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DRI(直接還元鉄)とは|水素還元製鉄と電炉(EAF)組み合わせで鉄鋼を脱炭素化

DRIはDirect Reduced Iron(ダイレクトリデュースドアイアン)の略であり、製鉄における一つの鉄鉱石の還元方法です。DRIプロセスは、鉄鉱石(主に酸化鉄鉱石)を固体鉄へ直接還元する方法であり、通常は天然ガスやコークスオーブンガス(COG)などの還元剤を使用します。このプロセスにより、高品質で純度の高い鉄鉱石が得られます。

DRIは、従来の高炉法(blast furnace)に比べて、二酸化炭素(CO2)排出量が低く、酸素を使用しないエネルギー効率の高い方法です。また、DRIは独立して運転できるモジュール化が可能であり、スケーラビリティが高いため、小規模な設備から大規模な設備までさまざまな規模で運用されています。

DRIは製鉄業界において、鋼鉄生産に使用される鉄の供給源として重要な役割を果たしており、環境に配慮した持続可能な製鉄プロセスとして注目を集めています。


DRI製造プロセスの種類 — 天然ガス系 vs 水素系

プロセス 還元剤 代表技術 CO₂排出量(概算) 状況
天然ガス系DRI(NGDRI) 天然ガス改質H₂+CO混合ガス Midrex法(シャフト炉)、HYL/Energiron法 約0.6〜0.9 t-CO₂/t-DRI 商業規模で最も普及。世界DRI生産の90%以上
グリーン水素DRI(H₂-DRI) 再エネ電力由来グリーン水素(H₂) HYBRIT(SSAB/LKAB/Vattenfall)、Boston Metal ほぼゼロ(製鉄工程から) 実証・FEED段階。商業化は2026〜2030年代
石炭系DRI(CDRI) 石炭・コークス ロータリーキルン法(インド主流) 1.5〜2.0 t-CO₂/t-DRI 環境負荷大。天然ガス系・水素系への移行が進む

高炉BF-BOF vs DRI-EAF — CO₂排出量と経済性比較

製鉄ルート CO₂排出量(粗鋼1tあたり) 主な原料 スクラップ使用率 製品品質
BF-BOF(高炉転炉) 1.8〜2.1 t-CO₂/t-粗鋼 鉄鉱石+石炭(コークス) 低(20〜30%) 高品質(自動車鋼板等)
DRI-EAF(天然ガスDRI+電炉) 0.7〜1.1 t-CO₂/t-粗鋼 鉄鉱石(DR-Grade)+天然ガス 中(30〜50%) 高品質対応可(不純物が少ないDRI原料)
H₂-DRI-EAF(水素DRI+電炉) 0.0〜0.2 t-CO₂/t-粗鋼(再エネ電力使用時) 鉄鉱石(DR-Grade)+グリーンH₂ 中(30〜50%) 高品質対応可
Scrap-EAF(スクラップ電炉) 0.4〜0.6 t-CO₂/t-粗鋼 廃鉄スクラップ 高(80〜100%) 不純物制限あり(トランプ元素問題)

CBAM(炭素国境調整)とDRI・グリーンスチールの関係

  • CBAMの影響:EUは2026年から鉄鋼製品のCBAM本格適用。BF-BOFルートの高CO₂鉄鋼輸出にはEUA(EU排出枠)相当の炭素コストが課される(EUA価格×排出量)。DRI-EAFは排出量が少ないためCBAMコストが低くなり、競争優位になる可能性。
  • DR-Grade鉄鉱石の重要性:DRIには鉄分65%以上の高品位鉄鉱石(DR-Grade Pellets)が必要。通常の高炉用鉄鉱石(62%程度)より高価で供給量も限られる。日本の製鉄大手がオーストラリア・ブラジル鉱山と長期契約を締結する動きがある。

日本製鉄大手のDRI転換ロードマップ

企業 目標・計画 主な取り組み
日本製鉄 2050年カーボンニュートラル。2030年に高炉1基をDRI-EAF転換検討 HYBRITへの参画・水素DRI実証(東日本製鉄所君津)
JFEスチール 2050年カーボンニュートラル。2030年までにCO₂30%削減 COURSE50(水素活用高炉改善)・電炉展開計画
神戸製鋼 2050年カーボンニュートラル Midrex技術保有(DRIシャフト炉の世界最大シェア)。自社技術のH₂転換を研究

DRI操業に必要なエネルギーと電力インフラの読み方

水素還元製鉄の議論では「グリーン水素があればCO₂はゼロになる」と語られがちだが、実務で効いてくるのは水素そのものよりも、その手前にある電力の量と価格である。

粗鋼1トンをH₂-DRI-EAFで製造する場合、還元に必要な水素は概ね50〜60kg-H₂/t程度とされる。水電解の効率を1kg-H₂あたり50〜55kWhと置くと、還元工程だけで2,500〜3,300kWh/t-粗鋼の電力が必要になる。これに電炉での溶解に要する電力(一般に500〜700kWh/t)とペレット加熱・圧縮などの補機動力が加わるため、合計では3,500〜4,000kWh/t-粗鋼規模となる試算が成り立つ。

