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水素の「色」とは?グリーン水素・ブルー水素・グレー水素・ピンク水素の製造方法・CO₂排出量・コストの違いを解説

脱炭素社会の実現に向け、注目を集めている水素。実は、製造方法によって様々な色に「色分け」されています。水素は、アメリカを中心に、水素関連のスタートアップが続々と増加しており、クライメイトテックの中でも重要な分野の1つです。

水素が脱炭素、サステナビリティで注目を集める理由

1.温室効果ガスの排出削減:水素は燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出せず、水蒸気として排出されます。つまり、水素を燃料として使用することで、二酸化炭素や他の温室効果ガスの排出を削減することができます。
2.エネルギーの多様化:水素の特徴の一つは、非常に高いエネルギー密度を持ち、様々な用途に利用することができることです。水素を電気に変換したり、直接燃焼させたりして、様々な産業のエネルギー源を置き換えることで、社会全体で排出されている二酸化炭素の最大25%を削減することが可能だといわれています。
3.再生可能エネルギーとの統合:再生可能エネルギーの急速な成長と低コスト化により、グリーン水素の生産がより実現可能になりました。これにより、水素が再生可能エネルギーシステムの一部として統合され、より持続可能なエネルギー体系の実現に寄与することが期待されています。
4.脱炭素化の困難な分野への適用:一部の産業や交通部門では、従来の脱炭素化技術や代替燃料が限定的であり、温室効果ガスの排出を大幅に削減することが難しいとされてきました。しかし、水素を利用することで、これらの分野においても脱炭素化が可能になります。例えば、鉄鋼製造や重量輸送などの分野では、水素を使ったプロセスや燃料としての利用が検討されています。


製造方法で変わる水素の「色」

水素の製造方法にはいくつかの「色」があります。「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の3つが代表的です。
グレー:石油、石炭など様々な化石燃料を使用して作られた水素です。一般的に「グレー水素」と呼ばれ、カーボンキャプチャー(炭素回収)は行われておらず、水素製造時に二酸化炭素を排出します。
ブルー:天然ガスを使用して水素を作り、製造時に排出される二酸化炭素をカーボンキャプチャー(炭素回収)します。「ブルー水素」と呼ばれるこの方法は、カーボンキャプチャとセットになっているので、製造時のCO2排出量を大幅に削減できますが、回収率は技術により異なり(一般的に85〜90%程度)、完全なカーボンニュートラルとはいえません。低炭素水素(low-carbon hydrogen)と位置づけられます。製造コストや製造量などが最も市場の需要に近く、水素供給における主要な役割を担います。
グリーン:太陽光や風力など、再生可能エネルギーから作られた電気を活用し、水を電気分解することで水素を作ります。製造工程で二酸化炭素を排出しないため、クリーンエネルギーとして期待されています。製造コストが現状$3-6/kgと高く、一般に普及させるには$1-2/kg程度に抑える必要があるといわれています。クライメイトテックには、グリーン水素の製造の大規模化、低コスト化を目指すスタートアップが多く含まれています。

上記の3種類が代表的ですが、ピッチブックによると、水素はさらに細かく分類されています。
ターコイズ:ブルー水素に似ていますが、生成時に二酸化炭素の代わりに固体炭素を生成します。
ピンク、赤、紫:核エネルギーを使用して生産されます。欧州委員会は2023年2月に、原子力で生成される水素の一部をEUの再生可能エネルギー目標にカウントすることを認める規則を発表しています。
イエロー:グリーン水素に似ていますが、具体的には太陽光発電を使用します。
ホワイト、ゴールド:天然資源として存在する水素から回収されるもので、地質水素としても知られています。

水素の「色」による分類 — 製造方法・CO₂排出量・コスト比較

色 製造方法 CO₂排出量(kg-CO₂/kg-H₂) コスト(2024年参考) 特徴
グレー水素 天然ガスの水蒸気改質(SMR)。最も一般的。 約8〜12 kg-CO₂/kg-H₂ $1〜2/kg 現在の水素生産の約95%を占める。安価だが最も高排出。
ブルー水素 SMR+CCS(炭素回収・貯留)。排出の85〜95%をCCS。 約1〜4 kg-CO₂/kg-H₂(CCS効率依存) $1.5〜3/kg 「低炭素水素」。グレー水素の移行策として期待。天然ガスメタン漏洩の扱いが議論。
グリーン水素 再エネ電力による水電解(アルカリ・PEM・SOEC) ほぼゼロ(再エネ電力使用時)。電解槽製造のembodied CO₂のみ $3〜8/kg(2024年)。2030年目標:$1〜2/kg 「究極の脱炭素水素」。電解槽コスト低減が最重要課題。日本・欧州が戦略的に推進。
ピンク水素 原子力発電の電力による水電解 ほぼゼロ(原子力由来電力) $2〜5/kg(原子力電力コスト依存) フランス・英国が検討。核廃棄物・事故リスクに対する社会的受容性が課題。
ターコイズ水素 天然ガスのメタン熱分解(CH₄→C+2H₂)。炭素は固体として回収。 ほぼゼロ(固体炭素として隔離) $1〜3/kg(固体炭素の売却でコスト低減も) 副産物の固体炭素(カーボンブラック・炭素繊維)が付加価値素材。商業化は未達(TRL5〜7)。
ゴールド水素(天然水素) 地下の地質プロセスで自然生成。採掘・精製して利用。 ほぼゼロ(採掘・精製工程のみ) $0.5〜2/kg(楽観推定) マリのブーラケブグーで世界初商業採取(2020年代)。賦存量・持続性に不確実性。TRL3〜5。
ブラウン/ブラック水素 石炭・褐炭のガス化(CGS)。最高排出。 約18〜20 kg-CO₂/kg-H₂ $1〜2/kg 石炭価格が安い地域(豪州・中国)で一部使用。GX文脈では廃止方向。

