カーボン・ロックインとは

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カーボンロックイン(Carbon Lock-in)とは

カーボン・ロックイン(Carbon Lock-in)とは、化石燃料に依存したインフラや制度、技術が長期にわたり固定されることで、脱炭素化への移行を妨げてしまう構造的な障壁のことである。脱炭素社会の実現には、温室効果ガスの大幅削減を迅速に進める必要があるが、ロックインされた既存構造が変革の足かせとなり、温室効果ガスの排出削減スピードを遅らせる。したがって、脱炭素戦略を設計する上では、どこにロックインのリスクが潜んでいるかを見極め、早期にその解消や回避策を講じることが極めて重要である。

カーボン・ロックインのメカニズム

カーボン・ロックインは、以下のような複数の要素が絡み合うことで生じる。

要素内容
長寿命インフラ発電所、建築物、交通網などは一度建設されると数十年使用されるため、その間に温室効果ガスの排出を継続してしまう。
経済的利害関係既存の産業構造や雇用、地域経済が化石燃料に依存しており、変革に対する抵抗が大きい。
制度や規制の遅れ補助金や優遇税制など、古い産業構造を維持する制度が新技術の普及を阻害する。
社会的慣習・行動様式自動車中心の生活様式や、電力の消費パターンが変わりにくい。
技術的パス依存性(Path Dependency)かつて選ばれた技術や設計が、今後の選択肢を制限してしまう。

具体的なカーボン・ロックインの事例

分野ロックインの例
発電石炭・ガス火力発電所の新設や延命投資(例:新興国の石炭プラント建設)
交通内燃機関車(ガソリン・ディーゼル車)の普及とインフラ(ガソリンスタンド)
建築断熱性能の低い既存住宅、化石燃料による暖房システム
農業合成肥料やディーゼル機械に依存した生産体制
産業高炉製鉄やクリンカセメントといった高温・高炭素プロセス

脱炭素化における課題

  • 早期対応が重要:一度ロックインが起こると、後から変更するには高いコストと時間がかかる。
  • 温室効果ガス排出の長期化:今のインフラ投資が、数十年先まで排出を固定することになる。
  • 新技術の普及遅延:カーボンフリー技術が存在しても、制度やインフラが古いままだと広がらない。
  • “グリーンウォッシング”の温床:部分的な改善で「持続可能性」を主張し、本質的な転換を遅らせる場合もある。

政策的対応と打破のためのアプローチ

対応策内容
カーボンプライシング二酸化炭素排出にコストをかけ、化石燃料の競争力を低下させる。
投資の方向づけ再エネ、ゼロエミ住宅、EVインフラなどへの優先的な公的・民間投資を促進。
制度改革化石燃料への補助金を段階的に撤廃し、脱炭素技術の導入を支援する政策に転換。
トランジション支援雇用や地域経済の移行を支援する「公正な移行(Just Transition)」政策の実施。
ライフスタイル改革の促進モビリティや消費スタイルを見直すためのインセンティブや公共投資。

まとめ

カーボン・ロックインは、目に見えにくいが非常に強力な脱炭素の障壁であり、今日の意思決定が未来の排出パターンを規定してしまう。だからこそ、「排出量を減らす」だけでなく、「ロックインを防ぐ」視点からの政策・投資判断が不可欠である。特に発展途上国や新興国では、これから作るインフラが将来の排出を大きく左右するため、初期段階での適切な方向づけが決定的に重要である。

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