが解体・廃棄段階、Dが「システム境界の外」の便益と負荷(再利用・リサイクル・エネルギー回収)である。設計の自由度が最も高いのはA1–A5で、ここが設計段階の勝負どころになる。

ライフサイクル段階(EN 15978モジュール) 内容 設計での自由度 決まる時期
A1–A3(製品段階) 建材の原材料調達・輸送・製造 高(構造形式・材料選択で大きく動く) 基本設計
A4–A5(施工段階) 現場輸送・施工時エネルギー・施工ロス 中(工法・調達圏で動く) 実施設計〜施工計画
B4(部材更新) 内装・設備の更新に伴う再製造 中(耐用年数設計・更新容易性で動く) 基本〜実施設計
B6(運用エネルギー) 運用時の電力・燃料 高(ただし既に削減が進んだ領域) 基本〜実施設計
C1–C4(解体・廃棄) 解体・輸送・処理 低〜中(接合部の解体容易性で動く) 実施設計
D(境界外の便益/負荷) 再利用・リサイクル・エネルギー回収 中(ただし計上方法に結果が依存) 設計+算定方法の選択

出典:EN 15978のモジュール区分に基づくClimate tech news(CTJPN)の整理

この表が示すのは、削減レバーの大きい段階ほど早く確定してしまうという非対称である。A1–A3は基本設計で実質的に決まる。実施設計に入った時点で残っているのは材料内の低炭素化と細部仕様だけになる。

削減レバーの大きさの順序 — 構造形式が主要材料に先立つ

建設時排出の大部分は構造体(基礎・躯体)と外皮に集中する。内装と設備は更新頻度が高いためB4側で累積するが、A1–A3の一回性の削減量では構造体に及ばない。したがって設計者が最初に触るべきはレイアウトや仕上げではなく、架構そのものである。

レバーの順序は五段階に整理できる。最も大きいのは「建てない、あるいは減らす」ことで、既存建物の改修活用や延床面積の最適化がここに入る。次に構造形式の選択(スパン割り・階高・架構形式)。三番目に主要材料の選択(コンクリート・鉄骨・木材)。四番目に材料内の低炭素化、すなわち高炉スラグ微粉末(GGBS)やフライアッシュによるセメント置換、電炉鋼の採用、認証木材の調達。最後に細部仕様が来る。

削減レバー 相対的な削減余地(定性整理) 意思決定時期 追加コストの方向
建てない・延床を減らす 最大(削減した床面積に比例) 企画・事業計画 コスト減
既存建物の構造躯体を活用 大(新設躯体分の相当部分。ただし補強・改修に伴う新規材料のA1–A3は発生する) 企画・基本計画 調査費増・工期リスク
構造形式・スパン・階高の最適化 大 基本設計 ほぼ中立(設計工数増)
主要材料の選択(RC/S/木) 中〜大 基本設計 案件条件で増減
材料内の低炭素化(GGBS置換・電炉鋼・認証木材) 中 実施設計〜調達 小〜中の増
細部仕様(仕上げ・内装) 小 実施設計以降 小

出典:Climate tech news(CTJPN)による定性整理(算定値ではない)

「効くのは設計の初期だけ」という経験則の正体は、この表の二列目と三列目が逆順に並んでいることにある。削減余地が大きいレバーほど早く確定し、遅く来る意思決定には小さなレバーしか残らない。基本設計段階でエンボディドカーボンの算定を回していない組織は、構造的に大きい削減を取り逃している。実施設計からGGBS置換を検討しても、それは残った中サイズのレバーを引いているだけだ。

既存躯体の活用について一点補っておく。躯体を残せば新設分のA1–A3は発生しないが、耐震補強が必要な建物では補強部材・増設基礎・開口閉塞に相当量の新規材料が入る。「躯体排出がまるごと消える」という説明は過大だ。削減量は補強の規模に依存し、調査の結果で事業性ごと崩れることもある。

ここに事業上の意味がある。エンボディドカーボンの削減を謳う建物を商品化したいデベロッパーは、設計者の選定と基本設計の進め方を変えないかぎり、削減幅を数字として主張できない。グリーンプレミアムの原資は、意思決定の順序を変えることで生まれる。

構造形式の選択は「条件付き」でしか成立しない

木造が低炭素だという主張は、条件を明示しないかぎり検証不能である。CLTや集成材のA1–A3排出が低く見えるかどうかは、生物由来炭素(バイオジェニックカーボン)の計上方法に決定的に依存する。EN 15978およびEN 16485(木材・木質製品のEPD作成に関する製品分類別規則)が採る-1/+1アプローチでは、A1–A3で木材中の生物由来炭素を負値(-1)として計上し、C段階で焼却・腐朽による放出を正値(+1)として計上する。ライフサイクル全体(A–C)を通算すると、貯留分は相殺される扱いになる。ただし収支がきれいにゼロに収まるのは、C段階の処理想定が焼却・腐朽で、再利用やカスケード利用の便益をDモジュールに分離した場合である。処理想定と計上範囲が変われば数字も変わる。

