LOHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier、液体有機ハイドロゲンキャリア)は、水素を貯蔵・輸送するための技術の一つです。この技術は、液体有機化合物を利用して水素を安全かつ効率的に運ぶことを目的としています。以下にLOHCの概要を説明します。

LOHCの概要

基本的な仕組み

LOHC技術では、液体有機化合物(例えば、トルエンやジベンジルトルエンなど)をキャリアとして利用します。この液体に水素を化学的に結合させることで、水素を「水素化有機化合物(LOHC-H)」として貯蔵・輸送します。使用する液体有機化合物は常温常圧で液体のため、従来の高圧ガスや低温液化水素と比べて取り扱いやすく、安全性が高いとされています。

水素の解放

目的地に到着したLOHC-Hは、適切な条件下で水素を放出するために「脱水素化」プロセスを経ます。この過程では、化学的に結合していた水素が再び分離され、純粋な水素ガスが得られます。その後、キャリアとなる液体有機化合物(LOHC)は再び利用可能であり、再び水素を貯蔵するために使用されます。

利点

安全性:LOHCは常温常圧で液体状態を保つため、爆発や漏洩のリスクが低いとされています。

輸送の容易さ:既存のインフラ(例えば、石油輸送用のタンクやパイプライン)を利用してLOHCを輸送できるため、輸送コストが低減されます。

再利用可能:キャリア液は繰り返し使用でき、経済的かつ環境負荷の低い技術です。

課題

エネルギー効率:水素をキャリアに結合させる「水素化」と、結合を解いて水素を取り出す「脱水素化」にはエネルギーが必要です。そのため、全体のエネルギー効率が課題となります。

技術の普及:LOHC技術はまだ発展途上であり、大規模な実用化にはさらなる研究開発が求められます。

スタートアップ

以下はLOHC技術に関わる各スタートアップ企業の最新の資金調達ステージと拠点の情報です。

1. Hydrogenious LOHC Technologies GmbH

  • 拠点: ドイツ、エアランゲン
  • 最新の資金調達ステージ: 2024年に€50M(約70億円)の資金調達を完了し、JERA AmericasとTemasekが主導しました。Chevron Technology VenturesやPavilion Capitalも新規投資者として参加しています​ (Vopak)​ (Hydrogenious LOHC Technologies)。
  • 概要: ドイツに拠点を置くHydrogenious LOHC Technologiesは、LOHC技術の開発と商業化においてリーダー的な存在です。彼らの技術は、トルエンをキャリアとして使用し、水素を安全に貯蔵・輸送することを可能にします。特に、水素ステーションや工業用途での水素供給に重点を置いています。
  • 特長: 既存の石油化学インフラを利用できるため、初期コストを抑えつつ、効率的な水素供給が可能です。また、LOHC技術の実用化に向けたパイロットプロジェクトや商業プロジェクトをいくつか実施しています。

2. HySIL

  • 拠点: スイス
  • 最新の資金調達ステージ: 不明
  • 概要: HySILは、スイスに拠点を置くスタートアップで、LOHC技術の商業化を目指しています。同社は、エネルギー密度が高く、長期間の水素貯蔵に適したLOHCを開発しています。
  • 特長: HySILの技術は、従来の水素貯蔵方法と比べて安全性が高く、輸送が容易であることが強みです。また、グリーン水素の普及に貢献するためのパートナーシップやコラボレーションを進めています。

3. H2 Industries

  • 拠点: ドイツ
  • 最新の資金調達ステージ: H2 Industriesは2021年に€35M(約48億円)の資金調達を実施。
  • 概要: ドイツに拠点を置くH2 Industriesは、水素の生成、貯蔵、および輸送に関連する技術を開発しています。LOHC技術を活用して、水素の長期保存と輸送を可能にし、再生可能エネルギーとの連携を図っています。
  • 特長: H2 Industriesは、モジュール式のLOHCソリューションを提供し、特にオフグリッドエネルギー供給やリモートエリアでの水素利用に焦点を当てています。

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