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Scope 3 Cat.7(従業員の通勤)とCat.8(上流のリース資産)の算定実務

Scope 3のカテゴリ7(従業員の通勤)とカテゴリ8(上流のリース資産)は多くの企業で算定対象になるが、データ収集と方法論の選択で迷うことが多い。実務で頻出する判断ポイントと削減施策を解説する。

Cat.7(従業員の通勤)の算定

算定スコープ

Cat.7は「従業員が自宅から職場まで通勤する際の排出量」です:

  • 電車・バス・地下鉄(公共交通)による通勤
  • マイカー・バイク・自転車による通勤
  • 社員バスの排出量(会社が運行する通勤バス)
  • テレワーク日の自宅での電力消費(一部の方法論では含める)
  • 除外:Cat.6(出張)は業務目的の移動。Cat.7は「通勤」のみ。

算定方法

方法1:従業員アンケート

全従業員に通勤手段・距離・頻度を調査し、手段別の排出係数を掛ける最も精度の高い方法。年1回の通勤実態調査で算定基礎データを収集:

排出量 = Σ(従業員 × 通勤距離(km/日)× 年間出勤日数 × 輸送モード別排出係数)

方法2:交通費支給データの活用

経費システムの通勤交通費データから支給額・路線・距離を推計。公共交通は定期券金額から距離を逆算可能。マイカーは駐車場利用状況・燃料費補助から推計。

方法3:推計(スペンドベース・業種平均)

従業員一人当たりの業種平均通勤排出量(t-CO₂/人/年)を使用。サービス業・製造業等の業種別係数が利用可能。精度は低いが算定コストが最小。

テレワークの扱い

テレワーク日は通勤排出がゼロになる一方、自宅での電力・暖房消費が増加します。一般的にはテレワーク日の通勤分を削減として計上し、自宅電力増加分は算定しないアプローチが多い(GHGプロトコルのガイドラインに準拠)。

Cat.7の削減施策

  • テレワーク・ハイブリッド勤務の拡大:最も直接的なCat.7削減手段。週2〜3日のリモートワークで通勤排出を40〜60%削減可能。
  • 公共交通利用の促進:マイカー通勤の社員を鉄道・バス通勤へ転換する交通費補助・駐車場有料化。
  • EVシフト補助:EV通勤車への購入補助・充電設備の社内設置で、マイカー通勤の排出係数を低下させる。
  • サテライトオフィス・コワーキング利用:自宅近くのサテライトオフィス利用で通勤距離を短縮。

Cat.8(上流のリース資産)の算定

算定スコープ

Cat.8は「企業がリースして運用している資産(オペレーティングリース)のScope 1・2排出量」です:

  • リース車(社用車のオペレーティングリース)
  • リースオフィスビル・工場(自社のScope 1・2に含まない場合)
  • リース機械・設備
  • 除外:ファイナンスリース(実質的な資産保有)はScope 1・2に含む。Cat.8はオペレーティングリース(会計上のリース費用として処理)のみ。

リース車(社用車)の算定

企業が最も影響を受けやすいCat.8の対象:

排出量 = リース車台数 × 年間走行距離(km)× 燃料種別排出係数(kg-CO₂/km)

リース会社(日本リース・三菱UFJリース等)は車両の走行データ・燃料消費データを保有しており、CO₂レポートサービスを提供するケースが増えています。

リースオフィスの算定

テナントとして入居するオフィスビルの運用排出:

  • 電力消費:電力会社の請求データから直接算定(Scope 2として計上している企業が多い)
  • 空調・共用設備:ビル管理会社から共用部の排出量按分データを取得

多くの企業でオフィス電力はScope 2に計上済みのため、Cat.8と重複しないよう整理が必要です。

Cat.7・Cat.8の重要性評価

Cat.7(通勤)・Cat.8(リース資産)は多くのメーカー・物流企業では全Scope 3の数%以下を占める「中程度の重要性カテゴリ」です。一方でサービス業・コンサル・IT企業では従業員数が多く、Cat.7が主要なScope 3カテゴリになることがあります。業種・事業規模によって重要性が異なるため、まずScope 3全体の重要性評価でCat.7・8の比率を確認してから算定精度への投資を判断することが合理的です。

まとめ

Cat.7(通勤)は従業員アンケートor交通費データによる算定と、テレワーク拡大・公共交通促進によるシンプルな削減が可能です。Cat.8(リース資産)はリース車・オフィスのエネルギーデータ収集から始め、Scope 2との重複整理が先決です。両カテゴリとも重要性評価に基づいて算定精度への投資を判断することが実務上の合理的アプローチです。

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