RWGS(Reverse Water Gas Shift、逆水性ガスシフト反応)は、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)が反応して一酸化炭素(CO)と水(H2O)を生成する吸熱反応です。通常の水蒸気改質(水とメタンから水素と一酸化炭素を生成する反応)とは逆のプロセスです。RWGSはカーボンニュートラルの実現に向けて、クライメートテックが技術開発を進める分野の一つです。
以下に、RWGS(逆シフト反応)についての詳細な解説を示します。
概要
RWGSは以下の反応式で表されます。
CO2 + H2⇔ CO + H2O
この反応は高温で反応が進みやすく、触媒の存在下で行われることが一般的です。CO2と水素(H2)が反応して一酸化炭素(CO)と水(H2O)が生成されます。生成されたCOはe-fuelやe-メタノール製造の原料(合成ガス成分)として利用されます。

メタンからCOとH2の合成ガスを生成する方法としては、現状では主に逆シフト反応(Reverse Water Gas Shift、RWGS)と呼ばれるプロセスが主流となっている。メタンを水蒸気改質すると、H2とCOの他にCO2が得られる。そのCO2をCOに還元するのにこのプロセスを利用する。COとH2O、およびCO2とH2の間の平衡反応(シフト反応)を触媒でCO側、すなわち逆向きに偏らせることから、逆シフト反応と呼ばれている。
メリットとデメリット:
メリット:
- 一酸化炭素と水素の生成: RWGSは、一酸化炭素と水素を生成する反応であり、これらのガスは燃料電池や合成ガスの製造に利用されます。
- 反応の可逆性: RWGSは可逆反応であり、反応条件を調整することで生成物の組成を制御できます。
デメリット:
- エネルギー効率の低さ: RWGSは高温で行われるため、エネルギーの消費が大きいことが課題となります。
- 触媒の劣化: 反応条件や触媒の種類によっては触媒の劣化が起こりやすいことがあり、これがプロセスの安定性に影響を与える可能性があります。
カーボンニュートラルで注目される理由
RWGSは、カーボンニュートラルな技術として注目される理由があります。カーボンニュートラルとは、化石燃料の使用に伴う二酸化炭素の排出を抑え、または吸収することで、環境への影響を最小限に抑えることを指します。
RWGSは、再生可能エネルギーを用いて水と二酸化炭素から一酸化炭素と水素を生成することができます。このプロセスにおいて、排出される一酸化炭素は、元々大気中に存在していた二酸化炭素からの変換であるため、ネットの二酸化炭素排出が少ないとされています。再生可能エネルギーを用いれば、RWGSはカーボンニュートラルな燃料生産の一環となります。これは、気候変動対策や持続可能なエネルギーの追求に寄与すると期待されています。
RWGS(Reverse Water Gas Shift)がクライメートテックで注目される理由
- 二酸化炭素の削減:
- RWGSは、再生可能エネルギーを利用して水と二酸化炭素から一酸化炭素と水素を生成する反応です。このプロセスにおいて、生成される一酸化炭素は元々大気中に存在していた二酸化炭素からの変換であるため、ネットの二酸化炭素排出が少ないとされています。これにより、二酸化炭素の排出を削減し、気候変動への対策に貢献します。
- カーボンニュートラルな燃料生産:
- RWGSは、再生可能エネルギーを利用して一酸化炭素と水素を生成するため、これらのガスを用いてカーボンニュートラルな燃料を生産することが可能です。これは持続可能なエネルギー供給の一環となり、化石燃料に依存しないクリーンなエネルギーの確保を促進します。
- エネルギーの効率向上:
- RWGSは高温での反応が主であり、これにより反応が進みやすくなります。高い反応効率はエネルギーの効率向上に寄与し、持続可能なエネルギーの生産において重要な要素となります。
- 再生可能エネルギーとの統合:
- RWGSは再生可能エネルギーとの相性が良く、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを活用して動作させることができます。これにより、再生可能エネルギーの安定な供給と組み合わせることで、持続可能なエネルギーシステムの構築が可能となります。
これらの要因により、RWGSはクライメートテックの一環として、気候変動対策と持続可能なエネルギーの推進に重要な技術と見なされています。
RWGS反応の商業実装 — 主要プロジェクト事例
RWGSは研究段階を超え、2020年代に入り商業規模での実証・実装が進んでいる。CO₂起源のe-fuel(合成燃料)製造において中核プロセスとして採用されている。
| 企業・プロジェクト | 所在地 | 規模・状況(2026年) | 最終製品 |
