(本稿の情報は2026年10月時点)
この記事の結論
- GGBS の置換率を上げると結合材由来の CO2 はほぼ比例して下がり、70%置換なら約66%減になる(試算)。
- 実際に使える置換率を決めているのは強度の最終値ではなく、脱型時期と型枠転用サイクルという工程側の制約だ。
- グリーンプレミアムの金額は、GGBS の排出原単位をどの配分方法で算定するかの合意で動く。
高炉スラグ微粉末(GGBS: Ground Granulated Blast-furnace Slag)をセメントの一部に置き換えると、コンクリート1m3あたりの材料由来排出は置換率にほぼ比例して減る。算術としては単純だ。それでも JIS R 5211 の高炉セメント B種(スラグ分量30%超60%以下)が国内流通の中心という市場構造を踏まえると、工期支配型の建築工事で成立する置換率は B種の下半分に寄る。60%を超える C種の領域が使われるのは、土木構造物とマスコンクリートに偏る。この差は材料性能の限界ではない。脱型時期と型枠の転用サイクルという工程側の制約が、設計与条件の段階で置換率の上限を先に決めてしまうからである。
GGBS が製鉄の副産物であることや、潜在水硬性という反応機構の基礎は低炭素素材の記事群で扱った。ここで扱うのは一点に絞る。何%まで入れられるかを、誰が、いつ決めるのか。そして決まった置換率が生む削減量は、建設会社・デベロッパー・発注者のうち誰の取り分になるのか。
なお本稿で置換率の上限として示す数値は、すべて「実装可能率」—— 工程と部位の制約のもとでその部位に適用できる置換率の目安 —— を指す。材料性能だけから導かれる上限(削減ポテンシャル)とは別物として扱う。
置換率は材料選定ではなく工程の制約条件である
設計から調達までの流れの中で、置換率に効く決定点は4つある。基本設計での部位ごとの要求性能(設計基準強度・耐久性区分)、構造計算での材齢設定、配合計画での水結合材比と混和材量、そして工程表での脱型・型枠転用サイクル。このうち最後の工程表が、前の3つで理屈上可能だった置換率を切り下げる。
順序が逆になることは実務ではまず起きない。工期短縮が商業条件として先に固まり、1フロアあたりのサイクル日数が決まり、その日数で脱型強度に達する配合を逆算する。この逆算の結果として置換率が出てくる。つまり削減ポテンシャルと実装可能率のギャップは、設計与条件が固まる前の段階でしか縮められない。施工段階に入ってから「低炭素コンクリートに変更したい」と言い出しても、動かせる部位は地下躯体と基礎に限られる。
このギャップの大きさが、グリーンプレミアムとして回収できる金額の上限を規定する。削減量が売り物になるのは実装可能率の側だけだ。
JIS A 6206 と JIS R 5211 — 規格が選べる置換率を離散化している
GGBS を使うルートは2つあり、品質管理の責任と証明書類の所在が違う。
JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」は、粉末度(比表面積、cm2/g)によって複数の種別に区分される。流通量の中心は4000相当で、初期強度の確保が要る部位では6000相当を選ぶという使い分けが一般的である。粉末度が高いほど初期強度の発現は改善し、水和発熱も相対的に早期に立ち上がる。一方で単位水量が増えやすく、高粉末度品は価格も上がる。種別の呼称と比表面積の規定値は規格の改正で変わりうるため、配合計画では最新版の規格原文で確認するのが前提になる。
JIS R 5211「高炉セメント」はスラグ分量で3段階に分かれる。A種が5%超30%以下、B種が30%超60%以下、C種が60%超70%以下。国内の流通は B種に集中しており、生コン工場で常備されているのは実質 B種だけという地域が多い。C種を使うには事前の手配が要り、調達リードタイムが延びる。
| 項目 | 高炉セメント購入ルート(JIS R 5211) | スラグ個別添加ルート(JIS A 6206) |
|---|---|---|
| 置換率の自由度 | 低(B種30〜60%、C種60〜70%の区分内) | 高(配合設計で任意に設定可) |