つまり「木造が◯%低い」という数値を見たときに確認すべきは三点ある。A1–A3のみを切り出して貯留を計上したのか。ライフサイクル全体(A–C)を通算したのか。再利用による便益をDモジュールに置いたのか。この三つで同じ建物の数字が大きく動く。A1–A3だけを比較して木造の優位を主張する資料は、C段階の放出を視野の外に置いている。建物の販売や資金調達の場でこの切り出し方を使うと、買い手側のデューデリジェンスで指摘を受けるリスクがある。

RC造は体積が大きく、排出はセメント起因が支配的になる。削減余地はGGBS・フライアッシュによるセメント置換と、部材断面の最適化に残る。JIS A 6206が高炉スラグ微粉末を比表面積で区分しているとおり、混和材の種類と粉末度によって強度発現の挙動は変わり、置換率を上げると初期強度の発現が遅れる傾向がある。土木学会・日本建築学会の各指針が置換率に応じた養生期間と型枠存置期間の設定を求めているのはこのためで、削減は工程コストとのトレードオフになる。影響が出始める置換率の水準は、要求強度・部材厚・施工時期の気温で変わるため、案件ごとの配合計画で確認する以外に方法がない。

S造は電炉鋼かBF-BOF(高炉転炉)鋼かで排出原単位が大きく変わり、さらに解体後の再利用・リサイクル便益をDモジュールに計上するかで結果が動く。鋼材のスクラップ由来比率を前提として置くだけで、S造の評価は上下する。

構造形式 主な削減レバー 結果を左右する前提 比較時に確認すべき点
RC造 GGBS/フライアッシュ置換、断面最適化、高強度化による部材削減 セメント置換率、混和材の調達可否、養生期間 置換率と工期の前提が明示されているか
S造 電炉鋼の採用、スクラップ比率、部材量の最適化 鋼材の製造ルート(電炉/高炉)、Dモジュールの計上 再利用便益をDに置いているか、A1–A3のみか
木造(CLT・集成材) 生物由来炭素の貯留、軽量化による基礎縮小 -1/+1アプローチの適用、調達林の認証、C段階の処理想定 貯留をA1–A3で計上し、C段階の放出を省いていないか
混構造(下部RC+上部木造等) 部位別の最適化、基礎量の削減 接合部ディテール、耐火被覆の追加材 部位ごとの算定境界が整合しているか

出典:Climate tech news(CTJPN)による定性整理(算定値ではない)

用途、階数、スパン、地盤条件、耐火要求のいずれかが変わると、この三形式の順位は入れ替わる。軟弱地盤で基礎が支配的な案件では軽量な木造・S造が有利に出やすく、長大スパンと重い積載荷重が要求される用途ではRCやS造の部材効率が効く。耐火要求の厳しい中高層では木造に被覆材が加算され、A1–A3の優位が目減りする。

発注者が意思決定に使えるのは材料ランキングではない。自分の案件条件で回した比較計算である。設計事務所に対して「低炭素な構造にしてほしい」と発注するのではなく、「基本設計の構造比較案ごとにA1–A5を算定して提出してほしい」と発注する。これが実務上の分岐点になる。

なお、セメントや鉄の製造プロセスそのものの脱炭素(CCUS、原燃料転換、水素還元製鉄)は材料メーカー側の論点であり、設計者が触れるのは「いま市場に調達可能な製品として何があるか」に限られる。調達可能性の確認は設計判断の一部である。

測り方の標準 — 社内試算を外部に通る数字に変える

削減量を主張するには算定が必要で、算定が外部に通るには標準への整合が必要になる。EN 15978が定めるA/B/C/Dのモジュール区分は、建物のライフサイクル評価の国際的な共通言語になっており、ISO 21931-1(建築物のサステナビリティ評価の枠組み)と併せて参照される。国内の算定枠組みもこの区分との整合を志向している。

日本では国土交通省の検討の場で、建築物のホールライフカーボン算定を標準化する作業が進んでいる。算定の前提条件・原単位データベース・報告様式を揃える方向にあり、算定ツールの整備もその一部に含まれる。適用範囲・位置づけ・最新の版は更新が続く領域なので、国土交通省の公表資料を直接確認するのが確実だ(出典:国土交通省)。固有のツール名や会議体名を前提に社内の算定体制を組むのではなく、EN 15978のモジュール区分に整合した算定ができる体制を先に作るほうが、制度の更新に耐える。

