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モーダルシフトの削減量をどう証明するか — トンキロ法と燃料法の差・積載率・空車回送

(本稿の情報は2026年10月時点)

この記事の結論

  • 東京—大阪の同一輸送でも、改良トンキロ法なら削減率約85%、燃料法なら約60%、空車回送と端末往復を含む国際規格準拠なら約59%と、26ポイント開く(CTJPN試算)。
  • 改良トンキロ法は端末トラックを含まないため絶対削減量を約1.8倍に膨らませ、省エネ法報告には足りるが顧客のScope3開示には使えない。
  • 数字の分かれ目は算定式ではなく、輸送委託契約にデータ提供条項と按分ルールを書き込めているかである。

トラックから鉄道・内航への切替提案には「CO2排出量が約1/10になる」という表現が付いて回る。だがその1/10は、モード別の標準原単位を割り算した結果に過ぎないことが多い。実際の軽油給油実績から積み上げ、発着両端の集配トラックと帰り荷のない空車回送まで含めると、削減率は6割前後まで落ちる。物理的な削減は輸送を切り替えた瞬間に起きている。問題は、その削減量を顧客のScope3開示や取引先報告に載せられる形で証明できるかどうかであり、その作業は算定式の選択と証拠書類の設計にほぼ尽きる。

「9割削減」はどこから来るのか — 同一輸送を方法で算定する

東京—大阪間(片道550km)で年間10,000トンの貨物を10tクラス大型トラックで輸送していた荷主が、JR貨物の12ftコンテナ輸送に切り替えるケースを置く。輸送量は550km × 10,000t = 5,500,000トンキロである。これを三つの方法で算定した試算が表1だ。

項目 ①改良トンキロ法 ②燃料法(片道・端末込み) ③ISO 14083準拠(空車回送・端末往復込み)
算定の立脚点 車種・積載率区分の標準原単位 実給油量から軽油消費を特定 実燃料+空車走行+空コンテナ回送
現行トラック排出量(t-CO2) 715 437 568(実車437+空車回送131)
切替後排出量(t-CO2) 110 174(鉄道110+端末64) 235(鉄道110+端末114+空コンテナ11)
削減量(t-CO2) 605 263 333
削減率 約85% 約60% 約59%
端末輸送の扱い 含まない 実車分のみ含む 往復(空車含む)で含む
空車回送の扱い 含まない 含まない トラック・コンテナ両方で計上
顧客のScope3開示への適合 補助的 適合 適合(国際的に最も強い)

出典:Climate tech news(CTJPN)試算(前提は本文)

試算の前提は次のとおりである。読者が自社の数字で再計算できるよう、すべて開示する。

  • 大型トラックは1便10t積載、年間1,000便、実車走行550,000km/年
  • 軽油のCO2排出係数は2.62 kg-CO2/L(環境省・経済産業省の算定ガイドラインに基づく軽油の単位発熱量と炭素排出係数からの換算値)
  • 大型トラックの実燃費は実車3.3km/L、空車4.4km/L(試算の仮定値)
  • 改良トンキロ法の原単位は10tクラス・中位の積載率区分相当として130 g-CO2/トンキロを仮置き(国土交通省・経済産業省の算定ガイドラインが示す区分値のレンジ内に収まる想定値)
  • 鉄道の原単位は20 g-CO2/トンキロ(国土交通省が公表する輸送機関別原単位の近年の公表水準)
  • 端末集配は発側20km・着側20kmの計40km、4t車(1便3t積載、3,334便)、実車5.5km/L・空車7.0km/L
  • 帰り荷確保率60%、すなわち1,000便のうち400便が550kmを空車で回送
  • 空コンテナ回送は鉄道区間排出量の10%相当を帰属