| 流通性 | B種は全国で安定、C種は要手配 | 生コン工場の設備(サイロ・計量器)に依存 |
| 品質管理の責任 | セメントメーカー(出荷時試験成績表) | 生コン工場+施工者(配合試験・練混ぜ管理) |
| 証明書類 | セメント出荷証明・ミルシート | 配合計画書+スラグ試験成績表+生コン配合証明 |
| CO2 算定の根拠書類 | メーカーの CFP/EPD を引用しやすい | 材料ごとの原単位を積み上げる |
| 標準仕様書での扱い | 指定材料として記載されている例が多い | 特記仕様・受発注者協議になる場合が多い |
スラグ分量の区分は JIS R 5211 の規定、それ以外の行は Climate tech news(CTJPN)による実務上の整理である。
削減量を証書として売る、あるいはグリーンプレミアムを価格に乗せるなら、書類の所在が分かれ目になる。高炉セメントとして買えばメーカーの CFP 宣言をそのまま引用でき、第三者検証のコストが低い。個別添加で70%置換を実現しても、算定の根拠を自前で積み上げる手間と、発注者側の検証担当が納得する形に整える手間が追加で乗る。自由度を取るか書類の軽さを取るかという交換関係がここにある。
置換率別の CO2 削減量 — どこまでが算術か
コンクリートの材料由来排出のうち、支配項はセメントクリンカである。石灰石の脱炭酸(CaCO3 → CaO + CO2)が排出の約6割、焼成燃料の燃焼が残りという構成で、クリンカ1tあたりおよそ0.8t-CO2 という水準が国際的な標準値として使われている。ポルトランドセメント1tあたりは0.76〜0.80t-CO2 程度に収まる。
GGBS 側の原単位は、ここで一度立ち止まる。数値が配分方法で桁近く動くからだ。製鉄プロセス全体の排出をどう割り付けるかで、(1) 副産物として上流排出をゼロとみなし乾燥・粉砕の工程分だけを計上する方法(この扱いでは0.02〜0.07t-CO2/t 程度の値が使われる)、(2) 経済価値で配分する方法、(3) 質量で配分する方法(銑鉄とスラグの質量比で割り付けるため大幅に増える)が併存する。日本国内の低炭素コンクリートの実務では(1)に近い扱いが多いが、海外の EPD では配分方法が明記され、質量配分を採る制度設計もある。GHG プロトコルの製品算定基準は副産物への配分方法を複数認めており、どれを採るかは算定者の選択として残る。採用する原単位は、環境省のサプライチェーン排出量算定用の原単位データベースの該当版か、メーカーが公表する CFP/EPD の宣言値のうち、どちらに拠るかを版・年次つきで明示して固定するのが実務上の前提になる。
| 置換率 | 結合材構成の考え方 | 結合材由来 CO2(kg-CO2/m3、試算) | OPC比の削減率(試算) | 流通上の位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| 0%(OPC基準) | ポルトランドセメント320kg | 約250 | — | 標準配合 |
| 30%(高炉A種上限) | セメント224kg+GGBS96kg | 約180 | 約28% | 全国で容易 |
| 45%(高炉B種中位) | セメント176kg+GGBS144kg | 約145 | 約42% | 工期支配型工事の現実解 |
| 60%(高炉B種上限) | セメント128kg+GGBS192kg | 約109 | 約56% | 土木・マスコン中心 |
| 70%(高炉C種上限) | セメント96kg+GGBS224kg | 約86 | 約66% | 要手配・適用部位限定 |
出典:Climate tech news(CTJPN)試算(前提は本文)
前提は、設計基準強度 Fc24〜30 相当の一般的な建築用コンクリートを想定した結合材量320kg/m3、セメント原単位0.78t-CO2/t、GGBS 原単位0.05t-CO2/t(副産物扱い・粉砕工程のみを計上した値)で固定し、骨材・混和剤・練混ぜ・運搬を除いた結合材由来分のみを比較したものである。この前提の上では削減率は置換率にほぼ比例する。70%置換で約66%減という数字は、算術としてそのまま出てくる。結合材量が変われば絶対値は動くが、削減率の比例関係は変わらない。
