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CBAM(炭素国境調整メカニズム)と日本輸出企業への影響 — 対象品目・申告実務・コスト設計

EU「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」は2026年1月から証明書購入義務が本格化し、鉄鋼・アルミニウム・セメント・肥料・電力・水素を日本からEUへ輸出する企業は直接コスト負担が生じる。対象品目・排出量申告の実務・コスト影響の試算方法を解説する。

CBAMの制度概要

CBAMはEU-ETSの炭素コストを域外からの輸入品にも適用し、炭素リーケージ(EU域内の生産が規制の厳しい域外に移転する現象)を防ぐ制度です。

フェーズスケジュール

  • 移行期間(2023年10月〜2025年12月):排出量の申告義務のみ(費用負担なし)。四半期ごとにCBAM申告書をEU当局に提出。
  • 本格適用(2026年1月〜):輸入業者(EU域内のCBAM申告者)が「CBAMサーティフィケート」を購入して提出する義務。価格はEU-ETS排出権価格に連動。
  • 段階的拡大(2034年以降):EU-ETS無償割当の段階的廃止と並行してCBAM適用範囲が拡大する可能性。

対象品目と日本輸出企業の影響

第1フェーズの対象品目(2026年〜)

  • 鉄鋼:鉄鉱石・鉄・鋼材(HRC・冷延・ステンレス等)。日本からEUへの鉄鋼輸出は年間数百万トン規模。
  • アルミニウム:アルミ地金・加工品。日本のアルミ輸出への直接影響。
  • セメント・肥料・電力・水素:日本からの輸出規模は鉄鋼・アルミより小さいが、水素(グリーン水素輸出)の将来的な影響は大きい可能性。

日本企業への影響が大きいのは、EU向けに鉄鋼・アルミ製品を輸出している大手製造業・商社です。下流(自動車・機械メーカー)は直接対象ではありませんが、EU輸入業者(欧州子会社・顧客)がCBAMコストを負担するため、間接的な価格交渉・サプライヤー切り替えリスクが生じます。

排出量申告の実務

申告対象排出量の定義

CBAMでは製品1トン当たりの「内包排出量(Embedded Emissions)」を申告します:

  • 直接排出量:製品製造工程でのScope 1排出量(高炉・転炉・電炉等の製造プロセス直接排出)
  • 間接排出量(一部製品に適用):電力消費由来のScope 2排出量。電解アルミニウム等では必須。

申告データの収集と検証

EU輸入業者(CBAM申告者)は輸出業者(日本の製造・輸出会社)から排出量データを取得する義務があります。実務的には:

  1. 日本の製造会社がCBAM規則に準拠した製品内包排出量を算定
  2. 第三者認定機関による検証(認定検証機関のリストはEU規則で規定)
  3. EU輸入業者がCBAMポータルに申告データを入力・サーティフィケートを購入

移行期間中(〜2025年)に実際の製品排出量データの算定体制を整備していない場合、2026年以降はデフォルト値(EU平均の排出係数、通常実際より高い)が適用され、より多くのサーティフィケート購入コストが発生します。

CBAMコストの試算

試算例:日本製熱延鋼板を年間10万トンEU輸出する場合

  • 内包排出量:1.8 t-CO₂/t-鋼材(高炉法・平均的な日本製鉄)
  • EU-ETS価格:60 EUR/t-CO₂(試算値)
  • 年間CBAMコスト:10万t × 1.8 t-CO₂/t × 60 EUR = 1,080万 EUR(約16億円)

EAF(電炉法)製鋼で再エネ電力を使用する場合、内包排出量は0.4〜0.8 t-CO₂/t程度まで低下し、CBAMコストを半分以下に圧縮できます。製造プロセスの脱炭素化がCBAMコスト削減に直結します。

日本企業の対応戦略

  • 製品内包排出量の算定体制整備(最優先):2025年末までに製品・工場別の内包排出量算定を確立し、デフォルト値適用を回避する。
  • 製造プロセスの脱炭素化:高炉→電炉転換・再エネ調達・省エネ投資でCBAM証明書コストを削減する長期戦略。
  • EU輸入業者(欧州子会社・顧客)との協働:CBAM申告は法的にはEU輸入業者の義務だが、排出量データの提供は日本側の責任。スムーズな情報連携体制を構築する。
  • 価格交渉の再設計:CBAMコストをEU向け製品の価格に転嫁する交渉。低炭素製品はCBAMコスト優位として価格プレミアムを正当化できる。

まとめ

CBAMは2026年から日本の鉄鋼・アルミ輸出企業に対する直接的な炭素コストとなります。製品内包排出量の算定体制の早期整備と、製造プロセス脱炭素化による内包排出量の削減が、CBAMコストを競争優位に転換する唯一の道です。欧州輸出戦略を持つ製造業には2025年中の対応着手が不可欠です。

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