分析記事 制度・ルール

EU EUDR(森林破壊規制)の実務対応 — コーヒー・カカオ・大豆・パーム油の証明義務

EU森林破壊規制(EUDR)は2025年(大企業)・2026年(中小企業)から本格適用が始まり、対象7品目のEU輸入・輸出に「森林破壊フリーの証明」を義務付ける。食品・飲料・日用品・紙・木材の日本企業サプライチェーンに直接影響する規制の実務対応を解説する。

EUDRの概要

EU Deforestation Regulation(EUDR、EU 2023/1115)は、EUが輸入・使用・輸出する特定産品が「2020年12月31日以降に森林破壊・森林劣化が発生した土地で生産されていない」ことを証明することを義務付ける規制です。

対象7品目:牛・大豆・パーム油・木材・コーヒー・カカオ・ゴム(およびこれらを原料とした派生製品)

例:チョコレート(カカオ由来)・コーヒー豆・ソイミルク・レザー製品(牛革)・紙・板材・天然ゴムタイヤが対象。

義務の内容

1. デューデリジェンス声明(DDS)

EUに対象産品を輸入・輸出するオペレーター(企業・個人)は、以下を含む「デューデリジェンス声明」をEUのシステムに提出しなければなりません:

  • 地理情報(ジオロケーション):対象産品が生産された土地の座標(農地・農場・林地レベルの緯度経度情報)
  • 森林破壊フリーの評価:衛星データ・現地調査等で「2020年以降の森林破壊がない」ことの確認
  • 適法性の確認:生産国の法規制(土地利用・労働・人権等)に準拠していることの確認

2. リスクベースアプローチ

欧州委員会が国別・地域別に「高リスク」「標準リスク」「低リスク」を分類。高リスク国(熱帯林破壊の多い国)からの調達は追加の現地検証が必要。低リスク国は簡略化された手続きが適用されます。日本は農産物の原産地ではないため、EU輸出企業として「バリューチェーン上流の証明」が課題になります。

日本企業への影響

食品・飲料メーカー

コーヒー・カカオ・パーム油・大豆を原料とする製品をEUに輸出または欧州子会社を通じて販売する企業は、全原料産地の地理情報と森林破壊フリー証明の取得が必要。サプライチェーンが多層化・複雑化している場合、農場レベルのトレーサビリティ構築が最大の課題です。

紙・木材メーカー

木材・パルプ・紙製品はEUDRの直接対象。林業系のサプライヤーとのデータ連携強化と、FSC・PEFCなどの認証活用が対応の中心となります。

タイヤ・ゴム製品メーカー

天然ゴムはEUDRの対象。タイヤメーカーはゴムプランテーションの座標取得・森林破壊フリー評価が必要。主要生産地のタイ・インドネシア・マレーシアのプランテーションのジオロケーションデータ整備が急務。

対応ステップ

  1. 対象品目の特定:自社製品・原料にEUDR7品目が含まれるか確認。EU向け売上の有無の確認。
  2. サプライヤーへのデータ要請:主要サプライヤーに農場・農地の座標データ提供を要請。EUDR対応済みサプライヤーの選定と評価。
  3. トレーサビリティシステムの導入:ジオロケーション情報の収集・管理・EU提出システムとの連携。農場単位のデータ管理が必要なため、既存の購買管理システムの拡張が必要なケースが多い。
  4. 認証の活用:Rainforest Alliance・UTZ・RSPOはEUDR対応を進めており、認証取得サプライヤーからの調達優先でコンプライアンスコストを低減できる。
  5. 調達先の切り替え検討:高リスク地域(アマゾン・コンゴ盆地・東南アジア)からの調達比率を下げ、低リスク地域(中南米一部・アフリカ一部)や国内認証農場への切り替えを検討。

罰則

EUDR違反のペナルティ:最大で年間売上高4%相当の罰金、対象産品の市場流通停止、製品の没収・廃棄。EUの規制当局が抜き打ち検査を実施する権限を持ちます。

まとめ

EUDRは「森林破壊フリーの証明」という新たなサプライチェーン要件を農場・農地レベルで課す規制です。日本の食品・紙・ゴム・木材関連企業はEU向け事業の有無を確認し、農場座標データの収集体制・認証サプライヤーへの切り替え・トレーサビリティシステムの整備を2024〜2025年中に着手することが、2025〜2026年の本格適用への対応に間に合うための条件です。


EUDR対象7品目と主要サプライチェーン影響の比較

対象品目 主要産地・輸出国 日本の主な輸入量・産業への影響 デューデリジェンスの主な課題
コーヒー ブラジル・コロンビア・ベトナム・インドネシア(対象原産地:これらの伐採リスク国) 日本の輸入量:約33万t/年(世界第4位)。スターバックス・ネスレ・コーヒーチェーンが主な影響企業。 農地の位置情報(ジオロケーション)特定が困難(小規模農家が多い)。農地の衛星データとの突合作業。
カカオ コートジボワール・ガーナ(世界の2/3を生産)・インドネシア チョコレート・菓子・化粧品業界。明治・森永・ロッテ・資生堂等が影響。 カカオ農家の多くが2ha未満の小規模農家。農家登録・農地マッピングのコストが高い。
大豆 ブラジル・アルゼンチン・アメリカ(アマゾン・セラード) 飼料・大豆油・豆腐・加工食品原料として大量輸入。畜産・食品業界が広範囲に影響。 農地の証明がEUDR規制以前の転換の証明を要求(2020年12月31日基準日)。バイヤー数が多く追跡が複雑。
パーム油 インドネシア・マレーシア(世界の80%) 食品・化粧品・バイオ燃料の原料として広く使用。P&G・ユニリーバ・花王・ライオン等が影響。 RSPOなどの既存認証とEUDR要件の整合性確認。農園から精製・分別管理の全プロセスの書類作成。
木材・木製品 ブラジル・インドネシア・ロシア(EUDRはロシア材も対象外だが関連)・東南アジア各国 木材・合板・家具・紙・段ボール産業。住宅・建材・印刷・出版業界。FSC認証取得で一部要件充足可能。 ロシアとベラルーシはEUDR自体の対象(高リスク国リストに追加の可能性)。原産地証明の書類管理。
牛肉・牛革 ブラジル(最大輸出国)・アルゼンチン・インドネシア 食肉・皮革・自動車シート・鞄業界。飲食チェーン・ファッション・自動車業界に広く影響。 畜産農場の移動(牧場から牧場への移送)追跡が困難。屠場→皮なめし→製品の各段階でのトレーサビリティ管理。
天然ゴム タイ・インドネシア・マレーシア・コートジボワール タイヤ・医療用手袋・工業用ゴム製品。自動車業界(ブリヂストン・住友ゴム等)が主要影響企業。 農家単位でのジオロケーション取得(タイ・インドネシアの小農が多い)。EUDR適合農園認証の普及が未達。

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