分析記事 環境価値を売る

J-クレジットを国内と海外で主張するときの違い — 相当調整のないクレジットの使い道と主張の書き方

(本稿の情報は2026年10月時点)

この記事の結論

  • 相当調整のないJ-クレジットは国内の制度報告では有効な削減量として扱われるが、海外顧客向けの国際的な相殺主張では日本のNDCに算入済みの削減として扱われ、主張の強度を落とさざるを得ない。
  • 同じ1クレジットでも国内制度報告・自社任意開示・海外顧客回答・製品単位表示の4用途で根拠ルールが異なり、用途ごとに文言を設計すれば資産価値は守れる。
  • J-クレジットの投資判断は「国際的に通用するか」ではなく「国内制度報告での代替手段と比べて安いか」で行うのが合理的だ。

「J-クレジットで海外顧客にカーボンニュートラルを訴求したい」——この依頼にそのまま「できます」と答えると、後で撤回する羽目になる。相当調整のないクレジットは、国内の制度報告では有効に機能する一方、国際的な主張では扱いが分かれる。使えない、ではない。用途ごとに言葉を変える設計の問題である。

「海外顧客に出したら突き返された」から始める

輸出企業で起きている典型パターンはこうだ。地球温暖化対策推進法(温対法)の算定・報告・公表制度でクレジットを反映させてきた企業が、海外顧客から届いたサプライヤー調査票に同じ数値をそのまま転記する。あるいはCDPの質問書への回答に、オフセット後の数値を載せる。すると顧客の調達部門やその委託先コンサルタントから質問が返ってくる。「そのクレジットに相当調整(corresponding adjustment)はあるか」「GHGプロトコルのScope 2市場基準が求める属性証書の要件を満たすか」。

ここで止まる企業が多い。J-クレジット制度は経済産業省・環境省・農林水産省が運営する国内制度であり、創出された削減・吸収量は日本の温室効果ガスインベントリに反映される。日本のNDC(国が決定する貢献)の中で数えられている削減を、海外の買い手が自社の削減主張に使えば、同じ1トンが二重に主張される構造になる。顧客の問いは、制度を知らない嫌がらせではない。国際的な会計の筋から出てくる当然の確認だ。

扱うのは、パリ協定6条2項に基づく国際移転スキームの設計そのものではない。それはJCM(二国間クレジット制度)側の論点であり、別稿で扱っている。環境価値の社内台帳をどう組むかも別稿の主題だ。ここで絞るのは、すでに手元にある、あるいはこれから買う同じ1クレジットを、どの相手に、どういう文言で提示するかという設計の問題である。

可否の二択で考えると判断を誤る。国内制度報告、任意の自社開示、海外顧客への訴求、製品単位の表示という4つの用途で、主張の強度を分けるのが実務的な解になる。

なぜ「相当調整」が主張の分かれ目になるのか

二重計上は3類型に分けて整理されるのが通例だ。二重発行(同じ削減に複数のクレジットが発行される)、二重使用(同じクレジットが複数回使われる)、二重請求(同じ削減をホスト国と買い手の双方が自らの達成に算入する)。J-クレジットの国際的な主張で問題になるのは、ほぼ三番目の二重請求に限られる。

二重発行はJ-クレジット制度の方法論とプロジェクト登録手続きが防いでいる。二重使用も登録簿上の無効化(retirement)処理で管理されている。制度の運営主体が国であり、プロジェクト登録から無効化までを一元管理している点で、J-クレジットの管理水準は低くない。問題は別の層にある。

相当調整とは、ホスト国が移転したクレジット相当分を自国のインベントリ・NDC達成計算から差し引く会計処理だ。パリ協定6条2項(協力的アプローチ)の下で国際的に移転される緩和成果(ITMO)には、この調整が要求される。6条4項(PACM)の下でも、承認(authorized)されたユニットの第一移転には相当調整が伴う。一方、同じ6条4項には相当調整を伴わない「緩和貢献ユニット(mitigation contribution units)」のカテゴリが置かれており、6条4項下のユニットをすべて相当調整付きと見なすのは誤りである。調整が付かないクレジットは、削減が日本のNDCに残ったまま第三者に渡ることになる。

