Scope 3のカテゴリ11(販売した製品の使用)は、自動車・家電・燃料・電力などの製品が顧客に使用される際の排出量を対象とする。多くのメーカーでScope 3全体の70〜90%を占める最大カテゴリだが、算定方法と削減アプローチは製品タイプによって大きく異なる。
Cat.11の算定スコープ
GHGプロトコルのScope 3 カテゴリ11「販売した製品の使用」には2種類あります:
- 直接使用排出(Direct use-phase emissions):製品を使用する際に直接排出されるGHG。ガソリン車の走行排出・ガスボイラーの燃焼排出・スプレー缶のHFC排出等。
- 間接使用排出(Indirect use-phase emissions):製品を使用する際に間接的に消費されるエネルギー由来の排出。電気機器・PCの電力消費・電気自動車の充電電力等。
除外:製品の製造段階(Cat.1)・輸送段階(Cat.9)・廃棄段階(Cat.12)はそれぞれ別カテゴリ。
製品タイプ別の算定アプローチ
1. 燃料・エネルギー製品(石油・ガス・電力会社)
燃料・エネルギー製品は販売量から直接算定できるため、比較的シンプルです:
排出量 = 販売量(TJ or kL)× 燃焼排出係数(t-CO₂/TJ)
石油元売・ガス会社にとってCat.11は全Scope 3の95%以上を占める圧倒的最大カテゴリです。ENEOSやBPの気候変動目標の「製品使用排出削減」はほぼすべてCat.11の削減を意味します。
2. 自動車・輸送機器
走行時の燃料消費・電力消費が対象:
排出量 = 販売台数 × 年間走行距離(km)× 燃費/電費(L/km or kWh/km)× 排出係数 × 車両ライフ(年数)
ICE車:WLTP燃費データ×ガソリン排出係数。EV:充電電力消費量×電力排出係数(国別グリッド係数)。ハイブリッド:走行モード比率で按分。
3. 家電・電子機器
排出量 = 販売台数 × 製品ライフ(年)× 年間電力消費量(kWh/年)× 電力排出係数
年間電力消費量はJIS/IEC規格の試験値(Eei等)または実測データを使用。電力排出係数は製品が使用される市場(国)の係数を適用。
4. SaaS・クラウドサービス
クラウドサービスのCat.11は「サービス提供に使用されるデータセンターの電力消費」が対象:
排出量 = サービス提供に使用するサーバー電力消費量 × データセンター電力排出係数
AWSやGoogleの「カスタマーカーボンフットプリント」ツールを活用するか、データセンターのPUE・電力使用量からボトムアップで算定。
5. 建材・断熱材
断熱材・高効率窓サッシ等の「省エネ建材」はユニークなケースです——製品の使用によって「排出が削減される」ため、Cat.11がネガティブ(削減量)になります。省エネ建材メーカーはCat.11の「回避排出量(avoided emissions)」を正の気候貢献として開示するケースがあります(GHGプロトコルでは本体算定外だが任意開示推奨)。
算定の難所:ライフタイムと使用パターンの仮定
Cat.11算定で最も困難なのは、以下の変数の仮定設定です:
- 製品ライフ(耐用年数):冷蔵庫15年・洗濯機12年・スマートフォン3年・自動車15年等の業界標準値を使用するか、実態データで検証。
- 使用電力の電源構成:製品が将来どの国・どの電力ミックスで使用されるかは不確実。現在の販売先市場の電力係数を使うのが一般的。
- 使用率・稼働パターン:PCの年間稼働時間・エアコンの稼働時間は地域・季節によって異なる。
これらの不確実性を開示しながら、感応度分析(電力係数が2倍になった場合のCat.11変化)を示すことが開示品質の向上につながります。
削減レバー
- 製品エネルギー効率の向上(最大レバー):製品の省エネ性能を上げることが直接的にCat.11を削減。EV転換・高効率モーター・AIによる省電力制御。
- 製品使用時の再エネ化支援:充電インフラでの再エネ電力供給・再エネ電力契約オプションの提供(ユーザーの電力係数を下げる)。
- 製品ライフの延長:修理サービス・ソフトウェアアップデートによる長寿命化で、単位時間当たりの排出量を削減(製造時のCat.1との按分改善)。
- 使用ガイダンス:省エネ使用方法の積極的な情報提供で実際の消費電力を低減。
まとめ
Scope 3 Cat.11は製品を販売するメーカーにとって最大の排出源であり、「製品の性能向上」が最も直接的な削減手段です。燃料・エネルギー製品は販売量ベース、自動車・家電は販売台数×ライフタイム消費ベースで算定し、市場別の電力係数を考慮した感応度分析を開示することが、Cat.11算定の実務水準として求められます。
Scope 3 Cat.11:製品タイプ別算定アプローチ比較
| 製品タイプ | 対象例 | GHGプロトコル推奨算定手法 | 排出量の特性 | 実務上の難所 |
|---|---|---|---|---|
| エネルギー直接使用型 | 自動車・大型トラック・航空機・船舶(燃料消費) | 年間使用エネルギー消費量×排出係数×想定ライフタイム年数。燃費(km/L)・販売台数・平均走行距離から算定。 | Scope 3全体の60〜90%を占める(自動車OEM・電力会社等)。EV移行により使用段階の排出係数が将来変動。 | 平均走行距離・使用年数の地域差・モデルミックスの変化。将来の電力グリッド排出係数の推定(グリッドの低炭素化でCat.11も減少)。 |
| 電力間接使用型 | 家電・PC・サーバー・産業機器(電力消費) | 製品の年間電力消費量(W)×使用時間×排出係数×ライフタイム。ENERGY STAR等のスペックシートを活用。 | 電力グリッドの低炭素化に伴い自動的に削減。SBTiの電力セクター基準で目標設定する場合に重要。 | 実際の使用パターン(稼働率・スタンバイモード割合)が製品スペックと乖離。地域別電力排出係数の適用方法。 |
| 燃料・エネルギー製品 | 石油・天然ガス・石炭・バイオ燃料(燃焼時排出) | 販売量×燃焼排出係数(IPCC Tier 2係数等) | 化石燃料サプライヤーの場合、Cat.11が全社Scope 3の90%超を占めることも。「Financed Emissions(Cat.15)」と並ぶ最大カテゴリ。 | バイオ燃料の「カーボンニュートラル扱い」の是非(実際はN₂O排出や土地利用変化がある)。LNG・アンモニアのライフサイクル排出係数の選択。 |
| 長期使用型耐久消費財 | 航空機・建設機械・産業用ロボット・風力タービン | 機器の年間エネルギー消費×排出係数×ライフタイム(15〜30年)。OEM側は販売後の長期間の使用排出を推計。 | ライフタイムが長いため、将来の低炭素化(電力グリッド・燃料転換)を反映した動的モデリングが理想的。 | 20〜30年後のグリッド排出係数・燃料排出係数の仮定が結果に大きく影響。SBTiはbase year時点の固定係数使用を推奨する場合がある。 |
| ソフトウェア・デジタルサービス | クラウドサービス・SaaS・AI推論 | サービス利用に伴うデータセンター電力消費×電力排出係数。データセンター事業者のPUE・電力調達(再エネPPA等)を考慮。 | AI普及に伴いデータセンター電力消費が急増。Cat.11の新たな重要カテゴリとして注目。 | クラウドプロバイダー(AWS・Azure・GCP)のGHG開示データの精度・範囲が限定的。Scope 2の配分方法(market-based vs location-based)の選択。 |