はじめに:航空業界のCO2問題の特殊性
航空は高度を飛行するため電化が困難であり、バッテリー重量・エネルギー密度の制約から長距離・大型機の電動化は現時点では実用段階にない。このため航空業界の脱炭素は主にSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)への転換に依存する。IATAは2050年ネット・ゼロに向けて、SAFが65%以上の削減に貢献するとの試算を公表している(最新のIATA推計を要確認)。
1. SAFとは何か
SAFは従来の化石ジェット燃料に代わる低炭素の航空燃料の総称で、原料・製造プロセスによって複数の種類がある。
- HEFA(水素化植物油・廃食油由来):廃食油・動物性油脂を水素化処理して製造。最も商業化が進んでいる。原料の持続可能性証明(ISCC等の認証)が必要
- FT(フィッシャー・トロプシュ)合成:バイオマス(木質チップ等)をガス化してSAFを合成。原料調達・コストが課題
- ATJ(アルコール・ジェット変換):廃糖蜜・セルロース系バイオマス由来のアルコールをジェット燃料に変換
- PtL(Power-to-Liquid)e-SAF:再エネ電力で水を電気分解した水素+回収CO2からフィッシャー・トロプシュ合成。ライフサイクルCO2削減率が最も高いとされるが、現時点では最高コスト
2. SAFの価格構造とコスト課題
SAFの主要課題はコストだ。現時点でSAFは化石ジェット燃料の3〜5倍程度のコストとされるケースが多いが、技術成熟・規模拡大によって低下が見込まれる(価格は原料・製造方法・契約条件・時期により大きく変動する;最新の市場価格を要確認)。
コスト構成:原料費(廃食油・バイオマス等)+ 製造コスト(設備・水素・エネルギー)+ 物流・ブレンドコスト
3. 誰がSAFを買うのか
① 航空会社(自社排出削減目的)
航空会社は自社のScope 1排出削減のためにSAFを調達する。ただし高コストのため、SAF購入費を運賃に転嫁しないと収益圧迫になる。
② 企業の出張・貨物輸送(Scope 3カテゴリー6・4)
SBTiやネット・ゼロ目標を持つ企業は、航空出張・航空貨物のScope 3排出量削減のために「SAF付き航空券・輸送サービス」に割増料金を支払う意向を示している。SAFを「誰かが使う」ことへの需要(SAF Certificate/Book-and-Claim)が生まれている。
③ 規制対応(EU SAF義務化等)
EUは航空燃料へのSAF混合義務(ReFuelEU Aviation規則)を段階的に引き上げる規制を導入している(2025年以降段階的;最新の規制内容を要確認)。規制による強制需要が SAF市場の底上げになる。
4. Book-and-Claim(帳簿上の請求権方式)
SAFの物理的な購入(物理SAF)に加えて、「Book-and-Claimシステム」という環境価値の分離調達手法が普及しつつある。
- SAF製造事業者がSAFを製造し、その環境価値(化石燃料対比の削減分)を証書化する
- 企業(航空会社でなくても)がその証書を購入し、Scope 3排出量の削減として計上できる
- 物理的にSAFを飛行機に積む必要がなく、製造地域・使用地域の制約なく調達できる
Book-and-Claimの方法論・報告フレームワークへの適合性は、GHGプロトコル・CDP・SBTiの最新ガイダンスを要確認。
5. SAF製造事業者・投資家の視点
SAF製造への投資・参入を検討する事業者にとっての考慮事項は以下の通りだ。
- 原料の安定調達(廃食油の争奪・バイオマスの持続可能性証明)
- ISCC・RSB等の認証取得(持続可能性の証明が輸出先規制への対応に不可欠)
- 航空会社・大企業との長期供給契約による収益安定化
- 補助金・税制優遇の活用(日本でのSAF普及支援策は進化中;最新の公募情報を要確認)
まとめ
SAFは航空業界の脱炭素の核心技術であり、規制強化・企業のScope 3対応需要・Book-and-Claimの普及によって市場が拡大しつつある。現時点での最大の課題は価格(化石燃料の3〜5倍)だが、HEFA系は商業化が最も進んでいる。企業がSAFを調達する動機はScope 3削減であり、証明可能な削減量の証書化が収益化の核心だ。