NDCとは
NDC(Nationally Determined Contributions、国別削減目標)は、パリ協定(2015年採択)の枠組みにおいて、各締約国が自主的に設定し、提出する温室効果ガス排出削減目標および気候変動への対応策を指します。NDCは、気候変動の影響を最小限に抑えるための国際的な取り組みの中心的な要素です。
NDC(Nationally Determined Contributions、国別削減目標)について、より詳細に解説します。
1. NDCの背景と歴史的文脈
パリ協定とNDCの起源
NDCの概念は、2015年12月に採択されたパリ協定に基づいています。パリ協定は、気候変動に関する国際的な取り組みを強化するための枠組みであり、全ての締約国が参加することを特徴としています。それまでの気候変動枠組み条約の取り組み(京都議定書など)では、主に先進国が排出削減義務を負っていましたが、パリ協定では全ての国が自国の排出削減目標を設定することを求められています。
パリ協定の目的
パリ協定の主な目標は以下の通りです:
- 地球の気温上昇を産業革命以前と比べて2℃未満に抑え、できれば1.5℃未満に抑える。
- 気候変動の影響に対する適応能力を強化し、気候変動に対するレジリエンスを向上させる。
- 低温室効果ガス排出開発への転換を促進する。
2. NDCの構成要素
NDCは各国が自主的に設定する目標であり、国の事情に応じた多様な内容が含まれます。主な構成要素は以下の通りです:
排出削減目標
- 量的目標: CO2やその他の温室効果ガスの排出削減目標を定量的に設定します。例えば、「2030年までに1990年比で40%削減する」といった形です。これには、ベースライン年、目標年、削減量が含まれます。
- 強度目標: 経済活動の単位あたりの排出量(例:GDPあたりのCO2排出量)を削減する目標もあります。
- ベースラインの変更: 既存のベースラインを変更することで目標を設定する国もあります。これは、経済成長や他の要因を考慮して目標を調整する方法です。
適応策
- リスク評価: 気候変動によるリスクを評価し、その影響を最小限に抑えるための具体的な対応策を計画します。
- 分野別対策: 農業、漁業、森林管理、水資源管理、都市計画など、特定のセクターに対する適応策が含まれます。
- 地域別対策: 特定の地域(例:沿岸部、山岳地域など)のリスクに応じた対策も含まれます。
実施手段とポリシー
- 政策と法規制: 排出削減目標を達成するための国内政策や法的枠組みを設定します。これには、再生可能エネルギーの促進、エネルギー効率の改善、森林保護などが含まれます。
- 市場メカニズム: カーボンプライシング(炭素税、排出権取引など)を導入し、経済的インセンティブを提供することで排出削減を促進します。
財務、技術、能力構築
- 資金調達: 目標達成のために必要な資金をどのように調達するかの計画を含みます。国内外の資金源を活用することが考えられます。
- 技術移転: 特に開発途上国では、必要な技術の移転が重要です。これには再生可能エネルギー技術、エネルギー効率技術、気候変動への適応技術などが含まれます。
- 能力構築: 気候変動対策を実施するための人材育成や組織能力の強化も重要です。
3. NDCの提出と更新プロセス
提出とレビュー
パリ協定の下では、各国は定期的にNDCを提出し、その内容を国際的に共有します。提出されたNDCは国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の事務局が受理し、各国の目標と行動計画が公開されます。
更新と強化
各国は5年ごとにNDCを更新することが求められています。このプロセスにおいて、各国はより野心的な目標を設定し、気候変動対策を強化することが期待されています。また、進捗状況の報告も行われ、透明性の確保が図られています。
4. NDCの課題と影響
課題
- 実施の難しさ: 一部の国では、技術的・財政的な制約や政治的な不安定さにより、NDCの実施が難しいことがあります。
- 目標の不一致: 各国のNDCは自主的に設定されるため、国ごとの目標のレベルが異なります。これは、全体としての地球温暖化防止の目標達成に影響を与える可能性があります。
影響
- 国際協力の促進: NDCは国際的な気候変動対策の協力を促進する枠組みを提供します。特に、開発途上国への技術支援や資金援助が重要な要素となっています。
- 国内政策の推進: 各国がNDCの目標を達成するために、国内の政策や規制を強化する動機となります。これには、再生可能エネルギーの促進、エネルギー効率の改善、森林保護の強化などが含まれます。
NDCは、気候変動に対する国際的な対応を形作る重要な要素であり、各国が協力して取り組むことで、持続可能な未来を築くための基盤となります。
NDCの最近の見直し状況
1. 最近の見直しと会議
最近のNDCの見直しは、2023年のCOP28(第28回気候変動枠組条約締約国会議)で行われました。会議では、「グローバル・ストックテイク」という初めての世界的な評価プロセスが行われ、各国のNDCの進捗状況が評価されました。この評価は、2030年までに2019年比で43%の温室効果ガス排出削減が必要であることを示しており、これは1.5℃の温暖化目標を達成するために不可欠です。
COP28では、以下の主要な決定が行われました:
- 化石燃料の段階的廃止: 各国が化石燃料からのエネルギーシステムの転換を加速することが求められました。
- 適応目標の設定: 水資源の安全性、エコシステムの回復、健康面の目標に関する2023年のターゲット設定が行われました。
- 気候ファイナンスの増額: 2025年までに気候ファイナンスを1年間に最低1,000億ドルとする新たな目標が設定されました。
2. 各国の達成状況
グローバル・ストックテイクの結果、現在のNDCの実施状況は、目標達成には不十分であることが明らかになりました。多くの国が設定した目標は進行中であり、特に途上国は資金や技術支援が必要とされています。
具体的な状況としては:
- 排出削減: 一部の国では排出削減が進んでいますが、全体としては目標に達していない国が多いです。特に発展途上国では、技術的および資金的支援が不足していることが課題となっています。
- 適応策: 一部の国では適応策の実施が進んでおり、特に水資源の管理やエコシステムの保全が強化されています。
- 財政的支援: 気候ファイナンスの面では、途上国への支援が進んでいますが、依然として必要とされる金額には達していません。
これらの課題を解決するため、COP28では国際協力の強化とさらなる資金調達が議論されました。特に、途上国のための損失と損害基金の設立が重要なステップとして挙げられます。
参考:UNFCC https://unfccc.int/cop28/5-key-takeaways