北米最大級Cleantech Forumで見たクライメートテック最前線
先月下旬にアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴで開催されたCleantech Forum。
クライメートテック及び持続可能なエネルギーに焦点を当てた企業やイノベーションに関する情報やコンサルティングを提供するCleantech Groupが主催するカンファレンスで、北米を中心に世界中からスタートアップや投資家などが集まる。Cleantech Groupが選出した有望なスタートアップのピッチや、ビル・ゲイツが創設した気候変動ベンチャーキャピタル・ファンド「ブレークスルー・エナジー(Breakthrough Energy)」の講演などが注目を集める。また、チケットが2500米ドル前後と高額で、人数も600人に限定されているため、高品質なネットワーキングができると評判も高い。
今回、現地に赴き3日間にわたりその実態を取材した。
洪水警報の出る中始まったクライメートテックカンファレンス
カンファレンス初日、会場となるサンディエゴは朝から激しい雨が降り続き、各地で洪水が起きていた。会場に向かうUberの中で、けたたましい音とともに「Emergency Alert」のプッシュ通知がスマートフォンに届いた。「洪水の危険があるので不要不急の外出を控えるように」とのことだった。
地元メディアによると、3か月間の合計雨量に匹敵する雨がわずか6時間の間に降り、数百の民家が洪水被害を受けたという。
このような中集まったカンファレンスの参加者たちが、気候変動を「身に迫る危機」として改めて認識したことは間違いない。私自身、「気候変動を止めるために自分に何ができるのか」を否応なしに考えさせられた。
活気あふれる会場 参加者の顔ぶれは大企業の役員クラス
会場では、次世代の航空燃料と呼ばれ注目を集めるSAF(Sustainable Aviation Fuel)や、空気中から二酸化炭素を回収する技術DAC(Direct Air Capture)など、クライメートテックのテーマごとのセッションが複数会場で同時並行して進む。中でも多くの注目を集めていたのが、ビル・ゲイツが創設した気候変動ベンチャーキャピタル・ファンド「ブレークスルー・エナジー(Breakthrough Energy)」の講演だ。彼らのクライメートテック投資やイノベーション支援のアプローチに興味をもった人で、会場は立ち見の人が出るほどの盛況だった。
一方、会場の外は絶えずネットワーキングが行われており、投資家やスタートアップが新たな出会いを求める活気であふれていた。今回のカンファレンスで感じたのは、スタートアップのメンバーの年齢層の高さだ。上場企業の役員だと名乗られても全く違和感のない貫禄のある創業者が多く、話を聞いてみると実際に複数の企業や研究機関で要職を務めたのちに起業した人がほとんどだった。こうした類のカンファレンスには何度か参加したことがあるものの、ITやAI関連のスタートアップとは大きく毛色が違う。クライメートテックは、二酸化炭素を物理的に削減する必要がある以上、ハードウェア開発に取り組むスタートアップが多い傾向がある。研究開発に多額の資金を必要とするため、シード期から数億円単位の調達が日常的に行われているが、こうしたチームメンバーの実績やキャリアが担保となっているのだと理解した。
20人に聞いてみた 移動で出たCO2をオフセットしましたか?
3日間にわたり、計20人に「会場までの移動(主に飛行機)で出たCO2排出量をカーボンクレジットでオフセットしたか」を聞いてみた。その結果が以下の通り。
Yes12人
No 5人
車2人
鉄道1人
欧州では「飛び恥」という言葉も出てきているが、飛行機で来た人のうち7割が自分のCO2排出をオフセットしていたという事実に驚いた。どのようにクレジットを購入したかも聞いてみたところ、ベンチャーキャピタリスト達からは「投資先のスタートアップから購入している」との答えが多く返ってきた。また、スタートアップの幹部は、「会社が一定量をまとめて購入し、まとめて償却している」と教えてくれた。航空会社が販売している「カーボンオフセットチケット」を購入している人はいなかった。
「自分の移動で出たCO2をオフセットする」という新たな風習が既に一部の人たちの中で普及しつつある点はとても喜ばしい。一方で、質問に答えてくれたあるスタートアップの幹部の言葉を忘れてはいけない。「カーボンクレジットは確かに脱炭素化に役立つが、頼り。切りではいけない。仮にオフセットしたとしても、CO2を排出量は物理的には変わらないからだ。気候変動を根本から解決するためには、大気中のCO2を物理的に削減する必要がある。その解決策となりうるSAFやDACといった新たな技術をもっと拡大していかなければならない」