分析記事 制度・ルール

SHK制度(温対法の算定・報告・公表)の実務 — 年間の流れと、GHGプロトコルとの数字の違い

(本稿の情報は2026年10月時点)

この記事の結論

  • SHK 制度の報告値と GHG プロトコルに基づく開示値は、報告単位・排出係数・調整後排出量の扱いが制度上異なるため、一致しないのが正常である。
  • 実務の正解は両者を一致させることではなく、差異の発生源を5つに固定した差異説明表を毎年同じ様式で更新することだ。
  • 非化石証書やクレジットは手段ごとに効く数字が違うため、調達契約の前に効果先を仕様化しないと、開示上は減って制度上は減らない事態になる。

特定排出者の算定担当者が毎年夏に直面する問いは、ほぼ同じ形をしている。温対法の定期報告書に書いた排出量と、同じ年度の統合報告書に載せた Scope 1・2 の合計が一致しない。経理部門からは「どちらが正しいのか」と聞かれ、IR 部門経由で投資家からは「なぜ数字が二つあるのか」と聞かれる。保証機関による限定的保証の手続のなかでも同じ質問が来る。

一致させようとする発想が、そもそも間違っている。二つの数字は別々の目的のために設計された別々の計算であり、設計意図が違う以上、同じ値になることのほうが偶然だ。温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(以下 SHK 制度)は、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づいて特定排出者に義務づけられた報告であり、国が国内の排出実態を把握し集計・公表するために算定省令で算定方法を固定している。GHG プロトコル Corporate Standard は、投資家をはじめとする利害関係者に企業グループの事業実態を説明するための自主的な算定基準であり、組織境界の考え方も電力の扱いも、企業の選択と開示の一貫性に委ねられている部分が大きい。

やるべきことは、差異をなくす作業ではない。差異の構造を固定し、毎年数字だけを入れ替えれば更新が終わる説明資料をつくる作業である。

二つの数字が並ぶ日 — 提出値と開示値はなぜ必然的にずれるのか

前提として、誰が報告義務を負うのかを押さえておきたい。SHK 制度の裾切りは省エネ法の枠組みと連動しており、報告単位も二層になっている。

表1: 報告義務の対象と裾切り

区分 報告義務が生じる水準 報告の単位
特定事業所排出者(エネルギー起源CO2) 省エネ法の特定事業者・特定連鎖化事業者に該当する水準(エネルギー使用量が原油換算1,500kL/年以上) 事業者単位で算定し、あわせて事業所ごとの排出量も報告
特定事業所排出者(エネルギー起源CO2以外の温室効果ガス) いずれかのガスの排出量が3,000t-CO2以上で、かつ事業者全体で常時使用する従業員数が21人以上 同上
特定輸送排出者 省エネ法の特定貨物・特定旅客・特定航空輸送事業者および特定荷主に該当する保有規模等(トラック200台以上などの要件) 事業者単位

出典:環境省・経済産業省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」算定・報告マニュアルの規定をもとに Climate tech news(CTJPN)編集部が整理(該当年度版で要確認)

ここで混乱の種になるのが報告単位の二層構造である。算定・報告は事業者単位で行い、そのうえで特定事業所排出者は事業所ごとの排出量も書く。「事業所単位の制度」と理解していると、海外子会社や非エネルギー系の国内子会社をどう扱うかの判断が毎年ぶれる。原油換算1,500kL/年の裾切りに近い事業者は、設備の新設や生産量の変動で対象から外れる年が出るため、裾切りの判定自体を年次作業として設計しておくのが合理的だ。

そのうえで、両者の設計思想の差を4つの軸で並べると、ずれが構造的であることが見えてくる。

表2: 提出値と開示値の4軸比較

軸 SHK制度(温対法 定期報告) GHGプロトコル準拠の開示値
目的 法令上の報告義務の履行、国による排出実態の集計・公表 投資家・取引先への事業実態の説明、削減目標の進捗管理
報告範囲 国内。事業者単位で算定し、事業所ごとの排出量も報告 組織境界は支配力基準または出資比率基準を企業が選択。海外子会社を含む
排出係数 算定省令・告示で定める係数。電力は電気事業者別排出係数(基礎/調整後)を使用 Scope 2 はロケーション基準とマーケット基準の両方を開示。燃料係数も国際的なデータベースの選択余地がある
検証 提出先の所管省庁による記載事項の確認。保証機関による第三者保証は制度上の必須要件ではない 限定的保証・合理的保証を任意または他制度の要請で取得