ただし比例から外れる要因が4つある。初期強度を補うために結合材総量を増やす、あるいは水結合材比を下げる配合変更をすると、置換率を上げても削減量が目減りする。高粉末度品を使えば粉砕電力が増える。長期養生や給熱養生を追加すればそのエネルギーが乗る。製鉄所から遠い地域では GGBS の運搬距離がセメントより長くなり、輸送分が削減量を侵食する。コンクリート1m3の全体排出で見れば、結合材由来の削減率よりも実際の削減率は数ポイント低く出るのが通常である。
そして交渉上の争点になるのは、物理的な削減量ではなく原単位の配分方法のほうだ。GGBS を副産物扱い(0.05t-CO2/t)とするか質量配分とするかで、同じ配合の申告削減量が大きく変わる。発注者がグリーンプレミアムを払う根拠として削減量を見るなら、どちらの算定を採るかは価格そのものを動かす。算定ルールの合意を契約前に取らずに着工すると、竣工後に削減量の主張が通らないという事態が起きる。
初期強度の遅れが工程表に課す関門
GGBS を40〜50%程度置換したコンクリートは、材齢7日で OPC の6〜8割程度、28日でほぼ同等、91日では同等以上の強度に達するという非対称な発現を示す。長期では有利になる。問題は短期側だ。置換率が60%を超える領域では7日強度の低下幅はこれより大きくなるため、40%台の発現パターンを70%置換の議論にそのまま当てることはできない。
制約が顕在化するのは3点である。最初の関門は脱型強度の確認時期。型枠の取り外しに必要な圧縮強度に達する材齢が延びると、そこから後ろの工程が全部ずれる。次が型枠・支保工の転用サイクルで、高層建築で1フロア6〜7日サイクルを組んでいる現場では、脱型が2日遅れるだけで転用計画が破綻し、型枠の追加手配という直接コストが発生する。三つめは PC(プレストレストコンクリート)部材の緊張時期。所定の強度に達する前に緊張すればコンクリートが持たないため、早強性が要求される部材では置換率を上げる余地が小さい。
温度依存がこの制約を季節で変動させる。スラグの潜在水硬性反応は温度に敏感で、低温環境では反応が遅れる。積算温度で管理する寒中コンクリートの期間は、同じ配合でも強度発現が明確に遅く、夏期に成立していた置換率が冬期には成立しない。
| 工程関門 | 夏期の実装可能率の目安 | 冬期の実装可能率の目安 | 制約の性質 |
|---|---|---|---|
| 脱型(一般壁・柱、側型枠) | 50〜60% | 30〜45% | 強度確認材齢の延伸 |
| 型枠転用サイクル(6〜7日/フロア) | 30〜45% | 20〜30% | サイクル破綻で直接コスト |
| 支保工存置(スラブ下) | 40〜50% | 25〜40% | 支保工数量の増加 |
| PC 緊張(プレテンション) | 10〜20% | 適用困難 | 早強性が要求される |
| マスコン(温度応力管理) | 60〜70% | 60〜70% | 発熱低減が利点に転じる |
上表は試算ではなく、工程制約の種類ごとに置換率の目安を Climate tech news(CTJPN)が実務上の相場として整理したものである。個別案件では脱型強度基準・積算温度・部材断面で変わる。
この表から読み取れる判断はひとつだ。工期支配型の工事で置換率を上げたいなら、脱型基準の緩和交渉や型枠の増量という工程側の投資が先に来る。材料側の選択だけで置換率が上がることはない。そして冬期施工が工期に含まれる案件では、年間を通した平均置換率は夏期の上限より明確に下がる。高層建築の躯体で型枠転用サイクルが支配する部位では、夏期に45%まで入れられても冬期は20〜30%に落ちるため、年間平均は30%前後、条件が厳しければそれ以下になる。年間の削減量を見積もるときに夏期の数字を使うと、実績が届かない。
使える構造物・使えない構造物