同じ輸送で削減率が約85%から約59%まで、26ポイント開く。注目すべきは、削減率が最も高く出る①が顧客の開示では最も弱いという逆転である。①は端末トラックをバウンダリー外に置くため、鉄道側が110t-CO2しかないように見える。②③で端末を入れると鉄道側は174t、235tに膨らみ、削減率は6割前後に落ち着く。さらに①は絶対削減量でも605tとなり、③の333tに対して約1.8倍に膨らんでいる。バウンダリーを狭く取ると、削減率だけでなく削減トン数そのものが過大評価される。

②のトラック側437tが①の715tより小さいのは、原単位130 g-CO2/トンキロに対し、実燃費3.3km/Lで10t満載という前提の実測値が約79 g-CO2/トンキロに相当するためだ。標準原単位は全国平均の運行条件を反映しており、長距離幹線を高積載で走る便は平均より良い数字になる。つまり燃料法に切り替えると、トラック側の排出量が下がって削減率が縮むという、荷主にとって一見不都合な結果が出る。差が生まれる構造は原単位の代表性、積載率、そして端末輸送と空車回送というバウンダリーの三点に集約される。

省エネ法の荷主算定 — 改良トンキロ法が持つ「標準値」という性質

省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換に関する法律)は、年間輸送量3,000万トンキロ以上の荷主を特定荷主として、エネルギー使用量の定期報告と中長期計画の提出を義務づけている。2023年4月施行の改正では、非化石エネルギーへの転換に関する中長期計画の提出が特定事業者等(工場・事業場側)に新設された。荷主規制については、荷主の定義が貨物の所有者から輸送の契約当事者へ見直され、着荷主側を「準荷主」として位置づける枠組みが導入されている(資源エネルギー庁)。算定方法として認められるのは燃料法、燃費法、改良トンキロ法の三つで、これらは選択可能という建て付けである。一次データを優先せよという要請は、省エネ法より先にGHGプロトコルとISO 14083の側から来る。

実務では委託輸送が主体の荷主にとって、運送会社から給油実績を集めるコストが高く、改良トンキロ法の方が圧倒的に安い。その安さの代償が「標準値」という性質である。改良トンキロ法は車種区分と積載率区分に応じた標準原単位を輸送トンキロに掛ける構造なので、同じ区分に収まる限り、どれだけエコドライブを徹底しても、どれだけ新型車に入れ替えても、報告上の数字は一切動かない。報告義務の履行には足りる。削減努力の訴求には使えない。この非対称が荷主の算定方法選択を規定する。

算定方法 必要データ 省エネ法報告での位置づけ 個社の改善反映 顧客への削減訴求力 取得コスト
燃料法 燃料種別の実消費量 選択可。一次データとして最も強い 直接反映される 高い。実測値として提示可能 高
燃費法 走行距離+車種別燃費 選択可。燃料実績の代替 部分的に反映 中。車両入替の効果は出る 中
改良トンキロ法 輸送トンキロ+車種・積載率区分 選択可。委託輸送の標準手法 ほぼ反映されない 低い。モード切替の効果のみ 低

出典:Climate tech news(CTJPN)整理(訴求力・取得コストは編集部評価)

鉄道・内航海運・航空のモード別原単位は国土交通省が公表し、実績統計の更新に合わせて改定される。ここに落とし穴がある。原単位が改定されると、同じ輸送実態でも過年度比の削減量が動く。基準年からの削減率を公表している企業が、原単位改定だけで進捗率が変わる事態は避けたい。基準年の数字を改定時に再計算するのか、公表時点の原単位で固定するのか、方針を文書化しておくほうが後の説明が楽になる。

燃料法に切り替えると何が起きるか — 運送会社から集める証拠書類の設計

実測ベースに寄せる決断をした瞬間、仕事は算定から調達交渉に変わる。荷主が自社でトラックを持たない以上、一次データは運送会社・3PLの手元にしかない。

必要になるのは、まず燃料給油実績である。カード給油明細や社内給油記録で軽油消費量を確定する。次に運行記録で、デジタコ(デジタル式運行記録計)や車載端末のログから当該荷主の貨物を運んだ便の走行距離を切り出す。車両マスタも要る。車種区分・最大積載量・年式が分からないと燃費法へのフォールバックができない。鉄道・内航にシフトした区間はコンテナ利用実績や船腹予約記録が輸送実績の裏づけになり、端末集配は地場運送会社の配車実績と給油記録で埋める。