実務上の要点は、ツールの選択よりも前提条件の開示である。同じ建物でも、原単位データベース、算定対象範囲(A1–A3のみかA1–A5か、Bを含むか)、生物由来炭素の扱い、Dモジュールの計上有無によって数字が動く。前提を開示しない算定結果は、買い手や金融機関の審査で比較可能性を失う。

算定の論点 社内試算でよくある扱い 外部に通る扱い 差が生む問題
算定範囲 A1–A3のみ A1–A5を明示、B・C・Dの扱いを記載 施工段階を除いた削減率は過大に見える
原単位データベース 混在・出所不記載 使用DBとバージョンを明記 比較不能、第三者検証で差し戻し
生物由来炭素 貯留のみ計上 -1/+1の適用を明記、C段階も計上 木造の優位が検証で崩れる
Dモジュール 便益を本体に合算 境界外として分離表示 削減量の二重計上とみなされる
比較の基準建物 定義なし ベースラインの仕様・年次を明記 「◯%削減」の根拠が消える

出典:EN 15978・EN 16485の計上規定に基づくClimate tech news(CTJPN)の整理

この表のうち最も実害が出やすいのは、算定範囲と基準建物の二つである。A1–A3のみで削減率を算出し、ベースラインを定義せずに「従来比◯%削減」と表示した資料は、売買契約やサステナビリティ連動融資の審査局面で数字として使えない。EPD(環境製品宣言)が整備された建材を使い、使用DBとバージョンを明記するだけで、同じ設計の数字が通る数字に変わる。グリーンプレミアムの実現可能性は、設計の中身と同じくらい、算定の形式に左右される。

課題・反論・代替視点

最も強い反論は、エンボディドカーボンの削減がプレミアムとして価格に乗らないという指摘である。賃料や売買価格に反映されるのは立地、スペック、認証の有無だ。グリーンビルディング認証と賃料・価格のプレミアムに関する研究は国内外に蓄積があるが、認証とは独立にA1–A3の削減量そのものが取引価格を動かしていることを示した国内の実証研究は確認できていない。この批判は妥当だ。削減量が価格に転嫁されないなら、削減は単なるコスト増になる。現実的な経路は、投融資先の排出(スコープ3カテゴリ15)や事業者の資本財調達に伴う排出の管理要請を通じた間接的な需要であり、個別物件の価格形成よりも調達基準としての機能が先に来る。この順序を取り違えると、投資判断を誤る。

第二の反論は、運用時排出との優先順位である。建設時排出の比率が上がったといっても、既存建物ストックの運用時排出の絶対量は依然として大きい。新築一棟のA1–A3を削るより、既存ストックの改修で運用時排出を削るほうが社会全体の削減量は大きくなりうる。この見方は正しい。ここで扱っているのは「新築をつくると決めた後の設計判断」であって、新築と改修のどちらを選ぶかという上位の判断では改修が優位になる場面が多い。先の表で「建てない・延床を減らす」を最大のレバーに置いたのは、この点を踏み込んだ結果である。

第三に、木造の生物由来炭素をめぐる科学的な論争がある。-1/+1アプローチは算定の整合性を保つが、森林の炭素蓄積の時間的な動態(伐採後の再成長に要する期間、収穫法による土壌炭素の変動)を十分に表現していないという批判がある。木材利用が炭素中立であるという前提自体に、持続可能な森林経営と再造林の実施という条件が付く。認証材の調達が形式的な確認で終わるなら、算定上のゼロは実態上のゼロを意味しない。

代替視点として、削減量を単年の排出で測るのではなく、時間価値を織り込んで評価する考え方がある。建設時排出は竣工時に一括で大気に出る一方、運用時排出は数十年に分散する。気温上昇の抑制が時間に敏感であるなら、同量でも前倒しで出る排出のほうが重い。GWP*や動的LCAとして学術研究や一部の制度検討で用例があり、この見方を採ると建設時排出の優先度はさらに上がる。ただし割引率に相当するパラメーターの設定に合意がなく、建物のライフサイクル算定の標準には組み込まれていない。現時点で取引や審査の場に通る形にはなっていない。

日本市場・日本企業への示唆

海外のエンボディドカーボン規制をそのまま持ち込めない理由は、制度の作りが違うところにある。オランダのMPG(環境性能指標)やフランスのRE2020は、建物のライフサイクル排出に上限値を設け、建築許可の要件に組み込んでいる。規制が義務水準を定めているため、設計者は算定を回さざるをえない。日本の建築物省エネ法は一次エネルギー消費量と外皮性能、すなわち運用時の性能を適合義務の対象としており、建設時排出に義務的な上限はかかっていない。算定を回すインセンティブは、規制ではなく発注者の要求と金融・投資側の情報開示要請から来る。