出典:環境省・経済産業省「算定・報告マニュアル」および GHG プロトコル Corporate Standard・Scope 2 Guidance の規定をもとに Climate tech news(CTJPN)編集部が整理

4軸のうち、目的以外の3つがすべて「数字を動かす」軸である点が要点だ。目的が違えば検証の水準が違い、検証の水準が違えば許容される係数の幅が違う。差が出ないほうがおかしい。

年間の実務カレンダー — 誰が何を、どの順で確定させるか

SHK 制度の年間スケジュールは、原則として毎年7月末日とされる提出期限から逆算すると窮屈に見える(年度ごとの期限は所管省庁の提出案内で確認したい)。実際のボトルネックは提出期限ではなく、電気事業者別排出係数の公表である。係数が公表されるまで電力由来の排出量は確定しない。確定しないまま社内承認を取り、公表後に数字が動いて承認をやり直す——これが典型的な工数の浪費だ。係数の公表時期は年度によって異なるが、順序は変わらない。係数が公表され、そのあとに提出期限が来る。

表3: 年間実務カレンダー

時期 主な作業 確定するもの 外部依存 社内の承認者
4〜5月 前年度の活動量データ締め、事業所の新設・廃止・譲渡の反映、裾切り判定 活動量(燃料・電力使用量)、事業所リスト、報告義務の有無 子会社・テナントからのデータ回収 各事業所長、環境管理部門長
5〜6月 燃料・非電力由来の排出量算定、前年度との差分要因の下書き Scope 1 相当の排出量 なし(省令の係数は既知) 環境管理部門長
係数公表後(公表時期は年度により異なる) 公表された電気事業者別排出係数で電力由来を計算 Scope 2 相当(基礎排出量)、調整後排出量 環境省・経済産業省による係数の公表 環境管理部門長
係数確定後〜提出期限 省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)への入力、社内決裁 提出値の全体 EEGS の稼働状況 役員(管掌役員・CSO)
提出期限(原則7月末日) 温対法・省エネ法の定期報告の提出 提出完了 提出先の所管省庁 —
提出直後〜年末 開示値への橋渡し、差異説明表の更新、保証対応 統合報告書・CDP 回答の Scope 1・2 保証機関のスケジュール 経理部門、IR 部門
翌1〜3月 国による集計・公表の確認、翌年度のデータ回収様式の改訂 翌年度の運用設計 環境省・経済産業省の公表時期 環境管理部門長

出典:制度上の期限は環境省・経済産業省の提出案内および算定・報告マニュアル、時期区分と担当の割り付けは Climate tech news(CTJPN)編集部整理

このカレンダーから読み取るべき判断は一つである。社内締切は提出期限からではなく、係数公表日から逆算して置く。係数が出る前に確定できる作業——活動量の確定、事業所リストの更新、前年度差分の説明文の下書き——を5月までに終わらせておけば、公表後に残るのは掛け算と最終承認だけになる。この前倒しが、担当者が時間を作れる唯一の方法だ。活動量の回収が6月にずれ込む組織は、毎年同じ徹夜をする。

差異の発生源を5つに分解する

差異説明表の設計で最も効くのは、行の構造を一度決めたら毎年変えないことである。構造を毎年作り直す組織は、毎年ゼロから説明を組み立てることになる。差異の発生源は、実務上おおむね5つに収斂する。

表4: 差異要因の5分解

要因 SHK制度での扱い GHGプロトコルでの扱い 開示値から見た差の符号 毎年変動するか
電力の排出係数 電気事業者別排出係数(基礎/調整後)を使用 ロケーション基準(系統平均)とマーケット基準(契約反映)の両方 電源構成と契約により増減 する(係数は毎年改定)
報告範囲 国内。事業者単位+事業所別の報告 支配力基準または出資比率基準で海外子会社・持分会社を含みうる 開示値のほうが大きいことが多い 組織再編があれば変動
対象ガスと算定方法 算定省令で定める算定方法・係数に限定 国際的に認められた複数の算定方法から選択可能 選択次第で増減 あまりしない
調整後排出量 証書・国内認証排出削減量の反映が制度の手続要件に沿って認められる マーケット基準 Scope 2 とクレジットの扱いが別建て 調達量に応じて開示値が小さくなる場合がある する(調達量に連動)
年度の切り方 年度(4月〜翌3月)が基本 グループの決算期に合わせる場合がある(12月決算等) 決算期次第 決算期変更がなければしない

