分析記事 価格と市場

JCM(二国間クレジット制度)を使った日本企業のアジア展開戦略

はじめに:JCMとは何か

JCM(Joint Crediting Mechanism:二国間クレジット制度)は、日本が相手国政府との二国間協定に基づき、日本企業が相手国で実施した温暖化対策プロジェクトの削減量を双方でクレジットとして計上する制度だ。パリ協定Article 6.2に基づく協力の枠組みとして位置づけられている。2025年8月時点で29か国(要最新確認)との間でJCM協定が締結されており、アジア・アフリカ・中東・南米など幅広い地域で展開されている。

JCMの基本的な仕組み

JCMプロジェクトの流れは以下の通りだ。

  1. 日本企業と相手国のカウンターパートが合同でプロジェクトを実施
  2. 承認された方法論に基づき排出削減量をMRV(測定・報告・検証)
  3. 日本・相手国の合同委員会がクレジット量を承認
  4. クレジットを日本側・相手国側に分配(分配比率はプロジェクト合意による)
  5. 日本企業が取得したクレジットを日本のNDC達成・GX-ETS対応・自主的オフセットに使用

重要な点は、JCMクレジットには「Corresponding Adjustment(対応調整)」が適用される見込みであり、二重計上問題を回避した高品質なクレジットとして扱われる可能性が高いことだ。

対象となる技術・セクター

JCMプロジェクトで実績のある主な技術・セクターは以下の通りだ。

  • 省エネ:高効率ボイラー、インバーター、LED照明、ビル省エネシステム
  • 再生可能エネルギー:太陽光発電、小水力発電、バイオマス発電
  • 廃棄物・水処理:廃棄物発電、汚泥処理、メタン回収
  • 交通:電気バス、ハイブリッド車両
  • 冷媒:高GWP冷媒から低GWP冷媒への転換

日本企業にとってのメリット

クレジット取得コストの優位性
国内での削減に比べ、新興国での同一技術導入は削減コストが低い(削減量あたりのコストが安い)ケースが多い。JCMを通じることで、日本のNDC目標達成やGX-ETS義務履行のためのクレジットをより低コストで取得できる可能性がある。

市場・顧客開拓との組み合わせ
JCMプロジェクトの実施により、相手国での関係構築・実績形成・ブランド認知が進み、現地市場での事業展開の足がかりになるケースがある。「脱炭素支援+事業展開」の複合戦略として機能する。

補助金の活用
環境省のJCM補助金制度により、対象機器の導入費用の一部が補助される場合がある。

JCMプロジェクトの実務上の留意点

JCMを活用する上での実務上の留意点を以下に示す。

  • 方法論の選択と承認:プロジェクトに適用できる承認済み方法論の有無を事前確認すること。方法論がない場合は新規開発が必要となり、期間・費用が増大する
  • 相手国政府・合同委員会との連携:JCMは日本政府と相手国政府の二国間協定に基づくため、承認プロセスに相手国の対応が必要。現地パートナーとの連携が不可欠
  • プロジェクト期間と収益化スケジュール:方法論登録からクレジット発行まで、国内J-クレジットより長期化する場合がある
  • Article 6交渉の影響:パリ協定Article 6の国際ルール(Corresponding Adjustmentを含む)は継続して交渉・整備されており、JCMクレジットの国際的位置づけに影響する可能性がある

JCM活用を検討すべき企業の条件

以下の条件を満たす企業はJCM活用の検討価値が高い。

  • アジア・アフリカ等の新興国に既存または計画中の事業・拠点がある
  • 省エネ・再エネ関連技術・製品を保有している(機器輸出と組み合わせやすい)
  • GX-ETSの対象企業または自主的なネット・ゼロ目標のためにクレジットを必要としている
  • 環境省のJCM補助金サイクルに合わせた投資計画が可能

まとめ

JCMは、日本企業がアジアをはじめとする新興国でプロジェクトを実施し、そこで生まれた排出削減量をカーボンクレジットとして取得できる制度である。獲得したクレジットは国内のNDC達成への充当にとどまらず、GX-ETSへの対応や自主的なオフセットにも活用できるため、海外事業と自社の脱炭素目標を一本の線でつなぐ手段として位置づけられる。

企業にとってのメリットは大きく三つに整理できる。第一に補助金との組み合わせによって初期投資の負担を抑えられること、第二に現地での事業展開そのものと相乗効果を生み、脱炭素対応と事業拡大を同時に進められること、第三に相対的に低コストでクレジットを取得できることである。一方で、実務上の留意点も少なくない。どの方法論を適用するかの判断、相手国政府との合意形成や連携体制の構築、さらにArticle 6交渉の動向がもたらす制度面への影響は、いずれも案件の成否を左右する要素となる。環境省・外務省が公表する最新情報を継続的に確認し、現地パートナーとの関係を築いておくことが欠かせない。

制度の枠組みが整いつつある今、問われるのは個々の企業がJCMを自社の海外戦略にどう組み込むかという設計力である。今後、NDC達成とGX-ETS対応が本格化していくなかで、方法論の適用可否を見極め、相手国政府と現地パートナーを巻き込みながら案件を形にできるかどうか、日本企業のアジア展開の実行力が試される。

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