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[改稿] バイオ燃料の製造方法・コスト構造・CI比較

同じ1リットルの再生可能ディーゼルでも、廃食油由来とバージン植物油由来では市場で受け取れる金額が大きく異なる。差を生むのはCI(カーボンインテンシティ、gCO2e/MJ)という一つの数値だ。製造方法とコスト構造を整理した上で、CIの算定がどのように収益に直結するのか、そしてその収益が制度変更でどれほど揺れるのかを分析する。

なぜCIが「価格」になるのか — バイオ燃料ビジネスの収益方程式

バイオ燃料の売価は、燃料としてのエネルギー価値と環境価値の合算で決まる。単純化したモデル式で書けば「売価 = 燃料価値 + (基準CI − 自社燃料CI)× クレジット単価」であり、後半の環境価値部分は物理量ではなく測定・検証されたCIの関数になる。ここがこのビジネスの核心だ。なお実際のクレジット算定では、電気自動車向け電力などにEER(エネルギー経済比率)を乗じる調整や単位換算が入るため、この式はあくまで構造を示すモデルである。

カリフォルニア州のLCFS(低炭素燃料基準)は、州が定める基準CIを下回った分だけクレジットを発行し、基準を超過する燃料供給者に購入義務を課すことで、CI差分そのものに市場価格を付けている。EUのRED II/III(再生可能エネルギー指令)は化石燃料比のGHG削減率を市場アクセスの条件とし、削減閾値は稼働開始時期で異なる——2021年1月以降に稼働開始した施設は65%以上、それ以前の既設施設は50%または60%だ。国際航空のCORSIAは適格SAFのライフサイクル排出規定値に基づいて削減量を算定する。いずれの制度でも、タンクの中身が物理的に同じでも、算定・検証されたCIが違えば受け取れる金額が変わる。

環境価値変換の7段階でいえば、第1段階(物理的インパクト)が同一でも、第2段階(測定可能性)と第3段階(証明可能性)の巧拙が第5〜6段階(価格形成・収益化)の結果を分ける。バイオ燃料はこの構造が最も鮮明に現れる事業領域だ。

ただし「CIが価格になる」ことは「価格が安定する」ことを意味しない。LCFSクレジット価格は2020年に1トンあたり200ドルを超えたが、再生可能ディーゼルの供給急増によるクレジット余剰で2023〜2025年には40〜75ドル水準まで下落した。5年で約7割の下落である。義務化市場であっても、義務水準の引き上げが供給増に追いつかなければ価格は崩れる。CARB(カリフォルニア大気資源局)は2024年11月に削減目標を引き上げる規則改正を可決しており、価格回復はこの基準強化の執行次第という条件付きの見通しになる。CI差分を収益計画に織り込むなら、クレジット単価の変動レンジを感度分析に含めるのが現実的だ。

バイオ燃料の主要製造経路マップ — 原料×プロセス×製品

製造経路は原料とプロセスの組み合わせで整理できる。糖・でんぷん系の発酵エタノールと植物油のエステル交換(FAME)が第1世代、セルロース系・廃棄物系が第2世代、既存エンジン・既存インフラにそのまま混合できるHVO(水素化植物油)やSAF(持続可能な航空燃料)がドロップイン燃料だ。

経路 主な原料 主製品 技術成熟度 商用化状況
発酵(エタノール) トウモロコシ・サトウキビ エタノール 高(TRL 9) 米・ブラジルで大規模商用
エステル交換(FAME) 植物油・廃食油 バイオディーゼル 高(TRL 9) 世界各地で商用
HEFA(水素化処理) 廃食油・獣脂・植物油 HVO・SAF 高(TRL 9) SAF商用生産の大半を占める
ATJ(アルコール・ジェット) エタノール SAF 中〜高 2024年に初の商用プラント稼働
FT合成(ガス化) 都市ごみ・木質バイオマス SAF・合成軽油 商用初号機段階
セルロース系エタノール 農業残渣 エタノール 商用化は限定的

