はじめに:「再エネ電力を買った」だけではScope 2はゼロにならない
企業がScope 2(エネルギー起源の間接排出)をゼロとして報告するためには、単に「再エネ電力を購入した」というだけでは不十分なケースがある。GHGプロトコルのScope 2 Guidanceや、RE100の技術仕様書では、使用できる再エネ証書の種類・要件が細かく規定されており、証書の選択を誤ると「市場基準法」でのScope 2ゼロ計上が認められない場合がある。
Scope 2報告の方法
GHGプロトコルScope 2 Guidanceでは、Scope 2の算定方法として2つのアプローチを定めている。
- ロケーション基準法(Location-based):電力グリッドの平均排出係数を使用。再エネ証書の有無に関わらず、立地する電力系統の平均値で算定する
- 市場基準法(Market-based):電力供給契約や再エネ証書など、市場メカニズムに基づく排出係数を使用。適切な証書を取得することでScope 2をゼロとして計上できる
RE100参加企業やCDP報告では両方の算定値の開示が求められるが、実質的な「再エネ化の証明」は市場基準法の数値で行う。
主な再エネ証書の種類
① 非化石証書(日本)
日本の電力システムにおける再エネ電力の環境価値を証書化したもの。FIT非化石証書(FIT電源由来)と非FIT非化石証書(卒FIT・新規再エネ由来)がある。非FIT非化石証書は「追加性」の観点からRE100での使用がより好ましいとされることがある。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が管理する非化石価値取引市場で調達できる。
② Jクレジット(再エネ由来)
J-クレジット制度の再エネ方法論に基づくクレジット。Scope 2削減への使用可否はGHGプロトコルおよびCDPの最新ガイダンスを確認すること。
③ VPPA(仮想電力購入契約)
再エネ発電事業者と長期の差金決済契約を締結し、発電される電力の環境価値(証書)を取得する。物理的な電力の受け渡しは伴わないが、証書は取得できる。価格ヘッジ効果と証書取得を兼ねた手法として大企業に普及している。
④ グリーン電力証書
民間の認証機関(日本エネルギー経済研究所等)が発行する再エネ証書。GHGプロトコル市場基準法・RE100での使用可否は最新の認定要件を要確認。
⑤ PPAによる再エネ調達(オンサイト・オフサイト)
電力購入契約(PPA)を通じて再エネ電力を直接購入する方法。オンサイトPPA(自社敷地内)またはオフサイトPPA(遠隔地の再エネ設備)がある。PPAを通じた調達は証書と組み合わせることでGHGプロトコル市場基準法に対応できる。
RE100の証書要件
RE100(企業が使用電力の100%を再エネにすることを目指す国際イニシアチブ)では、使用できる再エネ証書の要件を技術仕様書(Technical Criteria)で定めている。主なポイントは以下の通り。
- 証書は消費年と同年度または近接年度に発行されたものを使用すること(ヴィンテージ要件)
- 地理的整合性(消費する電力グリッドと証書の発行電源が同一または関連するグリッドにあること)
- 追加性(新規再エネ設備からの証書が推奨される。FIT補助を受けた既存設備の証書は要件が厳しくなる傾向)
調達の実務ポイント
企業が再エネ証書を調達する際の実務チェックポイントを示す。
- GHGプロトコルScope 2 Guidance市場基準法に対応した証書種類の確認
- RE100参加企業の場合はRE100 Technical Criteriaへの適合確認
- CDPスコアに影響する場合は、CDPのMethodologyで認められた証書種類の確認
- 証書のヴィンテージ・地理的整合性・追加性の確認
- 調達コストと代替手段(PPAなど)のコスト比較
まとめ
再エネ証書は種類によってGHGプロトコル・RE100・CDPへの適用可否が異なる。日本企業にとって最も手軽なのは非化石証書(特に非FIT非化石証書)だが、RE100の追加性要件・地理的整合性要件を満たしているか最新の技術仕様書で確認することが必要だ。証書種類の選択を誤ると「再エネ化」として計上できないリスクがあるため、調達前に報告フレームワークの要件確認を必ず行うこと。
主要再エネ証書の種類と仕様・RE100認定状況の比較
| 証書種別 | 対応地域 | RE100認定 | Scope 2 Market-based対応 | 日本での調達手段・特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 非化石証書(FIT非化石・FIT外非化石) | 日本国内のみ | FIT非化石証書:RE100技術仕様(V8〜)の条件下で認定可(追加性要件等を満たす場合) FIT外非化石:2023年以降に認定手続き整備中 |
○(GHGプロトコルScope 2 Market-based法で使用可) | 日本独自制度(低炭素社会貢献制度)。グリーン電力証書より安価な場合があるが、再エネ属性の追加性議論あり。日本向けの主要選択肢。 |
| グリーン電力証書(GEF) | 日本国内のみ(民間スキーム) | ○(RE100技術仕様に適合) | ○ | 2000年代から存在する国内スキーム。発電事業者・需要家の相対契約。不動産・製造業で導入実績あり。 |
| J-クレジット(再エネ発電分) | 日本国内のみ | △(原則不可。Scope 2目的への流用は制度設計上制限がある) | △(一部例外的に活用されるが、GHGプロトコルの厳格解釈では困難) | Scope 2目的では非推奨。Scope 3オフセットや社内脱炭素目標への活用が主。 |
| GO(Guarantees of Origin) | EU・英国・スイス等欧州 | ○(RE100認定) | ○(GHGプロトコルのMarket-based法で使用可) | 日本からのEU向け輸出企業のScope 2対応。欧州現地法人・工場の調達。日本国内では使用不可(国外の電力網)。 |
| I-REC(国際再生可能エネルギー証書) | アジア・中東・中南米・アフリカ等(新興国・GO未整備地域) | ○(RE100認定) | ○ | タイ・インド・フィリピン等のアジア製造拠点・工場のScope 2対応に有用。日本でも一部事業者が輸入・販売。 |
| REC(Renewable Energy Certificates) | 米国(米国グリッドのみ) | ○(RE100認定) | ○ | 米国拠点のScope 2対応。バンドル型(電力と証書セット)とアンバンドル型がある。価格は$1〜5/MWh(アンバンドル)。 |