脱炭素で注目のグリーン水素 3つの電解方法を解説
クライメイトテックの様々な分野の中で、水素は大きな注目を集めています。主な理由は、鉄や化学などの重工業、海運、航空、大型輸送など、二酸化炭素の排出量削減が難しく、代替解決策がない、または導入が困難な分野の脱炭素化において重要な役割を果たすことが可能であることです。再エネ由来の電気を用いて作られる「グリーン水素」について3つの電解法について解説します。
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以下に、それぞれの水の電気分解法の概要と特徴を詳しく解説します。
アルカリ電解法:
アルカリ電解法は、電気分解を行うために水にアルカリ性の電解液(一般的には水酸化カリウムや水酸化ナトリウム)を加える方法です。
メリット:
- 成熟した技術: アルカリ電解法は長い歴史を持つ成熟した技術で、商業的に広く利用されています。
- 低コスト: アルカリ性電解液が比較的安価で手に入りやすいため、運転コストが比較的低いです。
- 水素の純度: 高純度の水素を生成する傾向がありますが、酸素との混合が起こる場合もあるため、後処理が必要な場合があります。
- スケールメリット:特に大規模プラントで低コスト化が期待できます。
デメリット: - 再エネ電気を使いにくい:起動・停止に時間がかかり、電力供給量の変化の激しい再生可能エネルギー由来電気とは相性がよくありません。
PEM法:
PEM法は、電気分解を行うために膜電極アセンブリ(MEA)と呼ばれる膜を使用する方法です。MEAにはプロトン交換膜(PEM)が含まれており、この膜はプロトン(水素イオン)のみを通す特性があります。
クライメイトテックの水素関連スタートアップでは、PEM法を用いるものが多く、膜の改善や大規模化など様々な方法で低コスト化に取り組んでいます。
メリット:
- 低温・低圧: PEM法は低温(約80℃以下)と低圧(通常1気圧以下)で動作するため、エネルギー効率が高いとされています。
- 純水使用: 高純度の水を使用するため、生成される水素も高純度となります。
- 起動と停止が迅速: PEM電解セルは素早く始動し、停止することができるため、再生可能エネルギーの需要変動に対応しやすいです。
デメリット: - イリジウムなどのレアメタルを使うため、部材が高価でコストが高いです。またイリジウムは、プラチナなどの副産物で生産地が南アフカとロシアに限られており、地政学的ななリスクも抱えています。
AEM法(アニオンエクスチェンジ膜電解法):
AEM法は、アルカリ性の電解液を使用せずに、中性条件(pH 7前後)で水の電気分解を行う方法です。プロトン交換膜(PEM)の代わりにアニオンエクスチェンジ膜(AEM)が使用されます。
メリット:
- AEM形の最大のメリットは、セルスタックの触媒やガス拡散層に貴金属が不要で、材料費の大幅削減が見込めることです。
- 無アルカリ性: アルカリ性電解液を使用せず、中性条件で動作するため、操作制御が容易で安全性が高いです。
- エネルギー効率: PEM法と同様に、低温・低圧での動作が可能でエネルギー効率が高いとされています。
デメリット:
- 資材の耐久性: 膜と電極の材料の耐久性が課題とされていますが、改良が進んでいます。
- 電極材料や構造にいまだ改善の余地を多く残し、電解性能もPEMに劣ります。