ここで短絡しやすい。「相当調整がない=使えない」ではない。GHGプロトコルや各種の主張フレームワークは、インベントリ報告と、クレジットを使った主張(claim)を別のレイヤーとして扱っている。国の目標達成と、企業が自社の排出削減を語ることは、同じ会計簿の上にない。差分が出るのは、国境をまたいだ主張を、国の目標達成とは独立したものとして語ろうとする場面に限定される。

二重計上の類型 何が起きるか 困るのは誰か J-クレジットでの該当性
二重発行 同一の削減に複数制度からクレジットが出る 制度の信頼性全体 低い(方法論とプロジェクト登録で排除)
二重使用 同一クレジットが複数回使用・無効化される 後続の買い手 低い(国の登録簿で無効化を一元管理)
二重請求 ホスト国のNDCと買い手の主張が同じ削減を数える 海外の買い手、その顧客、規制当局 高い(相当調整が付かないため構造的に発生)

出典:Climate tech news(CTJPN)整理(類型の定義は各制度文書、該当性の評価は本文の前提による)

表の通り、J-クレジットの弱点は管理の甘さではなく、相当調整という一点に集約される。逆に言えば、相当調整が関係しない用途では弱点は顕在化しない。これが用途別の文言設計を可能にする構造的な理由である。

用途別「言えること/言えないこと」の対応表

用途を4つに分解すると、それぞれ根拠となるルールの出どころが違う。

国内制度報告では、制度側が認めるかどうかだけが基準になる。温対法の算定・報告・公表制度における調整後温室効果ガス排出量の算定、そしてGXリーグのGX-ETSにおける適格カーボン・クレジットの扱い——いずれも日本の制度が定めた土俵であり、相当調整の有無は要件に入らない。日本の制度の中で日本のNDCの一部として数える以上、国境をまたいだ二重請求が起きないからだ。GX-ETSはフェーズによって制度設計が変わっており、J-クレジットの使用可否や使用上限、超過削減枠との関係は、現在適用されているフェーズの規程で確認するのが前提になる。フェーズを確かめずに「GX-ETSで使える」と社内資料に書くのは危うい。

自社のサステナビリティ報告における相殺的記載は、GHGプロトコルとSBTiの枠で考える。SBTiのCorporate Net-Zero Standardは、スコープ1・2・3の削減目標の達成にオフセットクレジットを使うことを認めていない。削減目標はあくまで自社のバリューチェーン内の実削減で達成し、クレジットは目標外の「ビヨンド・バリューチェーン緩和(BVCM)」として別建てで報告する構造になっている。この基準は改訂作業が進められてきた経緯があり、自社の目標認定がどの版に基づくかで中間目標やBVCMの記述要件が変わる。参照する版はSBTiの公表文書で確認し、開示の脚注に版を明記するのが安全だ。この枠組みでは、相当調整の有無より「目標達成に算入していないこと」の明示が効く。

海外顧客のサプライヤー要求への回答は、顧客の調達基準とCDPの質問書の設問定義に従う。ここが最も厳しい。顧客は自社のScope 3を削減したいのであり、サプライヤーが購入したクレジットでは顧客のScope 3は減らない。GHGプロトコルのCorporate Value Chain (Scope 3) Standardには、サプライヤーが購入したオフセットを顧客のScope 3から控除する仕組みがない。相当調整の議論に入る前に、そもそもオフセットでは顧客の要求に応えられないという構造がある。なおCDPは質問書を統合質問書へ再編しており、設問の単位や番号は年度版で確認する前提になる。