出典:環境省・経済産業省「算定・報告マニュアル」および GHG プロトコル各基準の規定をもとに Climate tech news(CTJPN)編集部が整理

この5行を固定すると、翌年の作業は各セルの数値を差し替えるだけになる。実務の負荷を決めるのは差異の大きさではなく、差異を説明する枠組みを毎年作り直しているかどうかだ。

5つのうち、担当者の裁量で縮められるのは算定方法の選択だけである。係数と調整後排出量は制度と調達の帰結であり、報告範囲は組織の形そのもの、年度の切り方は決算期の問題で算定部門の管轄外にある。差異の大半は「縮める対象」ではなく「説明する対象」であり、この切り分けができていない組織ほど、縮まらない差を縮めようとして工数を失う。

調整後排出量とマーケット基準Scope 2 — 証書・クレジットの境界

再エネ調達の意思決定で最も事故が起きやすいのは、「どの数字が下がるのか」を確認しないまま契約を結ぶケースだ。非化石証書、J-クレジット、コーポレート PPA は、SHK 制度側の調整後排出量と GHG プロトコル側のマーケット基準 Scope 2 とで、反映の位置づけが異なる。結果として「統合報告書では排出量が減ったのに、温対法の報告では減っていない」という状態が生じ、社内で説明がつかなくなる。

表5: 調達手段別の「効く数字」マトリクス

調達手段 SHK 基礎排出量 SHK 調整後排出量 Scope 2 ロケーション基準 Scope 2 マーケット基準 留意点
通常の系統電力(標準メニュー) 電気事業者別の基礎係数を適用 調整後係数を適用 系統平均係数を適用 事業者のメニュー別係数を適用 出発点。ここからの差分で各手段を評価する
小売電気事業者の再エネメニュー 原則として下がらない(基礎係数は事業者別に算定される) メニューの調整後係数により下がりうる 下がらない 下がる 証書の種別と属性情報の付与状況を契約前に確認
非化石証書の購入(証書単独) 下がらない 無効化・移転の手続を自社名義で完了していれば制度の定めに沿って反映 下がらない 下がる トラッキング付きか否かで国際的な開示での受容性が変わる
コーポレート PPA(オフサイト・フィジカル) 下がらない 証書が付帯し手続要件を満たす場合に反映 下がらない 下がる 環境価値の帰属が契約書で自社に来ているかが分岐点
自家消費型の太陽光(オンサイト) 下がる(購入電力量そのものが減る) 下がる 下がる 下がる 唯一、全系統の数字に効く
J-クレジット等の国内認証排出削減量 下がらない 無効化・移転の手続を経たものが制度の定めに沿って反映 下がらない Scope 2 からは控除せず別建てで報告 GHG プロトコル上はオフセットをインベントリから差し引かない

出典:制度上の反映関係は環境省・経済産業省「算定・報告マニュアル」、Scope 2 の扱いは GHG プロトコル Scope 2 Guidance。手段別の整理は Climate tech news(CTJPN)編集部

反映の可否を分けるのは、証書やクレジットの名目ではなく手続である。無効化または移転が自社名義で、対象年度に対応する形で完了しているかどうか。この一点が調整後排出量に効くかどうかを決める。手続要件の細目と記載様式は該当年度の算定・報告マニュアルで確認するのが安全で、契約書に「環境価値の帰属」と「無効化手続の実施主体」を明記しないまま進めた案件は、報告段階で反映できないことが判明する。

表から導かれる判断は明快だ。全系統の数字を下げたいなら自家消費型の自家発電が最も確実で、それ以外の手段は基本的に「係数を置き換える」ものに過ぎない。基礎排出量を下げる効果は、電力使用量そのものを減らすか、オンサイトで自家消費するかのいずれかでしか得られない。省エネ投資が依然として最も堅い理由はここにある。

調達契約を結ぶ段階で、どの数字を下げる目的かを仕様に書き込むのが合理的だ。温対法の調整後排出量の削減なのか、CDP スコアに効くマーケット基準 Scope 2 の削減なのか、サプライヤーからの要請への対応なのかで、選ぶべき手段も支払ってよい単価も変わる。調達部門に渡す資料が「再エネ調達の選択肢一覧」ではなく「効く数字の一覧」になっている企業は、この事故を起こさない。