証拠書類 入手先 用途 取得難易度 交渉の要点
燃料給油明細(カード/社内記録) 元請・実運送会社 燃料法の一次データ 高 原価情報と見なされ抵抗が強い。燃料量のみ・単価非開示で合意する
デジタコ/車載端末の走行距離ログ 実運送会社 燃費法・按分の分母 中 荷主別抽出に手間がかかる。月次集計での提供を認める
車両マスタ(車種・最大積載量・年式) 実運送会社 区分特定・燃費法 低 契約車両リストとして年1回更新で足りる
配車実績・運行指示データ 元請・3PL 便の特定と積載率算定 中 WMS/TMS連携で自動化できれば負担が下がる
鉄道コンテナ利用実績 鉄道事業者・通運事業者 鉄道区間の輸送量確定 低 運賃請求データで代替可能
内航船腹予約・船積実績 船社・内航運送事業者 海上区間の輸送量確定 低 B/L・船積通知で裏が取れる
按分根拠の算定シート 元請運送会社 混載便の荷主別切り出し 高 様式を荷主が提供し、記入のみを依頼する

出典:Climate tech news(CTJPN)整理(取得難易度は編集部評価)

厄介なのは委託輸送の配分である。混載便では一台に複数荷主の貨物が載る。運送会社の総燃料から当該荷主分を切り出す按分ルールが要り、その選択で数字が大きく動く。10t車に荷主A 3t(降車地200km地点)と荷主B 5t(同500km地点)を積んだ便で試算すると、便全体の燃料は500km ÷ 3.3km/L = 151.5L、排出量397kg-CO2になる。

按分基準 荷主Aへの帰属 荷主Bへの帰属 Aの帰属量の比(重量按分=1.0)
重量按分(3t:5t) 149 kg-CO2 248 kg-CO2 1.00
トンキロ按分(600:2,500トンキロ) 77 kg-CO2 320 kg-CO2 0.52

出典:Climate tech news(CTJPN)試算(前提は本文)

同じ便・同じ貨物で、荷主Aの帰属排出量は重量按分とトンキロ按分で約1.9倍の差が出る。重量按分は単純だが距離を反映せず、嵩高貨物では過小評価になる。トンキロ按分は距離を反映するが立ち寄り順で結果が変わる。専用便扱いは最も保守的で、荷主の排出量は大きく出るが説明は通りやすい。ルールを先に決めて固定し、年度途中で変えないことが開示の整合性を守る。

交渉の肝は契約である。輸送委託基本契約にデータ提供条項を入れ、提供データの項目・様式・頻度・提供期限を別紙で特定する。ここを「協力する」という努力義務にすると、年度末に数字が揃わない。運送会社側には実務負担が発生するため、データ提供の対価を運賃に織り込むか、荷主が様式と集計ツールを用意して記入作業を最小化するかの二択になる。燃料単価の開示抵抗は根強いので、消費量(リットル)のみを報告対象にする設計が現実的だ。中小の実運送会社ではデジタコ未搭載車が残っており、その場合は燃費法へのフォールバックを契約上あらかじめ認めておくほうが運用が止まらない。

積載率と端末距離が削減量を食う — 感度分析で見る変動幅

モーダルシフトの削減量が理論値から目減りする要因は、積載率と端末距離に集約される。表1の③(削減率約59%)を基準に、前提を一つずつ動かした感度分析が表4である。

変更する前提 トラック側(t-CO2) 切替後(t-CO2) 削減率
基準ケース(帰り荷確保率60%、コンテナ積載率90%、端末片側20km) 568 235 約59%
帰り荷確保率100%(トラックが常に満車で戻る) 437 235 約46%
帰り荷確保率0%(全便が空車で戻る) 765 235 約69%
コンテナ積載率が65%に低下 568 281 約51%
端末距離が片側50km(計100km)に延伸 568 405 約29%