この違いが実務にもたらす帰結は明確だ。日本では算定の実施が任意であるため、発注者が仕様書で要求しなければ基本設計段階の比較算定は行われない。削減の意思決定の窓が基本設計にあるという事実と、算定の着手が任意であるという制度条件が噛み合っていない。デベロッパーが取りうる最も効果の大きい打ち手は、設計委託の業務範囲に「基本設計段階での構造比較案ごとのA1–A5算定」を書き込むことである。設計料に対して限定的な追加費用で、躯体という最も排出量の大きい部分の選択肢が可視化される。

材料調達の条件も日本固有である。GGBSは高炉での銑鉄生産に伴う副産物であるため、国内の高炉稼働と連動して供給される。高炉の休止・転換が進む局面では調達の前提が変わる。電炉鋼への移行が進むこと自体はS造の排出原単位を下げるが、同時にGGBSの供給基盤を細らせる方向に働く。RC造の低炭素化をGGBS置換に依存する戦略は、中期的な供給リスクを抱える。設計事務所とゼネコンは、置換材の調達可否を案件ごとに確認する運用に切り替えるのが合理的だ。

木造については、建築基準法の耐火要件と中層木造の実績が制約になる。国内のCLTは生産設備の整備が進み供給体制が拡充してきたが、大断面集成材・CLTの価格と納期は案件規模に対して変動が大きく、基本設計時点の前提が実施設計で崩れることがある。木造化によるA1–A3削減を事業計画に織り込む場合、調達リスクを工程と価格の両面で見積もるのが現実的だ。

情報開示の側から見ると、SSBJが2025年3月に公表したサステナビリティ開示基準が適用段階に入り、不動産・建設セクターのスコープ3の算定精度が問われる。エンボディドカーボンが落ちるのは主にカテゴリ1(購入した製品・サービス。建材・工事の調達)とカテゴリ2(資本財。自社保有となる建物の建設)であり、販売した建物の運用時エネルギーに相当するカテゴリ11とは区別して扱う。この切り分けを誤ると、算定の二重計上や抜けが生じる。建材のEPDに基づく一次データの比重を上げられる企業は、開示の質で差をつけられる。これは算定能力が開示能力に直結する構造であり、設計段階の算定体制を持つことが企業価値の側に接続する入口になる。

まとめ

運用時排出の削減が進んだ建物では、残る削減余地が建設時排出に移り、その大半は基本設計で確定する。削減レバーの大きさと意思決定時期が逆順に並んでいるため、実施設計以降に算定を始める組織は構造的に大きいレバーを引けない。設計の自由度が最も高いA1–A5を、構造形式の比較案ごとに算定することが、削減量を主張可能な数字に変える経路である。

材料の優劣を一般論で決めることはできない。木造・RC造・S造の順位は、生物由来炭素の計上方法、Dモジュールの扱い、地盤条件、耐火要求で入れ替わる。発注者が持つべきは材料ランキングではなく、自案件条件での比較計算と、その前提条件を開示する算定の作法である。算定範囲、原単位データベースのバージョン、ベースライン建物の定義を明記しない削減率は、売買とファイナンスの審査局面で使えない。前提を開示する形式に整えるコストは、設計委託の追加業務として限定的な範囲に収まる。

日本では建設時排出に義務的な上限がなく、算定のインセンティブは発注者の要求と開示要請から来る。この制度条件のもとでは、設計委託の業務範囲に基本設計段階の算定を書き込んだ発注者だけが削減の選択肢を手に入れる。国土交通省によるホールライフカーボン算定の標準化とSSBJ基準に基づく開示の本格化が重なる今後3年に向けて、基本設計段階で算定を回す体制を持つかどうかが、グリーンプレミアムを取れる事業者と取れない事業者を分ける分水嶺となる。


主要出典

  • CEN「EN 15978 Sustainability of construction works — Assessment of environmental performance of buildings — Calculation method」(欧州標準化委員会)
  • CEN「EN 16485 Round and sawn timber — Environmental Product Declarations — Product category rules for wood and wood-based products for use in construction」(欧州標準化委員会)
  • ISO「ISO 21931-1:2022 Sustainability in buildings and civil engineering works — Framework for methods of assessment of the environmental, social and economic performance of construction works — Part 1: Buildings」(国際標準化機構)
  • 国土交通省「建築物のライフサイクルカーボン(ホールライフカーボン)の算定・評価に関する公表資料」 https://www.mlit.go.jp/
  • 日本産業規格「JIS A 6206 コンクリート用高炉スラグ微粉末」(日本規格協会)
  • 環境省・経済産業省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」 https://www.env.go.jp/
  • GHGプロトコル「Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard」(カテゴリ1・2・11・15の定義) https://ghgprotocol.org/
  • サステナビリティ基準委員会(SSBJ)「サステナビリティ開示基準(2025年3月公表)」 https://www.ssb-j.jp/
  • 金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する公表資料」 https://www.fsa.go.jp/

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