製品・サービス単位の表示は、ISO 14068-1(カーボンニュートラリティ)や各国の広告規制、VCMI Claims Codeのような主張フレームの領域だ。EUでは消費者保護側の指令(Empowering Consumers Directive)が2024年に成立し、加盟国の国内法化を経て2026年9月27日から適用されており、オフセットに依拠したカーボンニュートラル表示を制約する条項を含む。これとは別に立法が進められてきたGreen Claims Directiveは、交渉の過程で扱いが流動的に推移してきた経緯があり、立法状況は欧州議会・理事会の一次情報で確認するのが前提だ。輸出先での製品表示にJ-クレジットを使う判断は、炭素会計の問題ではなく広告法務の問題として扱うべきである。

用途区分 適用される主なルール 相当調整の位置づけ 推奨する主張の強度
(a) 国内制度報告(温対法の算定・報告・公表制度、GX-ETS) 各制度の算定ルール(GX-ETSは適用フェーズの規程) 要件に入らない 強:制度上の有効性を明示して記載できる
(b) 自社の任意開示(統合報告書・サステナビリティ報告) GHGプロトコル、SBTi、SSBJ/IFRS S2 要件に入らない(ただし目標外計上の明示が前提) 中:「削減目標の達成には算入していない」と併記
(c) 海外顧客のサプライヤー調査・CDP回答 顧客の調達基準、CDP質問書の設問定義 相当調整以前に、オフセットでは顧客のScope 3削減に応えられない 弱:購入実績の事実のみ記載、顧客Scope 3削減としては主張しない
(d) 製品単位のカーボンニュートラル表示(輸出先) ISO 14068-1、輸出先の広告規制、VCMI Claims Code 必要(かつ広告規制の審査を通ること) 不可〜条件付き:法務審査なしでの表示は避ける

出典:Climate tech news(CTJPN)整理(強度区分は本文の判断。各ルールの要件は主要出典を参照)

分かれ目は相当調整の有無だけではない。「誰のインベントリの話をしているか」「オフセットかインセット(バリューチェーン内の削減)か」「市場基準の電力属性証書として扱えるか」の3軸が絡む。相当調整を単独の判定基準にすると、(c)のようにそれ以前の段階で詰む用途を見落とす。表を読む際の実務上の要点はここにある。(a)と(b)は文言の設計で守れるが、(c)は文言をどう工夫しても強い主張には届かない。リスクが集中するのは(d)で、ここだけは炭素会計の判断から切り離して法務の審査に載せるべきだ。

クレジットの種類による差も大きい。再生可能エネルギー由来のJ-クレジットをScope 2市場基準の算定に使う場合、GHGプロトコルのScope 2 Guidanceが求める属性証書の品質要件——発行・追跡・償却の一意性、対象電力系統との一致、報告年との時間的整合など——を満たすかという技術的な検証が入る。一方、森林吸収系のクレジットをScope 1の相殺に使う場合は、永続性・リバーサルリスク・ベースラインの保守性という吸収系固有の論点に加えて、「吸収は排出削減の代替になるか」という海外投資家側の厳しい視線が加わる。同じJ-クレジットという名前でも、海外の買い手の評価は同一ではない。

CORSIAとVCMIから逆算する「適格性の階層」

国際的に通用するクレジットとは何か。この問いへの答えは、既存の国際枠組みが設定した適格性要件を見ると具体化する。

CORSIA(国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)は、ICAOが運営する国際航空分野の制度で、使用できる排出削減ユニットをICAO理事会が承認した適格ユニットのリストで限定している。適格性の条件はフェーズごとに異なり、パイロット期とその後の各期で、使えるユニットのヴィンテージや相当調整の裏付けに関する条件が変わる。2026年は第1期(2024〜2026年)の最終年にあたり、この期に航空会社が相殺義務の履行に使うユニットには、ホスト国からの相当調整の裏付けが求められる。フェーズを落として「CORSIAは相当調整を要件にしている」とだけ書くと、ヴィンテージ要件の存在が見えなくなる。