出典:Climate tech news(CTJPN)試算(前提は本文の表1前提に準拠し、変更点のみ上表のとおり)

読み取るべき判断は二つある。第一に、既存トラック便が効率的であるほどモーダルシフトの削減率は小さく出る。帰り荷を常に確保できていた荷主の削減率は約46%まで落ちる。モーダルシフトの削減量は切替先の優秀さだけでなく、切替前がどれだけ非効率だったかの関数である。他社の「9割削減」をそのまま自社に当てはめると、実測で数字が合わない。第二に、最も効くのは端末距離だ。片側20kmから50kmへ延びるだけで削減率は約59%から約29%へ半減する。立地選定とターミナル選択が、算定方法の精緻化より大きく効く。

鉄道コンテナと内航のロット単位も積載率を規定する。12ftコンテナは積載重量5t、31ftコンテナは型式により13〜14t程度、内航コンテナは20ft単位、内航RORO船はシャーシ単位でロットが決まる。荷主の出荷ロットがこの刻みに合わなければ空隙を運ぶことになり、表4のコンテナ積載率65%のケースのように削減率が8ポイント落ちる。内航ROROはシャーシ単位で既存トラックの積載状態をそのまま持ち込めるため、ロット不整合の影響は相対的に小さい。

改良トンキロ法を使っている場合、さらに別の歪みが乗る。積載率区分が階段状に設定されているため、積載率が62%から68%へ改善しても同一区分内なら原単位は変わらず、報告上の削減はゼロになる。区分境界をまたぐと不連続に原単位が下がり、わずかな改善が大きな削減として現れる。改善努力と報告数字が対応しないこの性質は、社内のKPI設計を壊す。共同輸送やコンテナのラウンドユースで積載率を数ポイント上げた成果を数字として主張したいなら、燃料法か燃費法に移るほかない。積載率の連続的な改善を拾えるのは一次データに基づく算定だけである。

空車回送と端末輸送 — バウンダリーの引き方で結論が変わる

鉄道と内航は、ドア・ツー・ドアでは必ず発着両端にトラック輸送を伴う。東京—大阪の例では荷主倉庫から貨物ターミナルまでの集貨と、大阪側ターミナルから配送先への配達が発生する。端末が片側20km、計40kmと短くても、短距離集配は積載率が低く燃費も悪い。表1の③では端末トラックが往復で114t-CO2となり、550kmの鉄道区間110t-CO2を上回っている。40kmの集配が550kmの幹線を超えるという逆転は、例外ではなく標準的な前提でも起きる。

空車回送の扱いは争点になりやすい。片道のみで比較すればトラック側の排出は過小評価され、削減率も小さく見える。帰り荷確保率を考慮してトラック側に空車走行を帰属させると、表4のとおり削減率は約46%から約69%まで振れる。この幅は算定上の判断であって輸送実態の変化ではない。鉄道側にも空コンテナ回送があるが、事業者のネットワーク内で融通されるため荷主への帰属が曖昧になりやすく、本試算では鉄道区間の10%相当を保守的に帰属させた。

ISO 14083(2023年発行、輸送チェーン運用に起因する温室効果ガス排出量の定量化と報告に関する国際規格)と、これに整合したGLEC Frameworkは、こうしたバウンダリーを輸送チェーン全体で揃える方向を示している。ハブでの積替作業やターミナルのエネルギーまで含める設計で、恣意的な切り出しを許さない。顧客がCDPやSBTi対応で厳しい数字を求めるならISO 14083に寄せた算定の方が通るが、算定コストは跳ね上がる。省エネ法報告だけが目的なら改良トンキロ法で足り、顧客のScope3削減として売りたいなら燃料法以上が要る、という使い分けが現実解になる。

