テスラが石油・たばこ会社下回る ESG評価のカラクリ 

S&PのESG評価で、石油やタバコ業界が環境に友好的なTeslaよりも高評価を得ている点が議論を引き起こしています。Teslaは環境部門では高得点を取得していますが、社会・ガバナンス部門では業界平均を下回っています。この結果は、総合的なエスグ評価においては異なる視点から対象を評価する必要性を示しています。また、森林カーボンオフセットがほとんど価値がないという新研究を引き合いに出し、ESG評価の高い企業の実態が伴っていない可能性も指摘しています。

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格付け会社S&Pが運用するESG評価の点数をめぐり、議論が起きている。たばこ各社や石油大手などが、EVや太陽光発電事業など脱炭素事業を推進することで知られるテスラの点数を上回っているためだ。

  1. S&PのESG評価
  2. 各社のスコア
  3. テスラの評価の内訳
  4. 歪んだチャート
  5. 多角的な側面で捉える重要性

S&PのESG評価

出典 S&P

S&PのESG(Environmental, Social, and Governance)評価は、企業や投資対象に対する持続可能性と責任経営の評価を提供する評価体系。これは、投資家、金融機関、企業、および市場関係者にとって、企業の環境への影響、社会的責任、およびガバナンスの質を理解し、比較するのに役立つ。以下にESG評価の各要素:

  1. 環境(Environmental): 環境への影響を評価。具体的な項目には、温室効果ガスの排出、再生可能エネルギーの利用、廃棄物管理、水資源の効率的な使用などが含まれる。また、気候変動への適応策や環境に対するリスク管理も考慮される。
  2. 社会(Social): 企業が社会に対してどのような影響を及ぼしているかが評価される。人権、従業員の幸福度、多様性と包摂性、顧客満足度、コミュニティへの貢献、製品の安全性などが含まれる。また、サプライチェーンにおけるラボリスクも考慮される。
  3. ガバナンス(Governance): 企業の組織体制、経営陣の透明性、株主の権利、取締役会の独立性など、企業の統治に関連する要素を評価。また、会計基準への遵守、報酬構造、対外的な監査、コーポレート・コンプライアンスなども考慮。

各社のスコア

出典 Daily Mail

こちらが各社のESGスコアだ。左から順に、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(88点)、フィリップ・モリス・インターナショナル(84点)、インペリアル・ブランド(42点)とタバコ会社3社が並ぶ。気候変動やESGの文脈では、やり玉に挙げられることが多い、石油大手シェル(41点)もテスラ(37点)を上回る。
たばこ会社や石油会社が「持続可能なエネルギーへの世界の移行を加速すること」を使命とするテスラよりも高評価を得ているという事実が、直感に反する人も多いかもしれない。

テスラの評価の内訳

出典 S&P

こちらがテスラのE(環境)S(社会)G(ガバナンス)の各点数だ。環境では、業界平均が31のところ、60 点という高得点を獲得している。しかし、次の社会では業界平均が32のところ20 点と大きく平均を下回る。ガバナンスは 34 点(業界平均35点)だった。

歪んだチャート

出典 S&P

さらに詳しく見ていこう。黒線が業界のMAX、黒の点線が業界平均、そして灰色がテスラを示している。突出しているのは、”Automotive use-phase decarbonization” 「自動車の使用段階における脱炭素化」だ。自動車の使用時に発生する炭素排出を削減し、環境への負荷を軽減するための取り組みや技術を指しており、EV製造に力を入れるテスラの事業を考えると納得できる。一方、数値が0になっているのが”Human capital development” 「人的資本開発」だ。これは、個人や従業員のスキル、知識、教育、トレーニング、および能力を向上させ、組織や社会全体の成長と発展に貢献するプロセスを指している。テスラは、労働組合の組織化運動に応じて 30人以上の従業員を解雇したとされるなど、社会的慣行について否定的な見出しを飾ってきており、そうした問題が影響しているとみられる。

多角的な側面で捉える重要性

今回の一件から言えることは、物事を多角的な視点からとらえる必要があるということだ。テスラが地球や環境には優しいが、従業員(つまり人間)にとっては他社よりも厳しい環境であるかもしれない。
また、テスラが車を売れば売るほど、ガソリン車が電気自動車に置き換わるので、地球全体の二酸化炭素排出量は下がるが、テスラだけで見た場合、製造量が増えれば増えるほど、二酸化炭素排出量も増える。GHGプロトコルでは、「テスラの二酸化炭素排出量は増えている」と評価されてしまう。こうした一元的な評価で誤解が生まれないように「削減貢献量」という新たな指標を併用すべきだという議論も起きている。

一方、ESGで高い評価を受けている企業も実態が伴っていない可能性もある。

The Guardian

世界有数の認証機関によって承認され、ディズニー、シェル、グッチ、その他の大企業が利用している森林カーボン・オフセットは、ほとんど無価値で、地球温暖化を悪化させる可能性があることが新たな調査で明らかになった。

ガーディアン

ガーディアンは、シェルなどの大企業は、実際には無価値なカーボンクレジットを購入して、「カーボンニュートラル」や「サステナビリティ」のブランドを掲げていると報じている。

気候変動問題は様々な要因が複雑に絡み合っており、1つの視点からでは理解しきれないことが多いため、物事を多面的にとらえる思考を養うことが求められている。

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