適用が進む領域には共通点がある。初期強度を急がない、断面が厚い、水和発熱の低減がむしろ利点になる構造物だ。マスコンクリートはその典型で、ひび割れ原因となる温度応力を抑えるために低発熱が求められるため、GGBS の高置換はデメリットではなく設計要求そのものになる。地下躯体・基礎・擁壁、場所打ち杭、舗装の下層、ダム・護岸といった土木構造物も、工程の余裕と断面の厚さの両方で有利である。海洋環境下の部位では塩化物イオン浸透抵抗性の向上という耐久性上の実益が加わる。
制約が強い領域は裏返しになる。工期支配型の高層建築の上層階、プレキャスト製品と PC 部材、寒中施工部位、高強度・早強が指定される部位。加えて中性化が支配要因となる薄肉・乾燥環境の部材がある。GGBS 混和はコンクリート中の水酸化カルシウム量を減らすため、中性化の進行は OPC より速くなる傾向を示す。塩害に強く中性化に弱いという、得と損が部位で逆転する構図がここにある。かぶり厚さの確保で対応できる範囲はあるが、薄肉部材では対応余地が小さい。
次の表は、前節の工程関門表が制約要因ごとに示した上限を、部位ごとに合成した結果である。各部位でどの関門が支配するかによって値が決まる。
| 構造物・部位 | 適用可能な置換率の目安 | 主な促進要因 | 主な制約要因 |
|---|---|---|---|
| マスコンクリート(基礎マット等) | 60〜70% | 温度応力低減が設計要求 | なし(むしろ推奨) |
| ダム・護岸・重力式構造物 | 60〜70% | 工程に余裕、断面厚大 | 低温期の施工 |
| 地下躯体・基礎・擁壁 | 45〜60% | 工程クリティカルでない | 止水・打継部の管理 |
| 場所打ち杭 | 45〜60% | 地中・湿潤環境 | 流動性確保 |
| 舗装下層・路盤安定処理 | 50〜70% | 要求強度が低い | 開放交通までの養生 |
| 海洋・塩害環境の躯体 | 45〜60% | 塩化物イオン浸透抵抗性 | 施工環境 |
| 中低層建築の躯体 | 30〜45% | 標準仕様で対応可 | 型枠転用サイクル |
| 高層建築の上層階 | 20〜30% | — | 工期支配・早期強度 |
| 薄肉・乾燥環境の部材 | 0〜30% | — | 中性化進行、かぶり不足 |
| プレキャスト・PC 部材 | 0〜20% | — | 早期脱型・緊張時期 |
上表も試算ではなく、工程関門表と部位の要求性能から Climate tech news(CTJPN)が整理した実務上の目安である。
土木学会のコンクリート標準示方書と、同学会が刊行する高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートの施工に関する指針類では、置換率に応じた養生条件と適用部位の考え方が示されている。ここで実務上の区別が要る。指針が示す制約のうち、強度発現と耐久性に関する技術的根拠を持つ部分は動かない。一方で標準仕様書の記載や慣行として定着している上限は、受発注者の協議と性能確認で動く余地がある。この2つを混同すると、交渉可能な余地を自ら捨てることになる。C種相当の60〜70%という領域が成立するのは、技術的根拠ではなく慣行の側を協議で動かせた場合に限られる。
削減量は誰の取り分になるか
建設時排出(アップフロントカーボン)の削減は、建物のライフサイクル排出のうち運用段階の省エネでは手が届かない部分を押し下げる。ZEB 化が進んで運用排出が下がるほど、ライフサイクル全体に占める建設時排出の比率は上がる。この比率の水準は建物用途・設計供用期間・電力の排出係数の想定で大きく変わるため一律には言えないが、方向としては構造体の低炭素化の相対的な価値が上がる。
では誰が払うのか。発生点は3つに分かれる。デベロッパーが環境性能を訴求して賃料や分譲価格に乗せる形。建設会社が自社の Scope 3(カテゴリ1:購入した製品・サービス)削減として計上し、受注競争力に変える形。そしてテナント企業が入居ビルの建設時排出を自社の Scope 3 として扱い、低炭素な建物を選ぶ形である。いずれも削減量が第三者に説明できる形で証明されていることが前提になる。