|---|---|---|---|
| HIF Global / Haru Oni | チリ(パタゴニア) | 世界初の商業的e-fuel製造施設。ポルシェ・シーメンス・ExxonMobilが出資。風力発電から水素を製造し、大気中CO₂をRWGSでCOに変換してe-メタノールを合成。2022年試験運転開始。 | e-メタノール(SAF・e-gasoline原料) |
| Sunfire GmbH | ドイツ(ドレスデン) | RWGS+FT合成を統合したPower-to-Liquidプラントを開発・販売。Nordic Electrofuels(ノルウェー)との商業プラント稼働済み。 | e-ディーゼル、e-ナフサ(SAF原料) |
| Infinium | 米国(テキサス) | RWGSベースのe-fuel製造。Amazon・AP Møller-Maerskなど大手物流企業と供給契約。2024年に商業生産開始。 | e-ディーゼル、e-SAF |
| Carbon Recycling International(CRI) | アイスランド | 地熱発電由来H₂とCO₂からメタノールを製造。RWGSプロセスを中間工程に活用。「Carbon Neutral Methanol」としてブランド化。 | 再生可能メタノール |
RWGS + FT合成 — e-fuel製造プロセスの全体像
RWGSは単独で用いられることはほとんどなく、フィッシャー・トロプシュ(FT)合成や直接メタノール合成と組み合わせてe-fuelを製造する「Power-to-Liquids(PtL)」プロセスの前処理工程として機能する。
【e-fuel製造フロー(RWGS + FT合成)】
再生可能エネルギー
↓ 電解
グリーンH₂(H₂) CO₂(大気・排ガス由来)
↓ ↓
──────── RWGS反応(500〜900℃)────────
CO₂ + H₂ ⇌ CO + H₂O
↓
合成ガス(CO + H₂)
↓
FT合成(コバルト/鉄触媒)
↓
e-SAF / e-ディーゼル / e-ガソリン
このルートでは、CO₂から生成したCOとH₂の比率(H₂/CO比)をFT合成の最適条件(通常2:1程度)に調整することが重要な設計課題となる。
触媒の種類と選定基準
RWGS反応の効率は触媒の選択に大きく依存する。主要な触媒系とその特性を以下に示す。
| 触媒系 | 最適温度 | CO選択性 | 主な課題 |
|---|---|---|---|
| Cu/ZnO系 | 250〜400℃(低温) | 中〜高 | 高温での焼結による活性低下。メタノール合成方向への副反応 |
| Fe系 | 600〜900℃(高温) | 高 | 高温維持のエネルギーコスト。コーキングによる触媒劣化 |
| Ni系 | 350〜600℃ | 低〜中 | サバティエ反応(CH₄生成)が競合しやすく、CO選択性が低下 |
| Pt・Rh系(貴金属) | 400〜700℃ | 高 | 触媒コストが高い。商業スケールでのコスト問題 |
なお、Fe系触媒の高温条件では、FT合成とRWGSを単一反応器で同時進行させる「直結FT型」の開発も進められており、プロセス簡素化の観点から注目されている。
コスト構造と経済的課題
RWGS経由e-fuelのコストは、水素製造コストへの依存度が7〜8割と推定されており、グリーン水素価格の低下が事業性の鍵を握る。
| コスト要素 | 現状(2026年) | 将来目標(2030年代) |
|---|---|---|
| グリーン水素(日本) | 約700〜1,200円/kg($4.5〜8/kg) | 約300円/kg以下($2/kg以下) |
| CO₂回収コスト(DAC) | $300〜600/t-CO₂ | $100〜200/t-CO₂(2030年目標) |
| e-SAF製造コスト合計 | 約$3〜8/L相当(従来SAFの3〜6倍) | $1〜2.5/L(コスト競争力達成の目安) |
※コストはプラント規模・電力価格・CO₂調達方法により大きく変動する。上記はIEA・各社IRなどの公開データに基づく参考値。
日本国内の動向
- NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構): グリーンイノベーション基金の「CO₂等を用いたプラスチック原料製造技術開発」プロジェクトにRWGS関連技術を含む合成ガス製造研究を支援
- 三菱重工業: RWGSを含むCO₂変換プロセス技術の開発に取り組み、SAF製造ロードマップに位置づけ
- 出光興産: e-fuel(合成燃料)製造への参入を検討。RWGS+FT合成プロセスを候補工程として調査中
- GX推進法(2023年): 合成燃料を「カーボンリサイクル燃料」として位置づけ、日本のSAF供給義務(2030年目標10%)の達成手段の一つとして期待
よくある質問(FAQ)
