CDR(Carbon Dioxide Removal、二酸化炭素除去)は、大気中のCO₂を取り除き、地球温暖化を抑制するための一連の技術・手法を指します。CDRは、温室効果ガス(GHG)排出量の削減を補完する形で、既に大気中に存在するCO₂を吸収し、持続的に除去することを目指しています。以下、CDRの目的や主要な技術、課題について説明します。

1. CDRの目的

CDRの目的は、温室効果ガスの中で最も影響の大きいCO₂を削減し、気候変動を緩和することにあります。CDR(Carbon Dioxide Removal)は、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて不可欠な技術です。その理由として、現在の排出削減だけでは大気中のCO₂濃度を十分に低下させることが難しいからです。
1850年以降の総CO₂排出量は2.5兆トンに上り、その半分が過去30年以内に排出されました。
さらに、現在も年間500億トンのCO₂が排出され続けています。仮に、1.5℃シナリオに沿って急激な脱炭素化(例:電動化、水素の導入など)を行ったとしても、2050年までには年間5~10ギガトン(Gt)のCO₂を除去する必要があるとされています。これは、温室効果ガス(GHG)の排出をゼロにした上で、世界の年間排出量の約10~20%に相当するCO₂を大気から取り除くことと同等です。

このため、CO₂排出削減に加えて、CDRのように大気中のCO₂を直接除去する技術が不可欠となっています。

https://www.ipcc.ch/working-group/wg3/

出典 IPCC: https://www.ipcc.ch/working-group/wg3

2. 主なCDR技術

CDR技術には、自然の力を利用するものから人工的なシステムまで多様な方法があります。以下、代表的な技術を紹介します:

出典 IPCC: https://www.ipcc.ch/working-group/wg3

  • 植林・森林再生:森林の拡大や再生を通じて、樹木が光合成によって大気中のCO₂を吸収し、炭素を長期間にわたって固定する方法です。これは比較的費用対効果が高いですが、大規模な土地利用が必要です。
  • 土壌炭素隔離:農地や牧草地の管理方法を改善し、土壌に有機物として炭素を蓄える技術です。土壌炭素の固定は、農業の持続可能性向上にも貢献しますが、土壌の性質や気候条件に依存するため、広範なモニタリングが求められます。
  • バイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS):植物が成長する過程でCO₂を吸収し、それを燃料として利用後、排出されるCO₂を回収して地下に貯留する手法です。バイオマスの持続可能な供給とCCS(炭素回収・貯留)技術が必要です。
  • DAC(Direct Air Capture、直接空気回収):空気中のCO₂を専用装置で直接回収し、地下貯留や工業利用に回す技術です。DACは高い精度でCO₂を除去できますが、エネルギーとコストがかかるため、広範な導入には技術改善が求められます。
  • OAE(Ocean Alkalinity Enhancement、海洋アルカリ化増強):海水にアルカリ性物質を添加し、CO₂を吸収しやすくすることで炭素を固定する方法です。生態系への影響や監視体制の確立が課題ですが、海洋資源を活用することで広範な除去が可能です。

3. CDRの課題

CDRの普及・拡大には、以下のような課題が存在します:

  • コストと技術の成熟度:CDR技術の多くは実証段階にあり、広範な導入にはコストが高くなることが多いため、技術革新とコスト削減が必要です。
  • 土地や資源の使用制約:森林再生やBECCSなどの方法では、大規模な土地やバイオマス資源が必要ですが、これが他の土地利用と競合する可能性があります。
  • MRV(Monitoring, Reporting, Verification、モニタリング・報告・検証)の困難さ:CDRの効果を確実に評価するためには、長期間にわたるモニタリングが欠かせませんが、広範なエリアでの実施は高コストであり、環境への影響を含めた信頼性の高いMRVシステムが必要です。
  • 社会的受容性とガバナンス:CDRは気候変動対策として期待されていますが、技術の安全性や持続可能性に関する懸念も存在します。国際的な規制やガバナンスの整備が不可欠であり、社会からの受容性を得るための透明性のあるプロセスが求められます。

4. 将来の展望

CDRは、排出削減と併用することで、ネットゼロを目指すための重要な手段となります。各技術は異なる特性と適用可能性を持っており、地域や状況に応じて最適な組み合わせを導入することが鍵です。「どれか1つの手法が市場をすべて独占する」というよりも、「地域や状況に応じて最適な手法が選択される」といった市場になると予想されます。今後の研究開発や国際的な協力によって、CDRが信頼性の高い気候変動対策として実現することが期待されています。

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