結論を先に言えば、2020年代後半の収益機会はHEFAに集中する。技術リスクが低く、認証・販路が既に確立しているからだ。ただし原料の廃食油(UCO)・獣脂は国際的な争奪戦にある。EUと米国はいずれも中国からのUCO輸入を急増させてきたが、米国では2025年の45Z税額控除改正で北米産原料への限定が入り、貿易フローの再編が始まった。原料を確保できる事業者とできない事業者の間で収益性の差が開く構図は変わらない。経路選択は技術論ではなく、原料調達可能性の裏返しとして決まるのが実態だ。

コスト構造の解剖 — 原料費が支配するビジネスの意味

HEFA系では、IEAなどの分析で製造コストの70〜80%を原料費が占めるとされる。この構造の戦略的な意味は明快で、精製技術ではなく原料アクセスが競争優位の源泉になるということだ。廃食油の回収網、獣脂のレンダリング事業者との長期契約、非可食油の栽培契約——川上を押さえた者が勝つ。低CI原料の価格は、CI価値の資本化によってバージン植物油に対するディスカウントからプレミアムへと転じており、「廃棄物だから安く儲かる」という初期の想定はすでに成立しない。

FT合成とセルロース系は逆の構造を持つ。原料(廃棄物・残渣)は安いが、ガス化・合成設備のCAPEXが重く、規模の経済が効くまで単位コストが下がらない。初号機リスクは抽象論ではない。都市ごみからのFT合成SAFを目指した米Fulcrum BioEnergyは、商用初号機の稼働トラブルと資金難の末、2024年に破産手続きに入った。技術的に成立することと、初号機を商業的に成立させることの間には深い谷がある。

化石燃料との価格差、いわゆるグリーンプレミアムを誰が負担するかには3つの類型がある。義務化による転嫁(EU・カリフォルニア型)、税額控除・補助金による国費負担(米45Z型)、そして荷主・航空会社の自主調達(Scope 3削減目的のSAF証書購入)だ。義務化市場は価格支持の仕組みを持つが、前述のLCFSの例が示すとおり供給過剰では機能しない。自主調達市場は買い手の予算次第で変動が大きい。事業計画上は単一の販路に依存せず、複数制度に接続できる認証構成を組むのが合理的だ。

CI算定の方法論 — GREET・RED・CORSIAで数値が変わる理由

CIはライフサイクル全体(原料栽培・収集、輸送、転換プロセス、燃焼)の排出をエネルギー量あたりで積み上げた値だ。同じ燃料でも算定モデルが違えば数値が変わる。境界設定、電力の排出係数、副産物の扱い、そしてILUC(間接的土地利用変化)の計上有無が主な変動要因になる。

制度・モデル 適用市場 ILUCの扱い 標準値/個別算定 検証
GREET(CA-GREET) 米国・LCFS 別途計上 個別算定が基本 CARB認証
RED II/III標準値 EU 高ILUCリスク原料を段階排除 標準値+個別算定選択可 ISCC EU等の認証
CORSIA規定値 国際航空 コアLCA+ILUC加算 規定値+個別算定選択可 ISCC CORSIA等
45Z(改正後GREET) 米国税額控除 2025年改正でILUC除外 モデル算定 IRS規則

ILUCの扱いは市場アクセスを直接左右する。EUは委任規則2019/807でパーム油を「高ILUCリスク原料」に分類し、2030年までの段階的排除を決めた。パーム系はこの一点で欧州市場からの締め出しに直面しており、原料選択が販路の消失に直結した実例といえる。大豆油は同規則の高ILUCリスク分類には入っていないが、域内でのNGO圧力や加盟国個別の規制、RED IIIの見直しプロセスで分類リスクを指摘されており、「現時点で排除されていない」ことと「将来も安全」であることは別の話だ。

米国では方向が逆に動いた。2025年7月に成立したOne Big Beautiful Bill Actにより45Z(クリーン燃料生産税額控除)は2029年12月31日まで延長される一方、CI算定からILUCが除外され、対象原料は北米産に限定された。ILUCを除外すればトウモロコシ・大豆系のCIは下がり、税額控除額は増える。同じ燃料のCIが、大西洋の両岸で制度的に逆方向へ動いているわけで、CIが科学であると同時に政治的交渉の産物であることを示す好例だ。