VCMI Claims Codeは企業のクレジット利用に関する主張の作法を定めたフレームワークで、スコープ1・2・3の実削減を前提にした上で、主張の種類ごとに満たすべき条件を規定している。参照する際は版を特定するのが前提だ。

これらを並べると、クレジットには事実上の階層が存在することが見えてくる。相当調整付きのユニットが最上層にあり、国際的な相殺主張に使える。その下に、相当調整のない独立系クレジット(主要なボランタリー制度の多く)が位置し、ビヨンド・バリューチェーン緩和としての貢献主張に使える。J-クレジットは、国の制度である強みと相当調整がない弱みを併せ持つ、独特の位置にある。

階層 代表例 国際的な相殺主張 国内制度報告での使用
相当調整付きユニット JCMのクレジット(日本取得分)、6条4項下の承認(authorized)されたユニット 可 可
独立系ボランタリークレジット 国際的なボランタリー制度のクレジット 条件付き(貢献主張として) 制度により可否が分かれる
国内制度クレジット J-クレジット(省エネ・再エネ・森林吸収) 原則として不可 可

出典:Climate tech news(CTJPN)整理(階層区分は本文の判断。各ユニットの要件は主要出典を参照)

階層の上下は、そのまま価格差として現れるとは限らない。相当調整付きユニットのプレミアムが小さければ、国際主張が必要な企業はそちらを買えばよい。プレミアムが大きければ、用途別の文言設計で乗り切る実務的価値が上がる。価格を比較するなら、J-クレジット制度の入札結果と、日本取引所グループのカーボン・クレジット市場の公表値という一次情報を、同じ時点・同じクレジット種別で突き合わせるのが筋だ。推計値を置いて議論を進めるより、公表値を自社の調達判断の都度で引き直すほうが実務的である。

ここから逆算すると、J-クレジットの購入判断の立て方が変わる。「国際的に通用するか」を基準にすると、答えは基本的にノーで、購入そのものが否定されてしまう。そうではなく「国内制度報告における代替手段と比べて安いか」を基準にすべきだ。温対法の報告やGX-ETSでの対応という目的に限れば、J-クレジットは相当調整の不在というハンディを負わない。国内用途に用途を限定した上で、同じ目的を果たす他の手段とのコスト比較で判断する。これが資産価値を守る買い方である。

文言設計の実際——4段階の強度で書き分ける

対応表を社内で運用に落とすには、文言のテンプレート化が効く。

国内制度報告では、制度名と算定ルールを明示して、制度上有効な削減量として記載する。遠慮は不要だ。制度が認めている限り、それは制度上の事実である。

任意の自社開示では、購入量・無効化量と、それを削減目標の達成に算入していない旨を併記する。「当社のスコープ1・2削減目標は自社施設の実削減で達成しており、J-クレジットによる無効化はこれとは別に、バリューチェーン外の緩和への貢献として報告している」——この書き方なら、SBTi基準との整合性を問われたときに即答できる。参照している基準の版を脚注に添えておけば、改訂をまたいでも説明が崩れない。

海外顧客のサプライヤー調査では、オフセット前の排出量実績を主たる回答とし、クレジットの購入・無効化は補足情報として記す。顧客が求めているのは自社のScope 3の削減であり、そこに応えるのはサプライヤー自身の実削減か、再エネ電力への切り替えである。クレジットを前面に出すと、質問が増えて回答コストが膨らむだけだ。

製品単位の表示については、輸出先の広告規制を確認せずに「カーボンニュートラル製品」と書かない。表示したい場合は、ISO 14068-1の要件と、EUの消費者保護指令など輸出先の表示規制を踏まえた法務審査を先に通す。ここだけは炭素会計の判断から外して扱うのが安全だ。

課題・反論・代替視点

この整理には弱点がある。最も強い反論は、「用途別の文言設計は、結局のところ説明の工夫にすぎず、海外顧客の要求が厳格化すれば無力になる」というものだ。実際、サプライヤー調査票の設問は年々精緻化しており、顧客の調達基準がオフセットの評価をどこまで認めるかは買い手ごとに分かれる。文言を工夫しても、相手の基準が「クレジットは一切評価しない」なら交渉の余地はない。この指摘は正しい。文言設計は時間を買う手段であり、恒久的な解決策ではない。