課題・反論・代替視点

最も強い反論は、精緻な算定に見合うリターンがあるのかという点だ。燃料法への移行には運送会社との交渉、様式整備、年次の集計工数がかかる。得られるのは削減量の確度であって、削減量そのものではない。物理的な削減は輸送の切替で既に起きており、算定方法を変えても現実のCO2は1グラムも減らない。この指摘は正しい。だから精緻化の投資判断は、顧客がその数字をどう使うかに依存する。取引先からScope3の一次データ提供を要求されている、サプライヤー評価に反映される、グリーン物流を根拠に取引条件を交渉できる——こうした出口がある場合に限って投資として成立し、出口がなければ改良トンキロ法で止めるのが合理的だ。

もう一つの限界は、一次データが必ずしも正確とは限らないという事実である。給油明細は給油タイミングと輸送期間がずれ、月次では在庫変動の誤差が乗る。デジタコのログは機器設定や抽出条件で距離が変わる。混載便の按分は結局ルールの選択であって実測ではなく、表3で見たとおり基準を替えれば帰属量は約1.9倍動く。「燃料法だから実測」という理解は雑で、按分という推計が混じった瞬間に一次データの純度は落ちる。実務上は専用便区間に燃料法、混載区間に改良トンキロ法を当てるハイブリッド構成が最も現実的であり、どの区間にどの方法を適用したかを算定根拠書に明示することが、第三者検証への備えになる。

本稿の試算自体にも限界がある。原単位130 g-CO2/トンキロ、実燃費3.3km/L、端末片側20kmといった前提はいずれも仮定値で、自社の運行条件を入れれば結論の数値は動く。重要なのは水準ではなく構造だ。バウンダリーと原単位の選択で削減率が26ポイント動くという関係は、前提を入れ替えても残る。

代替視点として、算定方法の議論を迂回する道もある。モーダルシフトの効果を削減量ではなく輸送力確保として売る立場だ。働き方改革関連法に伴う猶予措置の終了により、自動車運転業務の時間外労働上限規制が2024年4月から適用され(拘束時間は厚生労働省の改善基準告示が規律する)、長距離トラックの確保難は荷主の事業継続リスクになった。CO2削減量の精度を上げるより輸送の安定性で説明したほうが社内稟議が通る場面は少なくない。ただしこの道は顧客の開示要求には答えられない。

日本市場・日本企業への示唆

日本の荷主は、省エネ法の定期報告という国内の義務と、SSBJ基準・CDP・取引先からのScope3データ要求という開示圧力の双方から、異なる粒度の数字を求められる。欧州企業はCSRDとISO 14083の組み合わせで一本化しやすいが、日本では車種区分と積載率区分を組み合わせた改良トンキロ法が制度報告の標準手法として組み込まれている。GLEC Frameworkにもデフォルト原単位は存在するものの、積載率区分を階段状に持つ構造と省エネ法報告への接続は日本固有の運用であり、海外の算定フレームワークをそのまま導入しても省エネ法報告には使えない。逆に省エネ法の数字をそのまま顧客に出せば端末輸送が抜けている。二系統を併走させる体制が当面の前提になる。

日本固有の有利な条件もある。鉄道コンテナネットワークと内航航路の密度は国土の形状に対して相対的に充実しており、幹線のモーダルシフト余地は大きい。国土交通省のモーダルシフト関連の補助制度や、エコレールマーク・エコシップマークという荷主向け認定も整っている。ただしこれらの認定は輸送量のシェア要件を満たすかの判定であって、削減量の検証ではない。マークの取得と顧客に出せる削減量の算定は別の仕事であり、「エコレールマークを取得したので削減を証明した」と説明すると開示の検証段階で指摘を受ける。

制度面では、金融庁が有価証券報告書におけるサステナビリティ開示について時価総額を基準とした段階適用の枠組みを示し、時価総額3兆円以上のプライム上場企業から適用が始まる。保証(第三者検証)の対象範囲は当面Scope1・2を中心とする設計で、Scope3カテゴリ4(輸送・配送)への拡大は議論の段階にある。先行して一次データを整えておく価値は、制度対応よりむしろ取引先からの要求に即応できる点にある。