差異説明表を毎年つくる運用

差異説明表は、提出値を起点として開示値に至るまでの増減を一列に並べたブリッジ形式にするのが扱いやすい。温対法の提出値(基礎排出量)を出発点に、電力係数の置き換えによる増減、海外子会社の加算、算定方法の差、証書・クレジットの反映、年度ずれの調整を順に積み上げ、最後に開示値へ着地させる。各行には t-CO2 の増減と、その根拠となる資料名を併記しておく。

この様式を一度作れば、翌年は数字の差し替えで済む。より重要なのは、保証機関・投資家・社内経理のいずれから質問が来ても、同じ一枚を見せればよい状態になることだ。質問者ごとに説明資料を作り分けている組織は、説明の整合が崩れる危険を毎年抱えている。

運用上の要点は三つに整理できる。表4の5行を固定すること、各行の根拠資料の保管場所を表の中に明記すること、作成時期を提出直後に固定して秋以降の開示作業と同時並行にしないこと。提出が終わった直後、記憶が新しいうちに差異を整理しておけば、年末の開示作業が軽くなる。

課題・反論・代替視点

「二つの数字を併存させること自体が投資家の混乱を招くのではないか」という反論はもっともだ。開示の受け手からすれば、同じ企業の同じ年度の排出量が複数存在する状況は理解しづらい。注記を読み飛ばした投資家やデータベンダーが、制度報告値と開示値を取り違えて集計するケースも起こりうる。答えは、どちらか一方に統一することではなく、開示値を主、制度報告値を注記として位置づけ、参照関係を明示することだ。GHG プロトコル準拠の開示値を企業の公式な排出量として前面に出し、温対法の提出値は「法令に基づく報告値」として別枠で示す構成が、現時点では最も混乱が少ない。

より根本的な反論として、「将来的に制度が収斂するなら、いま差異管理に投資するのは無駄ではないか」という見方がある。サステナビリティ開示基準の国際的な統一が進み、国内でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基準適用が段階的に広がるなかで、算定基準の収斂圧力は強まっている。ただし SHK 制度は国内の排出実態把握という行政目的を持つ制度であり、投資家向け開示基準と目的が異なる以上、完全な一元化は想定しにくい。制度が動くからこそ、差異の構造を文書化しておいた組織のほうが変更への追随が速い。

差異説明表そのものの限界も認めておきたい。この表は差異を説明するが、どちらの数字が実態に近いかには答えない。海外子会社を含む開示値のほうが企業グループの物理的な排出実態に近いという見方は妥当だが、マーケット基準 Scope 2 は契約上の帰属を反映した数字であって、送電網を流れた電気の物理的性質を表しているわけではない。実態への近さという基準で言えば、ロケーション基準こそが物理的実態を示している。差異説明表は、制度報告値・マーケット基準開示値・ロケーション基準開示値の三者が異なる問いに答えていることを示すだけで、優劣を決めるものではない。

ここまでの議論は特定排出者、すなわち原油換算1,500kL/年の裾切りを超える規模の事業者を前提にしている。裾切りに近い企業や、国内事業所が少なく海外比率が高い企業では、二つの数字の差が極端に大きくなり、ブリッジ形式の説明が機能しにくい。その場合は差異の積み上げではなく、対象範囲の違いを先に図示してから数値に入る構成のほうが伝わる。

日本市場・日本企業への示唆

海外企業の実務をそのまま持ち込めない理由は、日本の電力市場の構造にある。電気事業者別排出係数が環境省・経済産業省から公表され、それを制度報告で用いる仕組みは、電力の排出係数を企業が選べる国の実務とは前提が違う(事業者別係数が得られない場合の代替係数の扱いは、算定・報告マニュアルの規定による)。欧米企業の「マーケット基準一本で管理する」運用を輸入すると、温対法の調整後排出量が管理対象から抜け落ちる。排出量取引の側も管理対象に加わった。経済産業省の公表資料によれば、GX-ETS は 2026年度から直接排出量が年10万t-CO2以上の事業者を対象に参加を義務づける段階に入っており、「希望すれば参加する枠組み」という理解で設計された社内体制は、すでに現実と合っていない。

制度報告のスケジュールが係数公表に縛られる以上、開示のタイムラインを制度報告の後ろに置く設計が合理的だ。係数が公表されてから提出し、その直後に差異を整理して秋以降の開示作業に入る順序であれば、同じデータを二度検証せずに済む。開示を先に固めてから制度報告に取りかかる企業は、係数確定後に開示値との整合を取り直す作業が発生する。