価格の方向からも反論が立つ。国内制度報告の対応負担が重くなり、国内のクレジット需要が強まれば、J-クレジットの価格も上がる。そのとき「国際主張には使えないが国内では使える」という属性は、割引要因ではなく国内市場での価格決定要因になる。ここでの整理はJ-クレジットを国際市場との比較で論じているが、そもそも比較すべき市場が違うという見方もありうる。この見方を取るなら、相当調整の議論は輸出企業の一部にしか関係しない周辺論点になる。

制度側の変化の可能性も残る。J-クレジットの国際的な活用については、制度文書やQ&Aに現行の取扱いが示されているため、自社の主張を設計する前にそこを読むのが出発点になる。そのうえで、パリ協定6条の実施ルールが各国で運用段階に入り、民間主体の参加形態が具体化する中で、国内制度クレジットの国際的な位置づけに動きが出ることはありうる。その場合、ここで示した階層は書き換えが必要になる。制度の事実関係は一次情報で確認し、変更があれば主張の文言も更新する前提で設計するのが現実的だ。逆に、制度側が国際的な活用に道を開く方向で整理を進めれば、「原則として不可」という評価自体が動く。階層表は固定された事実ではなく、現行の制度文書に基づく暫定的な地図に過ぎない。

前提の限界も明示しておく。ここでの議論は、クレジットの買い手が「正確に主張したい」という動機を持つことを前提にしている。実際には、曖昧な表示で通してしまう企業も存在する。ただし、グリーンウォッシュへの法的・レピュテーション上のリスクが高まる局面で、曖昧さに賭ける合理性は下がっている。

日本市場・日本企業への示唆

海外事例をそのまま持ち込めない理由がある。欧米企業のクレジット調達戦略は、EU-ETSのように排出枠とクレジットが明確に分離された環境、あるいは国内に義務的な制度報告の受け皿が薄い環境を前提にしている。日本の輸出企業が置かれた状況は違う。温対法の算定・報告・公表制度、GX-ETS、自治体の制度という国内の受け皿が複層的に存在し、そこではJ-クレジットが有効に機能する。「国際的に通用しないから買わない」という欧米流の単純な判断は、日本企業にとって機会損失になりうる。

示唆の第一は、調達の分離だ。国内制度報告への対応と、海外顧客向けの訴求を、別の予算・別の手段で設計する。前者はJ-クレジットで低コストに埋め、後者は自社の実削減、再エネ電力の調達、サプライヤーとの協働によるインセット型の削減で応える。同じ予算で両方を満たそうとすると、どちらも中途半端になる。

第二は、社内のクレジット台帳に用途区分の列を持つことだ。どのクレジットをどの用途に割り当てたかを記録しておけば、同一クレジットを国内報告と海外訴求に二重に使うという、自社内での二重使用を防げる。海外顧客の監査で最も致命的なのは、相当調整の不在ではなく、同じクレジットが複数の文脈で使われている痕跡が見つかることだ。

第三は、顧客との対話の設計である。輸出先の顧客に対しては、クレジットの話をする前に実削減のロードマップを示す。そのうえで、日本の制度環境の説明として、J-クレジットの位置づけを補足する。順序を逆にすると、オフセットに依存している企業という印象だけが残る。日本の制度が国際基準と接続していない部分は、説明責任を負うべき事実として扱い、隠さずに位置づけを示すほうが交渉上も有利になる。

最後に、相当調整付きユニットの調達ルートを検討する価値がある企業は限られる。海外売上比率が高く、顧客が明示的に国際的な相殺主張を求め、かつ製品単位の表示を輸出先で行う企業——この条件が重なる場合のみ、JCMを含む相当調整付きのユニットへの投資が合理的だ。それ以外の企業が国際基準を追いかけるのは、コストに見合わない。