ここで設計段階の取りこぼしが起きる。工程表が固まった後に低炭素コンクリートを検討しても、動かせる部位が地下と基礎に限定され、建物全体のコンクリート数量に対する削減寄与が小さくなる。基本設計の段階で部位別の置換率目標を工期と同時に決めていれば、同じ建物で削減量は大きく変わりうる。グリーンプレミアムの交渉は竣工後の数字で行うが、その数字の上限は基本設計で確定している。
課題・反論・代替視点
最大の反論は供給制約である。GGBS の原料は高炉スラグであり、鉄鋼業の脱炭素が進んで電炉への転換が進展すれば、高炉スラグの発生量は構造的に減る。日本鉄鋼連盟が公表する粗鋼生産統計と、鉄鋼スラグ協会が公表する鉄鋼スラグの生産・用途別利用量の統計が、この傾向を追う一次データになる。年次ごとの実績は両団体の最新統計で確認するのが前提だが、方向は定まっている。現時点でも高炉スラグの大部分はすでにセメント・コンクリート用途と路盤材に使われており、未利用の余剰が大量にあるわけではない。GGBS 置換の拡大余地は、全体としては既存用途の中での配分変更に近い。これは置換率を上げる戦略が業界全体でスケールしないことを意味する。
次に、削減量の算定根拠への反論がある。GGBS を副産物として上流排出ゼロで扱う前提は、スラグに経済価値がある限り会計的には疑問を残す。質量配分を採れば原単位は跳ね上がり、本稿の表の削減率は大幅に縮む。「置換率に比例して削減」という結論は、副産物扱いという前提とセットでしか成立しない。この前提が制度側で見直されれば、グリーンプレミアムの根拠も縮む。
耐久性の側からの反論も残る。中性化の進行が速いという特性は、設計供用期間が長い建築物では鉄筋腐食リスクとして現れる。かぶり厚さを増やせば対応できるが、コンクリート数量が増えて削減量の一部を打ち消す。長期強度で有利だから耐久性でも有利という単純な整理は成り立たない。
代替視点として、セメント側の脱炭素が進む筋道がある。クリンカ製造での CCUS、代替燃料、石灰石以外のカルシウム源の利用が進めば、OPC 自体の原単位が下がる。そうなれば GGBS 置換の相対的な削減価値は縮小する。GGBS 置換は現時点で最も安価で確実な低炭素化手段であるが、恒久的な優位を持つ技術ではない。むしろ、2026年から2035年ごろまでの約10年を、ほかの低炭素技術が立ち上がるまで埋める橋渡しの手段と位置づけるのが実態に近い。
日本市場・日本企業への示唆
日本の条件には固有の制約が3つある。JIS R 5211 の高炉セメント B種が流通の中心で、生コン工場のサイロ構成が B種前提になっている地域が多い。欧州のように混合セメントの種類が豊富で、低クリンカ型が常備されている市場構造とは違う。欧州の高置換事例をそのまま持ち込めないのは、技術ではなく流通の問題である。
工期の商業的な重みも大きい。都市部の再開発では工期短縮が事業収益に直結し、型枠転用サイクルの短縮が強く求められる。初期強度の遅れを許容する余地が構造的に小さい。欧州の事例で見られる高置換率は、工期制約が相対的に緩い条件下のものが多く、日本の高層建築の上層階に当てはめられない。
三つめは公共工事における積算と仕様の扱いである。低炭素型コンクリートの採用には、標準仕様書からの変更と性能確認が必要になる場合があり、受発注者の協議コストが民間工事より重い。一方で公共工事は土木構造物とマスコンクリートの比率が高く、技術的には高置換が最も成立しやすい領域でもある。協議の手順が整備されれば削減量が大きく動く余地がここにある。
日本企業にとっての実務的な含みは明確だ。建設会社は、基本設計段階で部位別の置換率目標を工期と同時に設定する社内プロセスを持つかどうかで、Scope 3 削減の実績に差が出る。デベロッパーは、建設時排出の削減量を賃料に乗せられるかを早期にテナント側と詰めるかどうかで、投資回収の見通しが変わる。生コン工場にとっては、スラグの個別添加設備を持つかどうかが、高置換案件を受注できるかの分岐点になる。いずれも、採用する排出原単位と配分方法を版・年次つきで固定し、第三者に説明できる書類の形で持っておくことが前提になる。
まとめ
