分析記事 業界別ケース · 測定・MRV

海運業界のScope 3対応とIMO GHG規制 — CII格付け・代替燃料・炭素コスト管理の実務

海運業界は世界のCO₂排出量の約2.5%を占め、IMOの2050年ネットゼロ目標・CII(カーボン集約指数)格付け制度・EU ETSへの組み込みという三重の規制圧力に直面している。荷主企業のScope 3 Cat.4・Cat.9にも直結する海運脱炭素の実務を解説する。

海運業界が直面する規制フレームワーク

IMO GHG戦略(2023年改訂版)

国際海事機関(IMO)は2023年に強化されたGHG戦略を採択しました:

  • 2030年:2008年比で少なくとも20%削減(努力目標30%)
  • 2040年:2008年比で少なくとも70%削減(努力目標80%)
  • 2050年:ネットゼロ達成

この目標達成のために、EEXI(既存船舶の省エネ指数)・CII(カーボン集約指数)・MARPOL Annex VIの強化が実施されています。

CII(カーボン集約指数)格付け制度

5,000GT以上の船舶に適用される年次格付け制度(2023年〜):

  • A〜Eの5段階評価(Aが最優秀)
  • 格付けはCO₂排出量÷輸送量(GT×海里)で計算する「排出原単位」で決定
  • 3年連続D格以下またはE格の船舶は是正計画の策定が義務
  • 2026年以降、評価基準の要求水準が毎年引き上げられる(年間約2%の改善要求)

EU ETSへの海運組み込み(2024年〜)

EUは2024年からEU港湾を発着する船舶にEU-ETSの適用を開始しました:

  • 2024年:EU域内航行100%、EU入出港航行50%が対象
  • 2025年:EU域内100%、入出港100%
  • 2026年:メタン・N₂Oも対象に追加

EU-ETS証書(EUA)価格60〜80ユーロ/tが海運会社の燃料コストに加算され、燃料効率の改善・代替燃料への転換の経済的インセンティブが強まります。

Scope 3での海運排出の算定(荷主企業の視点)

製品を海上輸送する荷主企業にとって、海運はScope 3 Cat.4(上流輸送)またはCat.9(下流輸送)に含まれます:

排出量 = 輸送貨物重量(t)× 航行距離(km)× 船種別排出係数(kg-CO₂/t・km)

外航船の標準排出係数:約0.005〜0.020 kg-CO₂/t・km(航路・船型・積載率による)。船会社はGHG排出量の開示(IMOデータ収集システム、EU MRV規則)を行っているため、主要船会社に依頼すれば貨物別のCO₂データ提供が可能になりつつあります。

Poseidon Principles(金融機関向け海運脱炭素原則)やSea Cargo Charter(荷主向けの脱炭素フレームワーク)がデータ標準化を推進しています。

海運会社の脱炭素技術・燃料オプション

代替燃料 排出削減率 普及コスト 課題
LNG(液化天然ガス) GHG約20%削減(短期) 低〜中 メタンスリップ問題(長期効果が限定的)
アンモニア(グリーン) ほぼゼロ 毒性・燃料タンクの大型化・コスト
水素(グリーン) ほぼゼロ 体積が大きく長距離航行での実用性課題
メタノール(グリーン) 約80〜95%削減 中〜高 既存技術と親和性あり、Maerskが先行
バイオ燃料(B100) 約80%削減 持続可能な原料の確保・コスト

Maersk(世界最大のコンテナ船会社)はグリーンメタノール推進で船隊更新を進めており、2024年に世界初のグリーンメタノール燃料コンテナ船を就航させました。

荷主企業のSea Cargo Charter対応

Sea Cargo Charter(SCC)は荷主企業向けの海運脱炭素フレームワークです:

  • IMO GHG戦略に整合した「脱炭素航路」での輸送を優先するコミットメント
  • 船会社選定基準にCII格付け・代替燃料使用率を組み込む
  • 年次報告でポートフォリオ全体の排出原単位を開示

SCC参加企業は船会社選定時にCII A〜B格の船舶を優先することで、Cat.4・Cat.9の排出係数を改善しながらIMO基準への整合を実現します。

まとめ

海運業界はIMO GHG戦略・CII格付け・EU-ETSという三重の規制圧力の下で脱炭素転換を迫られています。荷主企業の視点では、Sea Cargo Charter参加・CII格付け重視の船会社選定・排出係数の低い航路設計がScope 3 Cat.4・Cat.9の削減手段として機能します。2030年に向けたグリーンメタノール・アンモニア対応船の就航拡大が海運Scope 3削減の中長期的な切り札となります。

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