サプライチェーンからの要請への対応では、取引先が求めているのがどちらの数字かを確認する運用を定着させたい。国内の大手企業が Scope 3 算定のために一次データを求める場合、求められているのは GHG プロトコル準拠の数字であり、温対法の提出値をそのまま渡すと報告範囲が合わない。この取り違えは現場レベルで頻発する。

組織設計の問題も残る。制度報告を環境管理部門が、開示を経理・IR 部門が担当している企業では、差異説明表の作成責任者が宙に浮きやすい。どちらの部門が一次作成を担うかを明文化し、もう一方がレビューする体制にしておくのが現実的だ。保証の要否についても整理しておきたい。SSBJ 基準そのものが保証取得を求めているわけではなく、サステナビリティ情報に対する保証の制度化は金融庁の開示制度側で設計が進められている論点である。基準の適用と保証の導入を同じものとして社内に説明すると、準備のスケジュールを誤る。

まとめ

SHK 制度の提出値と GHG プロトコルに基づく開示値が一致しないことは、算定の失敗ではなく制度設計の帰結である。国内の排出実態を行政が把握するための報告と、企業グループの事業実態を投資家に説明するための開示は、報告範囲も係数も検証水準も異なる設計になっている。この前提を社内で共有できていない組織は、毎年「どちらが正しいのか」という答えの出ない議論に時間を費やすことになる。

投資すべきなのは、差異を縮める努力ではなく、差異を説明する枠組みの固定化だ。電力係数、報告範囲、算定方法、調整後排出量、年度の切り方という5つの発生源を行として固定した差異説明表を一度作り、毎年数値だけを差し替える。作成時期を提出直後に置けば、記憶が新しいうちに整理が終わり、秋以降の開示作業と保証対応が軽くなる。再エネ調達の場面では、手段ごとに効く数字が違うことを調達部門と共有し、契約前に目的と無効化手続の実施主体を仕様化しておく。これだけで、開示では減ったが制度上は減っていないという事故は防げる。

算定担当者に求められる能力は、正しい一つの数字を出すことから、複数の数字の関係を説明できることへ移りつつある。金融庁が示した適用スケジュールでは、2027年3月期から時価総額の大きいプライム上場企業への SSBJ 基準の適用が始まり、以降、対象が段階的に広がっていく。この段階適用が一巡するまでの数年が、差異説明を標準装備した企業と、毎年ゼロから説明を組み立てる企業を分ける分水嶺になる。保証取得の難易度と投資家からの信頼の厚みは、その準備の差にそのまま乗る。


主要出典

  • 環境省・経済産業省「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」算定・報告マニュアル(該当年度版。算定方法・報告義務の裾切り・調整後排出量の算定手続) — https://www.env.go.jp/
  • 環境省・経済産業省「電気事業者別排出係数」(基礎排出係数・調整後排出係数の一覧。該当年度の公表分) — https://www.env.go.jp/
  • 地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)および温室効果ガス算定排出量の算定に関する命令(算定省令) — e-Gov 法令検索(総務省)収録の条文
  • 経済産業省・環境省「省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)」利用案内 — https://www.meti.go.jp/
  • GHG Protocol「Corporate Accounting and Reporting Standard」Revised Edition(2004年。2026年10月時点で改訂プロセスが進行中) — https://ghgprotocol.org/
  • GHG Protocol「GHG Protocol Scope 2 Guidance」(2015年。ロケーション基準・マーケット基準の定義と dual reporting の要求) — https://ghgprotocol.org/
  • サステナビリティ基準委員会(SSBJ)サステナビリティ開示基準(適用基準・一般開示基準・気候関連開示基準の3本) — https://www.ssb-j.jp/
  • 金融庁 サステナビリティ情報の開示および保証に関する制度設計の公表資料(適用スケジュールを含む) — https://www.fsa.go.jp/
  • 経済産業省「GXリーグ」および GX-ETS に関する公表資料(対象事業者・参加義務の段階) — https://gx-league.go.jp/
  • J-クレジット制度 制度文書およびクレジットの活用・無効化手続に関する資料 — https://japancredit.go.jp/
  • CDP 気候変動質問書およびスコアリング方法論(2026年質問書) — https://www.cdp.net/

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