Scope 3カテゴリ11(販売製品の使用段階)算定実務ガイド:耐久財・燃料型製品の完全解説
Scope 3のカテゴリ11(販売製品の使用段階:Use of Sold Products)は、製造業・電機・自動車・エネルギー企業にとって最大の排出源になりうるカテゴリだ。ホームセンター小売企業のLowe’sはScope 3の80%がカテゴリ11から発生し、自動車メーカーでは車両の生涯走行排出量がScope 1/2の数十倍に達する。GHGプロトコルは4つの計算アプローチを定めているが、製品タイプ(耐久財・燃料型・直接排出型・間接排出型)によって適用アプローチが全く異なる。2025年のGHGプロトコル改訂議論でもカテゴリ11は大幅な強化が検討されており、特にライフサイクルベースの計算とデータ品質の要求が高まっている。本記事ではGHGプロトコル準拠のカテゴリ11算定方法を、製品タイプ別に実務レベルで詳解する。
カテゴリ11の対象範囲:何を計算するか
カテゴリ11は「顧客が製品を使用することで発生する温室効果ガス排出量」を計上する。重要なのは「製品の製造段階(カテゴリ1〜4)」ではなく、純粋に「顧客の手に渡った後の使用段階」の排出を対象とする点だ(出典:GHG Protocol Chapter 11)。
GHGプロトコルはカテゴリ11の製品を以下の4タイプに分類し、それぞれに異なる計算アプローチを定めている。
| 製品タイプ | 例 | 計算アプローチ |
|---|---|---|
| ①直接使用排出型製品 | ガスボイラー、ガソリン自動車、ディーゼル発電機 | 燃焼排出アプローチ |
| ②間接使用排出型製品 | 家電、パソコン、電動工具、エアコン | 電力消費×排出係数 |
| ③燃料・原料型製品 | 原油、LNG、石炭、ナフサ | 下流燃焼アプローチ |
| ④その他間接排出 | 中間財(部品、素材) | ダウンストリーム計算 |
アプローチ別の計算方法
アプローチ①:直接使用排出(燃料消費型製品)
自動車・ボイラー・農業機械など、燃料を直接消費して排出するガソリン・軽油・都市ガス等の燃焼を計上する。
計算式:排出量 = Σ(販売台数 × 平均設計寿命 × 年間燃料消費量 × 燃料排出係数)
必要データ:①車種/機種別年間平均走行距離・燃費、②設計寿命(例:乗用車15年)、③燃料排出係数(kg-CO₂/L)
実務ポイント:特定年度の販売台数のみでなく「稼働中全台数」の生涯排出を1年分(平均設計寿命で割った値)に換算して加算する手法も使われる。自動車メーカーは毎年の新規登録ベースと保有台数ベースの両方を開示することが推奨される。
アプローチ②:間接使用排出(エネルギー消費型製品)
電力を消費して使用する製品(家電・PC・産業機器等)は、顧客の電力消費に伴う間接排出を計上する。
計算式:排出量 = Σ(販売台数 × 設計寿命 × 年間電力消費量kWh × 電力排出係数kgCO₂/kWh)
必要データ:①製品の定格消費電力・実使用パターン(稼働率・スタンバイ時間)、②販売地域別の電力排出係数(将来の電力グリッド脱炭素化を加味したシナリオ計算が理想)、③製品寿命
実務ポイント:Philipsは医療機器の消費電力データ×地域別排出係数でScope 3 Cat.11を算定している(出典:ASUENE)。電力グリッドが将来脱炭素化するシナリオでは、2050年の電力排出係数は大幅低下するため、設計寿命全体の排出を「フラット」で計算すると過大評価になる。
アプローチ③:燃料・原料型製品の下流燃焼
石油・天然ガス・石炭等のエネルギー資源を販売するエネルギー会社(Scope 3の中で最大規模になりやすい)は、顧客が燃焼させることで排出するCO₂を計上する。
計算式:排出量 = Σ(販売量(TJ or t)× 燃焼排出係数(kgCO₂/TJ or t))
実務ポイント:CDP気候変動質問書のカテゴリ11専用ガイダンス(油ガス産業向け)が参考になる。下流燃焼の排出係数はIPCC 2006ガイドラインの燃料別排出係数表(Table 1.4等)を使用(出典:CDP Oil & Gas Category 11 Guidance)。
GHGプロトコル2025年改訂での変更点(注目ポイント)
GHGプロトコルのScope 3 Standardは2024〜2025年に約15年ぶりの大改訂が進行中だ。2024年3月公表の改訂提案サマリーでは、カテゴリ11について以下の強化が示唆されている(出典:GHG Protocol Scope 3 Proposals 2024)。
- データ品質スコアの導入:一次データ(製品実測値)vs二次データ(業界平均)の区別を明示し、より一次データの使用を促進。
- 将来シナリオの開示要求:製品の設計寿命期間中の電力グリッド脱炭素化を考慮した「シナリオベース」の計算が推奨。
- 製品ライフサイクルとのリンク:ISO 14067(製品カーボンフットプリント)との整合性が強化され、LCAデータとScope 3 Cat.11の整合的な開示が求められる方向。
実務への示唆:産業別の対応アクション
自動車・建設機械メーカー
車種別の実燃費データ(実路走行燃費)を収集し、公称燃費との差異を考慮した算定を行う。EV比率が上昇するにつれ、「電力消費×将来グリッド排出係数」への移行計算も整備する。投資家・CDP向けには「Fleet Lifetime Emissions Intensity」(1km走行あたりのLCA排出)指標で開示すると比較しやすい。
家電・IT・産業機器メーカー
製品のエネルギー消費データ(定格値・実測値)をPDMS(製品データ管理)に格納し、販売地域別の電力排出係数と組み合わせて自動計算できる体制を構築する。製品設計段階での省エネ改善がScope 3 Cat.11の最有効手段。R&D投資の費用対効果をScope 3削減量でも評価するKPIを設定する。
石油・ガス・化学品メーカー
販売した全燃料・化学品の下流燃焼/使用排出を製品種類別に集計。EUのCSRDやSEC気候開示規則が適用される場合、Scope 3 Cat.11の開示は法的義務に近づいている。CCSや代替燃料(SAF・グリーン水素)への転換量をScope 3削減実績として定量開示することで、脱炭素移行計画と排出量開示の一貫性を担保する。
まとめ
- カテゴリ11は「顧客の使用段階」の排出のみを対象とし、製造段階(カテゴリ1〜4)とは明確に区別して計上する。
- 製品タイプ(直接使用排出型・間接使用排出型・燃料/原料型・その他間接排出)を最初に分類し、対応する計算アプローチを選択することが算定の出発点となる。
- 電力消費型製品は、設計寿命全体を現在の排出係数でフラットに計算すると過大評価になるため、電力グリッド脱炭素化のシナリオを織り込むことが望ましい。
- GHGプロトコルの改訂動向(データ品質スコア、シナリオベース計算、ISO 14067との整合)を踏まえ、一次データの収集体制を早期に整備する。
- 製品設計段階での省エネ改善がカテゴリ11削減の最有効手段であり、削減量をKPI・開示指標として定量管理することが実務上重要である。
参考文献
- GHG Protocol — Category 11: Use of Sold Products (Chapter 11)
- GHG Protocol — Scope 3 Proposals Summary Draft (2024年3月)
- ASUENE — Scope 3 Category 11 Explained
- CDP — Scope 3 Category 11 Guidance for Oil & Gas
- AEM — Off-Road GHG Protocol Scope 3 Cat.11 Guidance (2024)
- Sprih — Scope 3 Category 11 Overview