GGBS 置換の物理的インパクトは単純で、結合材由来の CO2 は置換率にほぼ比例して下がる。70%置換なら結合材由来で約66%減という試算は、副産物扱いの原単位を前提にすれば算術として成立する。しかしこの数字がそのまま建物の削減量になることはほとんどない。実際の置換率は脱型時期と型枠転用サイクルに縛られ、工期支配型の工事では型枠転用サイクルが支配する部位で夏期30〜45%、冬期20〜30%に落ちる。削減量の天井は材料ではなく工程表が決めている。
この構造から導かれる実務上の帰結は、置換率の意思決定を設計の最上流に引き上げることである。基本設計で部位別の目標を工期と並べて決めれば、同じ建物で削減量は大きく変わる。配合計画の段階で持ち込んでも、動く部位は地下と基礎に限られる。そしてグリーンプレミアムとして金額を回収するなら、GGBS の排出原単位をどの配分方法で算定するかの合意を契約前に取ることが条件になる。物理的な削減と、それが経済価値に変わるかどうかは別の問題として扱うのが合理的だ。
同時に、GGBS 置換は恒久的な解ではない。高炉の減少という供給制約と、セメント側の脱炭素という競合技術の両方に挟まれている。2026年から2031年までの5年に向けては、工期制約の中で実装可能率をどこまで押し上げられるかが分水嶺となる。そこで積み上げた設計プロセスと算定の実務は、次の低炭素材料が来たときにそのまま使える資産になる。
主要出典
- 日本産業規格 JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」(日本産業標準調査会/日本規格協会) https://www.jisc.go.jp/ — 粉末度(比表面積)による種別区分と品質規定。種別の呼称・規定値は最新版の規格原文で確認が必要
- 日本産業規格 JIS R 5211「高炉セメント」(日本産業標準調査会/日本規格協会) https://www.jisc.go.jp/ — A種(スラグ分量5%超30%以下)・B種(30%超60%以下)・C種(60%超70%以下)の区分
- 公益社団法人土木学会「コンクリート標準示方書」(最新改訂版)および高炉スラグ微粉末を用いたコンクリートに関する指針類(刊行年・版は同学会の刊行物一覧で確認) https://www.jsce.or.jp/ — 置換率に応じた養生条件・適用部位の考え方
- 環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」および同排出原単位データベース(版番号・公表年次は最新版を参照) https://www.env.go.jp/ — Scope 3 カテゴリ1(購入した製品・サービス)の算定方法と材料別原単位
- 経済産業省・環境省「カーボンフットプリント ガイドライン」(経済産業省・環境省 連名、最新版) https://www.meti.go.jp/ — 製品単位の排出量算定における配分方法の考え方
- GHG Protocol「Product Life Cycle Accounting and Reporting Standard」(World Resources Institute/WBCSD, 2011) https://ghgprotocol.org/ — 副産物への排出配分(経済配分・質量配分)の原則
- International Energy Agency「Cement」トラッキング資料(最新更新版) https://www.iea.org/ — クリンカ由来排出の構成(脱炭酸・燃焼)と国際的な原単位水準
- 一般社団法人日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」および月次の粗鋼生産統計(最新年次) https://www.jisf.or.jp/ — 粗鋼生産量と高炉・電炉の構成
- 鉄鋼スラグ協会「鉄鋼スラグ統計資料」(生産量・用途別利用量、最新年次) — 高炉スラグの発生量と用途別利用状況
- 国土交通省(官庁営繕・土木の公共工事標準仕様書および調達関連の技術基準類) https://www.mlit.go.jp/ — 公共工事における材料の指定と仕様変更・性能確認の手続き