この数値が意味するところは大きい。年産500万トンの製鉄所をH₂-DRI-EAFで置き換えると、必要電力は年間175〜200億kWh規模に達する。日本の年間発電量が概ね1兆kWh弱であることを踏まえると、製鉄所1拠点で国内総発電量の2%前後を消費する計算になる。高炉を持つ拠点が国内に複数ある以上、鉄鋼業の水素還元化は「製鉄所の設備投資」ではなく「電力システム全体の設計問題」として扱わざるを得ない。

項目 概算値(試算) 前提
還元用水素原単位 50〜60 kg-H₂/t-粗鋼 酸化鉄の還元に要する化学量論量+実操業のロス
水電解の電力原単位 50〜55 kWh/kg-H₂ アルカリ型・PEM型の現行商用機の効率
還元工程の電力 2,500〜3,300 kWh/t-粗鋼 上記2項の積
電炉溶解の電力 500〜700 kWh/t-粗鋼 DRI装入率・スクラップ配合により変動
合計 3,500〜4,000 kWh/t-粗鋼 補機・加熱を含む概算

ここから導かれる実務上の含意は、水素の調達契約よりも先に、系統接続の容量確保と電源の長期契約(コーポレートPPA)を押さえた企業が有利になるということである。系統の増強には設計・許認可・工事を含めて10年規模の時間がかかることが多く、2030年代前半の商業化を狙うなら、逆算した着手時期はすでに現在に重なる。国際エネルギー機関(IEA)も鉄鋼分野の移行シナリオにおいて、電力インフラの整備速度が製鉄設備の更新速度の制約条件になると繰り返し指摘している。

電炉転換で最初に詰まるのは「原料」である — DR-Grade鉄鉱石とスクラップ品位

DRI-EAFへの転換を検討する企業が直面する最初の壁は、還元技術でも電力でもなく、原料の確保である。

DRIのシャフト炉は、高炉と違ってスラグを大量に排出して不純物を分離する仕組みを持たない。原料に含まれる脈石(シリカ・アルミナなどの酸化物)はそのまま製品DRIに残り、後段の電炉で溶解する際にスラグ量とエネルギー消費を押し上げる。このため、DRI用ペレットには鉄分67%前後、脈石分3%未満という高い品位が求められる。高炉用の焼結鉱・ペレットが鉄分62〜64%程度で成立するのとは、要求水準が一段違う。

世界の鉄鉱石生産のうちDR-Grade要件を満たす量は限られており、供給の伸びは製鉄各社の転換計画の合計に追いついていないとする分析が複数の業界団体から出ている。仮に世界の高炉の相当部分がDRI-EAFへ移行すれば、DR-Gradeペレットの需給は逼迫し、高炉用鉄鉱石との価格差(DRプレミアム)が拡大する方向に動く。すでにブラジル・スウェーデン・カナダなど高品位鉱を産出する地域の鉱山に、鉄鋼各社の出資・長期引取契約が集中し始めている。

もう一つの原料制約がスクラップ側のトランプ元素である。銅・錫・ニッケルなどは鉄と一緒に溶けるが、精錬工程で除去できない。自動車の電装化が進むほど廃車由来スクラップの銅含有率は上昇し、これが自動車用外板のような高級鋼への使用を難しくする。DRIはこの点で「希釈材」として機能する。不純物をほとんど含まないDRIをスクラップに配合することでトランプ元素濃度を下げ、電炉でも高級鋼を製造できるようにするという役割である。

原料 鉄分 主な制約 調達上の論点
DR-Gradeペレット 67%前後 供給量が限定的 鉱山との長期契約・出資の確保
高炉用ペレット・焼結鉱 62〜64% DRI炉には不適 既存契約の転換可否
廃車・建設スクラップ — 銅などのトランプ元素 選別・解体工程への投資
HBI(熱間成型DRI) 90%以上(金属鉄) 輸送・保管が可能 海外の安価な再エネ地域からの輸入

表の最下段にあるHBI(Hot Briquetted Iron)は、DRIを熱間で成型して再酸化しにくくしたもので、船舶輸送が可能である。これが意味するのは、還元工程と溶解工程を地理的に切り離せるということだ。太陽光・風力が安価な中東・豪州・南米でグリーン水素とHBIを製造し、それを日本の電炉に運んで溶解する——という分業が現実的な選択肢として浮上している。日本のように再エネ適地が限られ、系統増強に時間がかかる国にとって、国内で水素をつくることに固執しない設計は合理的でありうる。ただしこの場合、CO₂削減量の計上主体がどちらの国になるのか、輸入HBIの内包排出量をどう証明するのかという、制度側の論点が残る。