Q. RWGSとFT合成はどう違う?
RWGSはCO₂をCOに変換する前処理工程です。FT(フィッシャー・トロプシュ)合成はCOとH₂から液体炭化水素を生成する工程です。e-fuel製造ではRWGS→合成ガス→FT合成という順序でつながります。
Q. RWGSでつくったe-fuelはカーボンニュートラルとみなされる?
原料のCO₂を再生可能エネルギー由来の水素で変換し、燃焼時にそのCO₂が大気に戻る循環が完結する場合、ライフサイクルでカーボンニュートラルに近い燃料となります。ただし、CO₂の回収方法(DACか排ガス由来か)、電力の再生可能エネルギー比率、プロセスエネルギー効率によりCI(カーボン・インテンシティ)値は大きく変わります。
Q. RWGSとサバティエ反応の違いは?
両反応はCO₂+H₂を原料とする点で似ていますが、目的生成物が異なります。
・RWGS:CO₂ + H₂ → CO + H₂O(COを生成、e-fuel原料)
・サバティエ反応:CO₂ + 4H₂ → CH₄ + 2H₂O(メタンを生成、都市ガス代替)
RWGSは主にFT合成の前処理用途、サバティエ反応はメタネーション(合成天然ガス製造)に使われます。
Q. 商業規模の実現はいつ頃になる?
パイロットプラントはHIF・Sunfire・Infiniumが2024〜2026年に稼働を始めています。製造コストが従来航空燃料と競合する水準($1〜2/L相当)に達するには、グリーン水素$2/kg以下の実現が前提となり、業界では2030年代前半と見る見方が多いです。日本では2030年のSAF混合義務(10%目標)を契機にe-fuel採用の拡大が予想されます。
RWGSを活用する主要企業と商業プロジェクト
Carbon Recycling International(CRI/アイスランド)は、地熱由来の電力とCO₂を用いる「ジョージ・オラー記念工場」で、CO₂+H₂からメタノールを製造している(年産約4,000トン規模、概算)。この直接水素化プロセスでは、RWGS反応が並行して進行する。ドイツのSunfireは、高温水蒸気電解とRWGS、FT合成を組み合わせたPower-to-Liquid方式でe-diesel(合成軽油)を実証し、ノルウェーなどで商用規模プロジェクトを進めている。デンマークのTopsoe(旧Haldor Topsoe)は、RWGSを含む電化型プロセス技術をライセンス供与する立場にある。各社の実証・初期商用設備は数MW〜数十MW級、投資額は数百万〜数億USDの概算規模とされる。
商業化コストの実態
RWGSは単独で完結する技術ではなく、再エネ電力→水電解→RWGS→FT合成という一連のPTL(パワー・トゥ・リキッド)工程の一部であり、そのコスト構造は電力費が支配的である。原料となる電解水素の製造コストは概算で4〜8 USD/kg-H₂とされ、これが合成燃料の均等化コスト(LCOF)を左右する最大の要因となる。2024年時点の合成燃料製造コストは、電力価格や設備稼働率などの前提条件により幅があるが、概算で5〜20 €/L程度と試算されており、税抜きで1 €/Lを下回る化石燃料との価格差は依然として大きい。コスト低減のロードマップでは、安価な再エネ電力の確保、電解装置の量産によるH₂コスト低下、設備稼働率の向上が鍵とされる。
日本での取り組みとNEDO事業
日本ではNEDOのグリーンイノベーション基金事業「CO₂等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」(事業規模は概算で1,000億円超)のもと、合成燃料(e-fuel)やSAF、合成メタンの製造技術開発が進められている。RWGSは、CO₂からFT合成用の合成ガスを得る中核反応として位置づけられる。自動車分野でも、本田技研工業やデンソーがカーボンニュートラル燃料・CO₂資源化技術の研究開発に取り組んでいる。政府は2023年閣議決定の「脱炭素成長型経済構造への移行の推進に関する基本方針」(GX基本方針)でe-fuelを移行期の重要技術と位置づけ商用化前倒しを掲げており、2030年に国内航空会社の燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標とも連動している。
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公開前に確認をおすすめする2点:CRIの年産規模とNEDOプロジェクトの事業規模は概算表記にしていますが、最新の公表値と突き合わせると正確になります。また本田技研工業・デンソーの具体的な参画範囲(NEDO事業への直接参画か自社研究か)は公表情報で裏取りしてから確定させてください。