個別算定でCIを下げるには、第三者検証とISCC等の認証取得が前提になる。ここは7段階の第3段階(証明可能性)がボトルネックになる局面で、認証がなければCIがどれほど低くても市場アクセスはゼロだ。逆に、標準値より低い個別CIを証明できれば、その差分がそのままクレジット収益になる。認証・検証コストは費用ではなく、差分収益を解錠する投資として評価すべきだ。

原料・経路別CI比較 — 数値が収益をどう分けるか

CORSIAにおける化石ジェット燃料の基準CIは89 gCO2e/MJ。主要経路のコアLCA規定値(ILUC加算前)に基づく位置は次のとおりだ。

原料・経路 CI水準(gCO2e/MJ、コアLCA) 化石比の位置 収益上の位置づけ
廃食油HEFA 約14 8割超の削減 最優良。クレジット収益最大
獣脂HEFA 約22 7割超の削減 優良
サトウキビ系ATJ 約24〜34 6〜7割の削減 ATJ原料として有望
トウモロコシ系ATJ 約56(+ILUC加算) ILUC込みでは削減幅縮小 米国内制度依存が強い
パーム油系 約37〜60(+ILUC加算) ILUC込みで大幅減 EU市場アクセス喪失

出典はICAOのCORSIA規定値およびEU RED II附属書の標準値で、個別プラントの実測CIはプロセス設計や使用電力で上下する。

CI差が収益に変換される計算を試算で示す。LCFSのクレジット量(tCO2e)は概ね(基準CI − 燃料CI)× 供給エネルギー量で決まる。再生可能ディーゼル1トンは約44,000 MJに相当するため、CI 1ポイントの差は燃料1トンあたり約44 kgCO2e、クレジット単価70ドル/tCO2eなら約3ドルに相当する(試算)。廃食油由来(CI 20前後)と大豆油由来(CI 55前後)の35ポイント差は、燃料1トンあたり約110ドルの収益差になる計算だ。クレジット価格が200ドル近辺にあった2020年頃なら同じ差分が300ドルを超えていた。差分の「幅」はCIが決め、差分の「単価」は市場と規制当局が決める——この二層構造の理解が、収益予測の精度を分ける。

日本市場への接続 — SAF 10%義務と国産供給の距離

日本では、エネルギー供給構造高度化法に基づく判断基準の改正により、2030年度から本邦航空燃料供給量の10%をSAFとする供給目標が石油元売り等に課される。国内では製油所併設型のHEFA・ATJプロジェクトが複数進むが、供給計画の相当部分は廃食油・エタノールなど原料の輸入に依存する。ここに45Zの北米原料限定が効いてくる。米国産原料・米国内製造に税額控除が集中すれば、日本向けに回る低CI原料は細り、調達コストは上がる方向に働く。国内の未回収廃食油や農業残渣といった「まだCI価値が価格に織り込まれていない原料」の国内回収網を先に押さえることが、日本の事業者にとって数少ない構造的優位になり得る。CI算定については資源エネルギー庁がSAFのライフサイクル評価の考え方を整理する段階にあり、国際制度(CORSIA・ISCC)との整合が実務上の焦点になる。

課題と留意点

ここまでの分析は「CIが測定可能で、検証が信頼できる」という前提の上に成り立っているが、その前提自体が最も脆い部分でもある。CIは物理量ではなく、境界設定・配分ルール・排出係数の選択によって決まる規約的な数値であり、同じ燃料に対して制度ごとに異なる値が正当に付きうる。とりわけILUCの計上は方法論的な合意が乏しく、モデル依存で大きく振れる。さらに深刻なのは検証インフラの限界だ。廃食油やその他の廃棄物系原料は「廃棄物であること」自体が価値の源泉になるため、バージン油の混入や原料由来の偽装に対する経済的インセンティブが構造的に存在する。EUが中国産バイオディーゼルに対する通商措置を進め、認証機関が一部の供給者の認証を停止する事態が生じてきたのは、この誘因が現実のものであることを示している。第3段階(証明可能性)が破綻すれば、第5〜6段階で形成された価格は原料調達の実態ではなく監査の甘さを反映したものになりかねない。本稿の収益方程式は、監査コストと不正リスクのプレミアムを暗黙にゼロと置いている点で楽観的である。