排出量の「証明」をどう設計するか — 基準の乱立と企業の実務

DRI-EAFで低排出の鉄をつくっても、それを買い手や規制当局に信用される形で示せなければ、投資は回収できない。ここが脱炭素製鉄の収益化における実質的なボトルネックである。

問題は、「グリーンスチール」を定義する基準が一つに収束していないことにある。ResponsibleSteel(国際的なマルチステークホルダー認証)、世界鉄鋼協会(worldsteel)のClimate Action Programme、国際エネルギー機関が整理した排出強度の段階区分、そしてEUのCBAMが求める内包排出量の算定規則は、それぞれ想定する境界(スコープ)も、スクラップ配合の扱いも、閾値の切り方も異なる。同じ製品が、ある基準では「準拠」、別の基準では「未達」となる事態が起こりうる。

実務で特に争点になるのが次の3点である。

第一に、算定境界をどこに引くか。 製鉄所内の直接排出(スコープ1)だけを見るのか、購入電力(スコープ2)を含めるのか、原料の採掘・輸送や還元剤製造(スコープ3上流)まで遡るのか。H₂-DRIは製鉄所の煙突からはほとんどCO₂を出さないが、水素製造に系統電力を使えば排出は電力側に移るだけである。境界の引き方次第で、同じ操業が「ほぼゼロ」にも「高炉並み」にもなる。

第二に、スクラップ配合の扱い。 スクラップは既存の鉄を再利用しているため、製造時の排出は低く出る。しかし世界のスクラップ量は有限であり、スクラップ多消費の電炉が増えても世界全体の排出は比例して減らない。このため、スクラップ配合率で排出強度を補正する(配合率が高いほど閾値を厳しくする)方式を採る基準と、採らない基準が並存している。

第三に、購入証書(グリーン電力証書・水素証書)を排出量の控除に使えるか。 使えるとすれば、実際の電源構成を変えずに帳簿上の排出量だけを下げることが可能になる。時間単位・地域単位でのマッチングを要求するかどうかが、基準ごとの厳格さの分かれ目になっている。

日本企業にとっての実務的な備えは、どの基準が最終的に主流になるかを当てにいくことではなく、どの基準にも組み替えられる粒度で一次データを持っておくことである。具体的には、電力の調達源別・時間帯別の使用量、還元剤の種類と使用量、原料ロット別の産地と輸送距離、スクラップの配合率と分析値を、製品ロットに紐づけて記録する体制である。この記録がなければ、後から遡って算定し直すことはできない。逆にこれがあれば、CBAMの申告にも、顧客からのグリーン調達要件にも、金融機関のトランジション評価にも、同じデータから答えを出せる。

鉄鋼を調達する側の企業——自動車、建設、機械、造船——にとっても同じことが言える。CBAMが2026年から本格適用されるということは、欧州向けに製品を輸出する日本企業が、自社が使う鋼材の内包排出量を説明する必要に直面するということである。鋼材の調達仕様書に排出強度の記載欄を設け、サプライヤーに一次データの提出を求める運用を先に整えた企業が、制度の本格運用時に慌てずに済む。

投資判断のタイミング — 高炉の改修周期と設備の寿命

もう一つ、経営判断の観点から見落とされやすいのが時間軸の非対称性である。

高炉は概ね15〜20年ごとに炉体の大規模改修(いわゆる改修工事)が必要になり、その1回あたりの投資額は数百億円規模とされる。この改修を実施すれば、その炉はさらに15〜20年稼働することが前提となる。つまり、2030年前後に改修時期を迎える高炉について「改修するか、DRI-EAFへ転換するか」を判断すると、その決定は2045〜2050年まで効力を持つ。2050年カーボンニュートラルを掲げる以上、2030年前後の改修判断は実質的に最後の分岐点になる。

判断のタイミング 選択肢 拘束される期間 2050年時点の姿
改修期に高炉を更新 従来ルート継続 2045〜2050年頃まで CCUS等の追加対策が必須
改修期に転換 DRI-EAF等へ移行 新設備の寿命による 低排出ルートが確立
判断を先送り 小規模補修で延命 数年単位 選択肢が狭まる

この構造は、投資判断が「技術が十分に成熟してから」では間に合わないことを示している。設備更新のタイミングは技術の成熟を待ってくれない。そのため各社は、全面転換ではなく、既存高炉の一部を電炉に置き換える、DRIを段階的に既存プロセスへ導入する、といった中間的な移行経路を設計している。GX経済移行債をはじめとする公的支援の枠組みが、この移行期の投資リスクをどこまで引き受けるかが、判断のタイミングを前倒しできるかどうかを左右する。

サプライヤーや関連産業に身を置く企業にとっては、この時間軸が事業機会の窓でもある。電炉の電極、耐火物、集塵設備、水電解装置、系統連系設備、そして排出量算定の仕組みまで、転換に伴って必要になるものは広い。どの製鉄所がいつ改修期を迎えるかは公開情報から相当程度推定でき、その手前2〜3年が提案の適期になる。

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