実務の優先順位としては、輸送委託契約のデータ提供条項を整備するところから始めるのが費用対効果が高い。契約更新のタイミングで様式と提供頻度を書き込めば追加コストはほぼゼロで、翌年度から一次データが流れ始める。算定システムの導入を先にすると、入れるデータがないまま稼働させることになる。順序を逆にしている企業が多い。

まとめ

モーダルシフトの削減量は物理現象の測定結果ではなく、算定方法とバウンダリー設定の帰結である。東京—大阪の同一輸送で削減率が約85%から約59%まで開くという試算は、この事実を端的に示している。そして削減率が最も大きく出る改良トンキロ法が、顧客の開示では最も弱い。端末トラックを含まないという構造的な欠落があるため、削減率だけでなく絶対削減量も約1.8倍に膨らむ。営業資料の数字を大きく見せる選択と、顧客が開示に使える数字をつくる選択は、しばしば逆方向を向いている。

分岐点は算定式ではなく契約にある。燃料法に移るかどうかは技術的判断ではなく、運送会社から燃料消費量と走行距離を定常的に取れる関係を築けるかという調達の問題だ。混載便の按分ルールをどう決め、専用便区間と混載区間でどの方法を使い分け、その根拠をどう文書化するか。ここが整っていれば、原単位の改定にも第三者検証にも耐える数字が出る。整っていなければ、どれだけ精緻な算定ツールを導入しても入力データがない。積載率の連続的な改善を数字として主張できるのも一次データに基づく算定だけであり、共同輸送やラウンドユースの成果を収益化したい企業にとって、改良トンキロ法に留まる選択は努力を不可視化することと同義である。

感度分析が示したもう一つの事実は、端末距離が片側30km延びるだけで削減率が約30ポイント落ちるという、立地の決定力の大きさだ。算定精度の議論は、どのターミナルを使い、どこに在庫を置くかという設計の議論と不可分である。金融庁の段階適用が時価総額上位のプライム企業から始まり、ISO 14083を参照した算定を求める取引先が増えていく局面で、輸送委託契約の次の更新サイクルにデータ提供条項と按分ルールを入れられるかが、今後2〜3年で「削減したと言える企業」と「削減したはずだが証明できない企業」を分ける分水嶺となる。


主要出典

  • 経済産業省・資源エネルギー庁「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換に関する法律(省エネ法)」荷主に係る措置・定期報告関連資料 https://www.enecho.meti.go.jp/
  • 経済産業省・国土交通省「ロジスティクス分野におけるCO2排出量算定方法共同ガイドライン」 https://www.meti.go.jp/
  • 国土交通省「輸送機関別のCO2排出原単位」および物流分野の環境対策関連資料 https://www.mlit.go.jp/
  • 国土交通省 モーダルシフト関連補助制度、エコレールマーク・エコシップマーク制度関連資料 https://www.mlit.go.jp/
  • 環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」(Scope3カテゴリ4、燃料のCO2排出係数) https://www.env.go.jp/
  • GHGプロトコル「Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard」 https://ghgprotocol.org/
  • ISO 14083:2023「Greenhouse gases — Quantification and reporting of greenhouse gas emissions arising from transport chain operations」(国際標準化機構)
  • Smart Freight Centre「GLEC Framework」(ISO 14083整合版、物流排出量算定の国際枠組)
  • 金融庁「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関する検討資料」(有価証券報告書における段階適用) https://www.fsa.go.jp/
  • サステナビリティ基準委員会(SSBJ)「サステナビリティ開示基準」 https://www.ssb-j.jp/
  • 日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)環境・輸送サービス関連公表資料 https://www.jrfreight.co.jp/
  • 厚生労働省「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」および時間外労働上限規制の適用に関する資料 https://www.mhlw.go.jp/

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