水素の「色」分類が制度上の言葉に置き換わりつつある背景

水素の色による呼び方は、産業界やメディアでの共通語として定着した一方で、制度や取引の場面では使われなくなりつつある。色は製造方法を指す言葉であって、排出量そのものを保証しないためである。同じ「ブルー水素」でも、天然ガスの採掘・輸送段階でのメタン漏洩率やCCSの実際の回収率によって、ライフサイクル排出量は数倍変わり得る。同じ「グリーン水素」でも、電解に使う再生可能エネルギー電力が本当に追加的なものか、系統電力の証書で相殺しているだけかで評価が分かれる。

そのため、国際エネルギー機関(IEA)や国際水素燃料電池パートナーシップ(IPHE)は、色ではなく「排出強度(carbon intensity)」で水素を区分する方式を推奨してきた。EUの再生可能エネルギー指令(RED III)および関連する委任規則では、非生物由来の再生可能燃料(RFNBO)として認められる水素に、化石燃料比較値からの70%削減という条件が課され、さらに電力の追加性・地理的相関・時間的相関という三要件が定められている。日本の水素社会推進法(2024年成立)でも、支援対象となる「低炭素水素」は製造方法ではなく排出量の基準値で定義されており、政府資料では電解水素・改質水素のいずれも同じ基準で判定される設計とされている。

実務上の意味は明確である。「グリーン水素を調達した」という説明は、取引先の脱炭素評価や開示の場面ではほぼ機能しない。求められるのは、どの基準(RED III、米国45V、日本の低炭素水素基準など)に照らして何kg-CO₂e/kg-H₂か、その数値を誰がどう検証したか、という情報である。

製造方法の違いが「使う側のコスト」に効く経路

水素のコストは製造単価だけでは決まらない。需要側が実際に負担する価格は、製造・輸送・貯蔵・充填の各段階の合計である。経済産業省の水素基本戦略(2023年改定)では、水素の供給コスト目標として2030年に30円/Nm³程度、2050年に20円/Nm³程度が示されている。これは1kg当たりに換算すると概ね330円・220円程度であり、既存の化石燃料との価格差を埋めるために値差支援(CfD型の契約)が導入されている。

製造方法の選択が使う側に影響する経路は、主に次の三つである。

経路 内容 実務上の論点
排出強度の違い 同じ用途でも、使う水素の排出強度が異なればScope 1・Scope 3の削減量が変わる 排出強度の証明書が取引先の開示要求に対応できる形式か
供給の安定性 再エネ電力由来は変動性を持ち、稼働率が低いと単価が上がる 年間稼働率の前提と、不足時のバックアップ供給の条件
制度上の適格性 補助・税制・規制対応に使えるかは制度ごとの基準次第 調達先の製造方法が自社の利用する制度の基準を満たすか

特に稼働率の問題は見落とされやすい。電解槽は設備費の償却が単価に直結するため、太陽光のみを電源とした場合の設備利用率(15〜20%程度とされる)では、電力単価がいくら安くても水素単価は下がりにくい。風力との組み合わせや系統接続による稼働率の引き上げが、コスト低減の実際の鍵とされる。原子力由来のピンク水素が議論されるのは、電力の排出強度が低く、かつベースロードとして高稼働率を確保できるという二つの条件を同時に満たすためである。

日本企業が調達・開示の場面で確認すべき項目

水素を調達する立場の企業にとって、色の知識が実務に変わるのは契約条件と開示の二つの局面である。確認すべき項目を整理すると、次のようになる。

確認項目 なぜ必要か 確認の相手・資料
排出強度の数値と算定境界 色だけでは排出量が決まらない。上流のメタン漏洩や電力の扱いで数値が変わる 供給者のライフサイクル評価書、第三者検証報告
準拠した算定ルール 制度ごとに基準が異なるため、他制度への流用ができない場合がある 準拠規格名(ISO 14687、IPHE手法、各国制度名)
証明書の移転方式 物理的な水素と環境価値が分離して取引される場合がある 契約書の環境価値帰属条項
二重計上の防止 同じ削減量が供給者と需要者の双方で主張されると開示が否認される レジストリの登録状況、償却記録
供給の継続性 製造方法によって稼働率・設備更新サイクルが異なる 契約期間、不足時の補填条件

開示の面では、GHGプロトコルのScope 2ガイダンスをめぐる改訂議論と同様に、水素の環境価値の扱いにも未確定な部分が残る。現時点では、調達した水素の排出強度を自社の算定にどう反映するかについて国際的に完全に統一された方法は確立されておらず、企業は準拠したルールと算定の前提を明示する形で開示する実務が多いとされる。

したがって、水素の色は入口の整理としては有用であるが、GX実装の段階に入れば「色」から「数値と検証」へ語彙を切り替える必要がある。測定可能性と証明可能性を伴わない水素調達は、脱炭素の実績として制度や取引先に受け取られない。

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