Science Based Targets initiative(SBTi)の認定取得は、ESG投資家・大手顧客からの脱炭素要求に応える最も信頼性の高い方法だ。認定申請の流れ・削減経路の選択・中小企業向けSME Trackの活用方法を解説する。
SBTiとは
SBTiは科学的根拠に基づく排出削減目標を企業が設定・認定するための国際的な枠組み(CDP・国連グローバル・コンパクト・WRI・WWFが共同設立)です。SBTi認定目標の主要な要件:
- 1.5℃整合:パリ協定の1.5℃目標に整合した削減経路(従来の「2℃未満」から1.5℃に強化)
- Scope 1・2の絶対削減:2030年までに2025年比で42%削減(1.5℃経路)
- Scope 3の目標設定:Scope 3がScope 1+2+3の40%超を占める場合は必須
- 目標期間:提出年から5〜10年後を目標年に設定
- 5年ごとの更新:認定取得後は5年ごとの目標見直しが必要
認定申請のプロセス
Step 1: コミットメント登録(Commitment)
SBTiのウェブサイトからコミットメントを登録(無料)。「目標設定に向けて取り組む意思」を公式表明。コミットメント登録から24ヶ月以内に目標を提出する義務があります。
Step 2: GHGインベントリの整備
認定申請に必要なベースライン:
- Scope 1・2:直近年度の確定排出量(GHGプロトコル準拠)
- Scope 3:全15カテゴリの算定(重要性評価で必要カテゴリを特定)
- 目標設定のベースライン年:通常は直近1〜3年のデータ
Step 3: 目標設定と内部承認
SBTiの目標設定ツール(SBTi Target Validation Tool)を使用して、自社の削減経路と目標値を計算。取締役会の承認を得て目標を確定します。
Step 4: 目標の提出と審査
SBTiポータルから目標を提出。SBTiの審査チームが目標の妥当性を審査(有料:中小企業750ドル、大企業9,500ドル〜)。審査期間は通常2〜4ヶ月。承認後にSBTiウェブサイトに公開されます。
削減経路の選択
Scope 1・2の削減経路
1.5℃整合の標準経路:Absolute Contraction Approach(ACA)。提出年からの排出量を毎年4.2%削減する直線的な経路。再エネ100%化・省エネ投資・燃料転換が主な施策。
セクター固有の経路(SDA:Sectoral Decarbonization Approach):電力・鉄鋼・セメント・紙・輸送等の業種は業種別のベンチマーク経路を選択可能。自社の排出原単位を業種ベンチマークに収束させる目標設定。
Scope 3の削減経路
Scope 3はSBTi S3が適用されます(2023年改訂):
- Scope 3全体で2030年までに2025年比42%削減(Scope 1・2と同一の1.5℃経路)
- または特定のScope 3カテゴリ(Cat.1等)に対して別の方法論を適用
- Scope 3削減の手段:サプライヤーエンゲージメント・製品設計変更・調達先転換等
中小企業向けSME Track
従業員500人未満の中小企業は「SME Track」(SME = Small and Medium-sized Enterprise)という簡易な認定プロセスを利用できます:
SME Trackの特徴
- Scope 3の算定不要:SME TrackではScope 3目標の設定が任意(重大なScope 3排出源がある場合を除く)
- 簡易な申請:標準的な認定と比べ申請書類が少なく、審査費用が低い(750ドル)
- SME気候ハブ:SME向けに排出量算定・目標設定・削減施策のガイダンスを提供する無料ツール
- コミットメント型:詳細な削減経路の計算なしに、Scope 1・2の50%削減(2030年目標)に「コミット」する選択肢もある
SME Trackの制約
- 大企業のサプライヤーとして、Scope 3削減の具体的データを求められた場合には不十分な場合がある
- CSRD対応企業(EU規制対象)には標準SBTi認定が要求されるケースがある
SBTi認定取得後の管理
- 年次進捗報告:CDPを通じた年次排出量・削減進捗の開示が義務
- 目標の5年ごとの更新:認定後5年で最新の1.5℃経路に合わせた目標見直し
- 目標未達の場合:SBTiウェブサイトで「目標達成不可」と公開されるリピュテーションリスクがある。これが適切なSBTiコミットメントのペナルティメカニズムとして機能している。
まとめ
SBTi認定は「企業の脱炭素コミットメントの国際的な信任状」として機能しており、ESG投資家・大手顧客からの信頼獲得に直結します。認定申請はコミットメント登録→インベントリ整備→目標設定→提出の4ステップ。中小企業はSME Trackで申請ハードルを下げながら認定取得が可能です。目標設定後の年次進捗開示と5年更新が継続的な管理の核心です。