第二に、HEFA集中という結論は原料供給の上限を軽く見ている可能性がある。廃食油・獣脂は本質的に他の経済活動の副産物であり、その供給量は燃料需要ではなく食用油消費や畜産の規模に規定される。需要が供給の天井を超えれば、価格が上がるだけで量は増えず、限界的な需要はバージン植物油に流れる——このとき、廃棄物系原料へのシフトによる正味の排出削減は当初の算定より小さくなる(いわゆる原料の転用効果)。「HEFAは技術リスクが低いから安全」という判断は、原料リスクを技術リスクに交換しただけとも読める。加えて、代替視点として、そもそもバイオ燃料が長期的な解ではなく移行期の橋渡しにすぎないという立場がある。道路輸送は電化が進行中であり、LCFSクレジットの供給過剰も部分的にはこの需要側の変化と結びついている。航空・海運という電化困難領域が残るとしても、そこでe-fuel(合成燃料)が競合として立ち上がれば、2030年代のHEFA資産は座礁リスクに晒される。CI差分の収益化は制度が続く限りにおいて成立する構造であり、制度の存続そのものを与件として扱うべきではない。投資判断では、クレジット単価の感度分析に加えて、制度設計が変更または縮小されるシナリオでの回収可能性を別建てで検討する必要がある。

まとめ — CIは測るものではなく、経営するもの

バイオ燃料事業の収益は、物理的に何トン作るかと同じくらい、その燃料のCIをどの制度でいくらに換金するかで決まる。廃食油HEFAとトウモロコシ系の40ポイント前後のCI差は、クレジット単価次第で燃料1トンあたり100〜300ドル超の収益差に化ける。一方でその単価自体が、LCFSの7割下落が示すとおり制度設計と需給で大きく振れる。低CI原料の争奪とクレジット価格の変動という二つのリスクを、原料の川上統合と複数制度への認証接続で吸収できるかが事業の成否を分ける。

制度は静的ではない。EUはILUCでパーム油を締め出し、米国はILUCを算定から外して国内原料を優遇し、日本は2030年のSAF 10%義務に向けて供給網を組み立てている。同じ分子のCIが法域ごとに違う数値として扱われる以上、CI戦略とは規制ポートフォリオ戦略にほかならない。

2027年頃までに、CARBの基準強化がLCFS価格を回復させるか、45Zの北米限定が原料貿易をどこまで再編するか、そして日本の10%義務に対して国産SAFがどれだけの供給量で応えられるかが出揃う。この3点が、2030年に向けたバイオ燃料事業の投資判断の分水嶺となる。


主要出典

  • CARB, Low Carbon Fuel Standard(制度概要・2024年規則改正): https://ww2.arb.ca.gov/our-work/programs/low-carbon-fuel-standard
  • CARB, LCFS Data Dashboard(クレジット価格・需給データ): https://ww2.arb.ca.gov/resources/documents/lcfs-data-dashboard
  • EU, Renewable Energy Directive (EU) 2018/2001(GHG削減閾値・標準値): https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32018L2001
  • EU, Commission Delegated Regulation (EU) 2019/807(高ILUCリスク原料の分類): https://eur-lex.europa.eu/eli/reg_del/2019/807/oj
  • ICAO, CORSIA Eligible Fuels — Default Life Cycle Emissions Values: https://www.icao.int/environmental-protection/CORSIA/Pages/CORSIA-Eligible-Fuels.aspx
  • IRS, Clean Fuel Production Credit (Section 45Z): https://www.irs.gov/credits-deductions/clean-fuel-production-credit
  • 資源エネルギー庁「エネルギー供給構造高度化法に基づくSAFの利用促進(判断基準告示)」: https://www.enecho.meti.go.jp/category/resources_and_fuel/saf/
  • IEA, Renewables — Transport Biofuels(製造コスト構造・需給見通し): https://www.iea.org/energy-system/low-emission-fuels/biofuels

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