分析記事 企業価値・投資 · 制度・ルール

SBTi vs GX目標 比較ガイド:日本企業はどちらを選び、どう両立させるか

なぜSBTiとGX目標の比較が重要か

日本企業は今、2つの異なる気候目標フレームワークへの対応を求められている。グローバルな機関投資家・取引先からはSBTiの認定取得が、国内規制対応ではGX推進法に基づくGX目標の設定がそれぞれ求められる。両者は要求水準・プロセス・目標期間が異なり、一方への対応がもう一方の基準を満たすとは限らない。

SBTiとGX目標の基本比較

項目 SBTi GX目標(GX-ETS参加目標)
運営主体 CDP・UN Global Compact等の国際NPO連合 日本政府(GX推進機構)
目標温度 1.5℃または2℃整合 2050年カーボンニュートラル(日本政府目標に整合)
対象範囲 Scope 1・2・3(重要カテゴリ必須) 主にScope 1・2(Scope 3は努力目標)
目標年 2030年(短期)・2050年(長期) 2030年・2050年(国内目標に準拠)
認証費用 数万〜数十万円(売上規模による) 制度参加費(GX-ETS登録費)
審査期間 6〜18ヶ月 随時(年次報告ベース)
国際通用性 高(RE100・CDP・機関投資家評価に直結) 国内中心(国際市場での認知は限定的)

SBTiの要求水準:1.5℃目標の実態

SBTiの1.5℃目標では、Scope 1・2を2030年までに42%以上削減(2020年比)が必要。さらに:

  • Scope 3が全排出量の40%以上を占める場合、Scope 3目標も必須
  • 2050年の長期ネットゼロ目標も合わせて設定が必要
  • Forest, Land and Agriculture(FLAG)に関連する企業は別途FLAG目標が必要(2024年〜)
  • SBTiの審査・認定を受けるには目標の科学的整合性の証明が必要

GX目標の特徴:国内制度との連動

GX-ETSに参加する企業は、年次排出量報告とともに自社削減目標を開示する。2030年に向けた目標は日本政府の「2030年度46%削減(2013年比)」に整合していれば受け入れられる傾向にあるが、目標水準の科学的根拠の審査はSBTiほど厳格ではない。

企業タイプ別の選択指針

グローバル大企業(海外機関投資家・取引先からの要求あり)

SBTi優先。CDPスコア・MSCI ESG格付け・機関投資家エンゲージメントにおいてSBTi認定は必須に近い水準。GX目標も並行して設定することで国内コンプライアンスも対応。

中堅製造業(国内GX-ETS参加、海外取引先あり)

GX目標を先行し、SBTi認定へのロードマップを整備。Scope 3算定体制構築に時間がかかるため、まず国内目標で実績を積み、SBTi申請は2〜3年後を目標に。

中小企業・サプライヤー

SBTi SME版(中小企業向け簡易版)またはGX目標で対応。SBTiはSME向けの簡易申請プロセスを提供しており、Scope 3算定なしでも認定取得が可能。大手取引先からSBTi認定を要求されるケースが増加している。

両立対応ロードマップ

  1. Scope 1・2・3の現状把握:算定範囲・精度を確認
  2. GX-ETS登録・目標提出(2025〜2026年):国内コンプライアンス先行
  3. SBTi目標設定(2025〜2026年):Scope 3の重要カテゴリ特定
  4. SBTi審査申請(2026〜2027年):書類整備・審査費用確保
  5. SBTi認定取得・CDP開示(2027〜2028年):公式認定後に投資家・取引先へ発信

まとめ

SBTiとGX目標は、どちらか一方を選ばなければならない相互排他の関係にはない。理想を言えば両方に対応することが最善であり、二つを対立する選択肢としてではなく、役割の異なる二本の柱として捉え直すことが出発点になる。SBTiは国際市場において自社の気候目標の信頼性を担保する手段であり、GX目標は国内制度への対応を果たすための枠組みである。この役割分担を意識すれば、どちらにどこまでのリソースを割くべきかという判断は格段に整理しやすくなる。

その上で実務的に重要なのは、いきなり高い水準を目指すのではなく、自社の目標設定能力を冷静に評価することだ。とりわけScope 3の算定力は、対応可能な水準を規定する現実的な制約となる。まず現在地を把握し、そこから段階的に対応水準を引き上げていくアプローチこそが、限られた予算と人員のなかでコスト効率の高い気候目標対応を実現する道筋となる。

今後、国際市場での信頼性確保と国内制度対応という二つの要請が同時に強まるなかで、自社の算定基盤をどこまで着実に育て、どの順序で対応水準を引き上げていけるか——日本企業の気候目標戦略は、その設計力が試されることになる。

About The Author

\ 最新情報をチェック /