まとめ

J-クレジットの国際的な扱いをめぐる混乱の多くは、問いの立て方に原因がある。「使えるか使えないか」と問えば、相当調整の不在という一点で答えは否定的になる。しかし企業が実際に直面しているのは、手元にある、あるいは安く買える国内クレジットを、どの場面でどこまで主張に使えるかという配分の問題だ。国内制度報告では制度の土俵の上で有効に機能し、任意開示では目標外の貢献として位置づけられ、海外顧客への回答では補足情報にとどめ、製品表示では法務審査を通すまで使わない。この4段階の強度設計が、同じ資産の価値を最大限に引き出す。

投資判断の基準も組み替える余地がある。国際市場のクレジット価格やCORSIAの適格性と比較してJ-クレジットを評価すると、常に劣位に見える。比較すべきは、国内制度報告への対応を果たすための代替手段——自社設備投資の削減単価、再エネ電力調達のプレミアム、GX-ETS下での対応コスト——である。この比較軸なら、J-クレジットは有力な選択肢として立ち上がってくる。用途を限定し、文言を設計し、台帳で管理する。この三点が揃えば、相当調整の不在は致命的な欠陥ではなくなる。

ただし時間の猶予は無限ではない。パリ協定6条の運用が各国で具体化し、サプライヤー調査の設問が精緻化し、輸出先の表示規制が適用段階に入る流れの中で、「説明の工夫で乗り切る」余地は徐々に狭まっていく。当面の分かれ目は、国内クレジットの国際的な位置づけについて制度側が追加の整理を示すか、あるいは海外顧客の調達基準がオフセットを明示的に排除する方向で固まるか、という二つの動きである。この分岐が輸出企業のクレジット戦略の分水嶺となる。それまでの期間に、国内用途での費用対効果を確実に取り、海外顧客向けには実削減のロードマップを積み上げておくのが、最も損失の小さい構えである。

主要出典

  • J-クレジット制度事務局(経済産業省・環境省・農林水産省)「J-クレジット制度 制度文書・各種様式・Q&A」 https://japancredit.go.jp/
  • 環境省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度(地球温暖化対策推進法)関連資料」 https://www.env.go.jp/
  • GXリーグ事務局「GX-ETS の実施ルール・適格カーボン・クレジットに関する資料」 https://gx-league.go.jp/
  • 経済産業省「GX リーグ・GX 推進に関する政策資料」 https://www.meti.go.jp/
  • UNFCCC「パリ協定第6条2項(協力的アプローチ)および第6条4項に関する CMA 決定文書」 https://unfccc.int/
  • WRI / WBCSD「GHG Protocol Corporate Standard」 https://ghgprotocol.org/
  • WRI / WBCSD「GHG Protocol Scope 2 Guidance」 https://ghgprotocol.org/
  • WRI / WBCSD「GHG Protocol Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard」 https://ghgprotocol.org/
  • Science Based Targets initiative「Corporate Net-Zero Standard(適用版は SBTi 公表文書で確認)」 https://sciencebasedtargets.org/
  • ICAO「CORSIA Eligible Emissions Units(ICAO 理事会承認の適格ユニット一覧、フェーズ別要件を含む)」(International Civil Aviation Organization 公表資料)
  • Voluntary Carbon Markets Integrity Initiative「VCMI Claims Code of Practice」(VCMI 公表資料)
  • CDP「CDP 統合質問書およびレポーティング・ガイダンス」 https://www.cdp.net/
  • ISO「ISO 14068-1:2023 Climate change management — Transition to net zero — Part 1: Carbon neutrality」 https://www.iso.org/
  • 株式会社日本取引所グループ「カーボン・クレジット市場 取引情報」 https://www.jpx.co.jp/
  • European Parliament / Council of the European Union「Directive (EU) 2024/825(Empowering Consumers for the Green Transition)および Green Claims Directive 提案の立法経過」 https://commission.europa.eu/

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